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3 疑 惑
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誰かが俺を撃ったことだけは間違いがない?
刑事課にくる前は生活安全課にいた。その時には、悪事に染まり出した少年を補導したこともあるし、ここを地盤としているヤクザ、谷口組の組員を逮捕したこともある。奴らは、俺を憎んでいる。だが、俺を殺したいとまで思っているかだ?
ともかく、俺は銃で撃たれた。そのことから考えると、銃を持っている者が犯人ということになる。すると、警察の中にも犯人がいる可能性がある。特に、俺が中島公園の瓢箪池の周りを捜査していることを知っていた者ということになる。
俺たちがのっているパトカーに無線で連絡が入った。
助手席にすわっていた岡田がマイクを手にとり、通信指令センターと話をしていた。話が終わると、岡田は後ろを向いた。
「いま連絡が入った。パトロールにでた機捜(機動捜査隊)が星を捕らえたそうだよ」
「じゃ、署に戻って状況が見えるまで泊まり込むしかないですね」と、相馬が言った。
「いや、もうそんな必要はないだろう」
話をしていると、パトカーは道路沿いにある焼肉屋気楽の前を通った。焼肉屋の灯りと赤ちょうちんを見ると、俺は急激に空腹を覚え出した。それも、抑えきれない食の欲望だった。
「じゃ、自宅待機でも、かまわないですよね?」
「そりゃ、そうだが」
驚いたように岡田は眼を細めて俺を見た。突然、俺が大きい声を出したからだ。だが、自分でも、どうして、そんなに大きな声を出したのか、わからない。
「止めてもらっていいですか? 少し歩いて帰りたいんだ」
「おい、止めてやれや」
岡田は、運転をしている盗犯係の安田に命じると、安田は急ブレーキをかけてパトカーを止めた。
「洋、家に帰るのに、こんな所でいいのかな?」
「いいすよ、ここで。ご心配なく、明日は出勤時間までには署に行きますから」
車の後部ドアを開けて、俺はおりた。パトカーは走り出していく。すぐに俺はパトカーに背を向けると早足になった。
焼肉屋特有の肉と脂のこげた匂いが漂ってくると、やがて赤ちょうちんが見えてきた。店の前に立つと焼肉屋の引き戸を、音を立てて開けた。店の中から煙と一緒に人声が聞こえ出し、俺は足を入れた。
遅い時間だ。店の中は、自分の店を閉めてきた飲食店経営者やタクシー運転手たちが、席をにぎわせていた。俺は空いているカウンター席をみつけ、そこにすわり込んだ。常連とは言えないが、この店には何度も来ている。
「おまかせ定食でいいね」と、白髪をかりあげた頭に鉢巻をまいた店主が声をかけてきた。
「親父、それとビール」と、俺は言った。おまかせ定食は、いろんな部位にある肉を二切れずつではあるが一通りつき、ご飯、味噌汁、それに漬物まで付くセットだ。それで二千円だった。つまり、安月給取りの警察官には、ぴったりのメニューなのだ。
店主は俺の前にビンビールとコップを置いた。次に小型の火鉢を置いてくれ、その上に網をしいた。それから、各種の肉を並べた大皿をおき、ご飯と豆腐の味噌汁、さらにナスの漬物がおかれた。もちろん、たれを入れる小皿と箸は、前持って置かれている。俺は箸を手にとると、すぐに網の上に肉をおき焼きだした。ほとんど生に近いままで口に入れ、飯をかっこんだ。
(もっと、肉が食いたい。肉が)
俺の中から、声が聞こえてきた。侵入者の声だ。すぐに俺は店主の方に顔をあげた。
「追加してタン三人前。それにハラミも二人前」
「あいよ。洋さん。特別手当でも出たのかい?」
俺は首を横にふった。ともかく、食欲は止まらない。さらに、三回も注文を出していた。おかげで、店を出るときには、二万円もの金を払ってしまった。
店を出ると、俺は家に向かって歩き出した。汗をかくほど早足で歩いた。それは、お腹がきつくなったおかげで、眠気がさしていたからだ。路上で眠るわけにはいかない。それに俺が眠ると、侵入者が勝手に動き出してしまいどんな行動をするのか分からなかったからだ。
だが、眠気には勝てなかった。家につくと、投げ捨てるように服をぬぎ、裸になるとすぐにベッドに飛び込んでいった。この家に俺は一人。父の片倉淳一郎が殺されると、母の百合も三年後には心労のためか、父の後を追うように死んでいった。
俺が眠りに入ると暗い星の中を飛んでいた。どのくらいの間、飛んでいたのだろうか?隕石としか思えない物が見え出した。それは宇宙に浮かんでいる。すると、俺が、いや侵入者がそれを追いかけ出したのだ。隕石は逃げ出していった。隕石は、どんどん小さくなり出し青い星に向かっていた。間違いない。あれは、地球だ!
そこで、俺は眼がさめた。体じゅうから汗を噴き出し濡れていた。
刑事課にくる前は生活安全課にいた。その時には、悪事に染まり出した少年を補導したこともあるし、ここを地盤としているヤクザ、谷口組の組員を逮捕したこともある。奴らは、俺を憎んでいる。だが、俺を殺したいとまで思っているかだ?
ともかく、俺は銃で撃たれた。そのことから考えると、銃を持っている者が犯人ということになる。すると、警察の中にも犯人がいる可能性がある。特に、俺が中島公園の瓢箪池の周りを捜査していることを知っていた者ということになる。
俺たちがのっているパトカーに無線で連絡が入った。
助手席にすわっていた岡田がマイクを手にとり、通信指令センターと話をしていた。話が終わると、岡田は後ろを向いた。
「いま連絡が入った。パトロールにでた機捜(機動捜査隊)が星を捕らえたそうだよ」
「じゃ、署に戻って状況が見えるまで泊まり込むしかないですね」と、相馬が言った。
「いや、もうそんな必要はないだろう」
話をしていると、パトカーは道路沿いにある焼肉屋気楽の前を通った。焼肉屋の灯りと赤ちょうちんを見ると、俺は急激に空腹を覚え出した。それも、抑えきれない食の欲望だった。
「じゃ、自宅待機でも、かまわないですよね?」
「そりゃ、そうだが」
驚いたように岡田は眼を細めて俺を見た。突然、俺が大きい声を出したからだ。だが、自分でも、どうして、そんなに大きな声を出したのか、わからない。
「止めてもらっていいですか? 少し歩いて帰りたいんだ」
「おい、止めてやれや」
岡田は、運転をしている盗犯係の安田に命じると、安田は急ブレーキをかけてパトカーを止めた。
「洋、家に帰るのに、こんな所でいいのかな?」
「いいすよ、ここで。ご心配なく、明日は出勤時間までには署に行きますから」
車の後部ドアを開けて、俺はおりた。パトカーは走り出していく。すぐに俺はパトカーに背を向けると早足になった。
焼肉屋特有の肉と脂のこげた匂いが漂ってくると、やがて赤ちょうちんが見えてきた。店の前に立つと焼肉屋の引き戸を、音を立てて開けた。店の中から煙と一緒に人声が聞こえ出し、俺は足を入れた。
遅い時間だ。店の中は、自分の店を閉めてきた飲食店経営者やタクシー運転手たちが、席をにぎわせていた。俺は空いているカウンター席をみつけ、そこにすわり込んだ。常連とは言えないが、この店には何度も来ている。
「おまかせ定食でいいね」と、白髪をかりあげた頭に鉢巻をまいた店主が声をかけてきた。
「親父、それとビール」と、俺は言った。おまかせ定食は、いろんな部位にある肉を二切れずつではあるが一通りつき、ご飯、味噌汁、それに漬物まで付くセットだ。それで二千円だった。つまり、安月給取りの警察官には、ぴったりのメニューなのだ。
店主は俺の前にビンビールとコップを置いた。次に小型の火鉢を置いてくれ、その上に網をしいた。それから、各種の肉を並べた大皿をおき、ご飯と豆腐の味噌汁、さらにナスの漬物がおかれた。もちろん、たれを入れる小皿と箸は、前持って置かれている。俺は箸を手にとると、すぐに網の上に肉をおき焼きだした。ほとんど生に近いままで口に入れ、飯をかっこんだ。
(もっと、肉が食いたい。肉が)
俺の中から、声が聞こえてきた。侵入者の声だ。すぐに俺は店主の方に顔をあげた。
「追加してタン三人前。それにハラミも二人前」
「あいよ。洋さん。特別手当でも出たのかい?」
俺は首を横にふった。ともかく、食欲は止まらない。さらに、三回も注文を出していた。おかげで、店を出るときには、二万円もの金を払ってしまった。
店を出ると、俺は家に向かって歩き出した。汗をかくほど早足で歩いた。それは、お腹がきつくなったおかげで、眠気がさしていたからだ。路上で眠るわけにはいかない。それに俺が眠ると、侵入者が勝手に動き出してしまいどんな行動をするのか分からなかったからだ。
だが、眠気には勝てなかった。家につくと、投げ捨てるように服をぬぎ、裸になるとすぐにベッドに飛び込んでいった。この家に俺は一人。父の片倉淳一郎が殺されると、母の百合も三年後には心労のためか、父の後を追うように死んでいった。
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