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11ファンクラブ結成
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楽器店夕べの小スペースで行える小演奏会の客席は三十席しかない。それでも、ちゃんと入場券用のチケットを一枚千円で売っていた。私はそのチケットを地下鉄駅の上り口で通りかかる若い人たちに声をかけて売っていた。それは、チケットの売り上げのためよりも、歌手となった隼斗の名前を少しでも多くの人に知ってもらいたかったのだ。
「あんた、何をやっているの?」
そんな時に、弘子に出会ってしまった。彼女は私に近づき、手にもっていたチケットをのぞき込んでいる。
「へえ、隼斗、こんなことに手を出していたんだ」
「買ってくれる?」
「いらないわよ。有名な歌手なら、一万円を出しても買うけど」
そう言って笑い、弘子は地下鉄駅への階段をおりていった。
誰も先のことはわからない。
私は必死に小演奏会のチケットを売り続けて、三か月は経っただろうか。やがて、隼斗が口コミで評判になりだし、テレビ局のイブニングナウという番組で隼斗が歌い演奏をしている様子が放映されたのだ。
すると地元のプロダクション・ケイが楽器店夕べにやってきた。隼斗を歌手として売り出したいと言い出していた。楽器店夕べの田中さんがプロダクション・ケイとの交渉役、臨時のマネジャー役を買って出ていた。
市の本賀劇場で隼斗がライブをやりだすと、不知女子大学のゼミ教室まで弘子が私を訪ねてやってきた。隼斗のライブのことが地元新聞の文化欄にのっていたからに違いなかった。
「お互いに情報交換をしない?」
「べつに、しなければならないことなんて、ないけど」
「隼斗のことよ」
「えっ、あなた、隼斗をふったのじゃなくって」
「人聞きの悪いことを言わないでよ。ちょっと喧嘩別れをしていただけよ」
「この前、一緒に歩いていた人はどうするのよ!」
「あなたには、分からないでしょうけど。私ぐらいになると、隼斗と同じようにいい男が近づいてくるものなのよ。そんな男の子にも気をつかわなければならないでしょう」
少しの間、私は弘子にいうべき言葉を探した。しかし、思いつかない。
「私ね。同北大学に隼斗のファンクラブを立ち上げようと思うの」
「えっ、本当?」
私は少しでも隼斗の役に立ちたいと考えていた。だから、弘子の話を聞くことにしたのだ。
「どうするのよ」
「私ね。これでも大学祭の役員の一人なの。大学祭で隼斗は、ライブをやるべきよ。その前に私の大学でファンクラブをつくる。どうお?」
「ぜひ、お願いをするわ」
「その代わり隼斗との中を取り持ってもらいたいのよ」
それには、お人よしすぎる私でもすぐに答えることはできなかった。その話を隼斗にすることを決めるのに、一晩、かかってしまっていた。
次の日の午後三時、私は楽器店夕べに行った。そこで、隼斗に弘子が言っていたことを伝えた。隼斗は不快感を隠さないで私の話を聞いていた。
「その話はのるべきだわ」と言って、横から話に入り込んできた者がいた。私と隼斗は、思わず声のした方に顔をむけた。そこには、中年の女が立っていた。髪はブラウンに染め、着ている物は明らかにブランド品だった。
「突然、失礼」
そう言いながら、女は名刺を出して私と隼斗にそれぞれ一枚ずつくれた。受け取った名刺には、マコトプロの主任マネジャー深町真理子と書かれていた。
「はっきり、言うわ。私、隼斗を日本で通用する歌手に育てあげたいの。私の会社から一任の了解も得ているし、地元のケイとも協力を続けることになっているわ」
真理子の強い視線に、傲慢さと同時に成功をし続けてきた者のもつ自信が見えていた。
「まずは、ファンを組織していくことが必要よ。あなたもそう思わない」
私はあわてて、名前をいい、大学の学生であることを話した。
「じゃ、あなたの大学でもファンクラブを作らなくちゃ」
私は、頭を大きくさげていた。
「歌手活動って、ビジネスとしてやっていかなければならない面があるのよ。私がそう言う面を教えてあげるわ。弘子さんとどういうことがあったのかは、私は知らないわ。でも、利益を得ることが分かっているのだから会うべきよ」
隼斗は、大きなため息を一つついていた。そして、それは真理子の考えを受け入れた証しだった。
一番合わせたくなかったのは、私だったと思う。でも、真理子の話を聞いた後、すぐに弘子に連絡をした。弘子は喜んでいた。
三日後。同北大学の学生会館で隼斗は弘子と一緒にファンクラブを作ってくれる仲間たちと会うことになった。
この場所に、真理子はついてきた。どうすればうまくファンクラブを作れるか、弘子に教えるためであった。同時に隼斗が困ることが起きないように守るためでもあったのだ。
隼斗は、弘子に対して愛想笑いをし続けていた。だが、隼斗はもう弘子に心を動かされることはなかった。奇妙な安堵感を感じながら、私はファンクラブの発起人たちを見つめていた。
「あんた、何をやっているの?」
そんな時に、弘子に出会ってしまった。彼女は私に近づき、手にもっていたチケットをのぞき込んでいる。
「へえ、隼斗、こんなことに手を出していたんだ」
「買ってくれる?」
「いらないわよ。有名な歌手なら、一万円を出しても買うけど」
そう言って笑い、弘子は地下鉄駅への階段をおりていった。
誰も先のことはわからない。
私は必死に小演奏会のチケットを売り続けて、三か月は経っただろうか。やがて、隼斗が口コミで評判になりだし、テレビ局のイブニングナウという番組で隼斗が歌い演奏をしている様子が放映されたのだ。
すると地元のプロダクション・ケイが楽器店夕べにやってきた。隼斗を歌手として売り出したいと言い出していた。楽器店夕べの田中さんがプロダクション・ケイとの交渉役、臨時のマネジャー役を買って出ていた。
市の本賀劇場で隼斗がライブをやりだすと、不知女子大学のゼミ教室まで弘子が私を訪ねてやってきた。隼斗のライブのことが地元新聞の文化欄にのっていたからに違いなかった。
「お互いに情報交換をしない?」
「べつに、しなければならないことなんて、ないけど」
「隼斗のことよ」
「えっ、あなた、隼斗をふったのじゃなくって」
「人聞きの悪いことを言わないでよ。ちょっと喧嘩別れをしていただけよ」
「この前、一緒に歩いていた人はどうするのよ!」
「あなたには、分からないでしょうけど。私ぐらいになると、隼斗と同じようにいい男が近づいてくるものなのよ。そんな男の子にも気をつかわなければならないでしょう」
少しの間、私は弘子にいうべき言葉を探した。しかし、思いつかない。
「私ね。同北大学に隼斗のファンクラブを立ち上げようと思うの」
「えっ、本当?」
私は少しでも隼斗の役に立ちたいと考えていた。だから、弘子の話を聞くことにしたのだ。
「どうするのよ」
「私ね。これでも大学祭の役員の一人なの。大学祭で隼斗は、ライブをやるべきよ。その前に私の大学でファンクラブをつくる。どうお?」
「ぜひ、お願いをするわ」
「その代わり隼斗との中を取り持ってもらいたいのよ」
それには、お人よしすぎる私でもすぐに答えることはできなかった。その話を隼斗にすることを決めるのに、一晩、かかってしまっていた。
次の日の午後三時、私は楽器店夕べに行った。そこで、隼斗に弘子が言っていたことを伝えた。隼斗は不快感を隠さないで私の話を聞いていた。
「その話はのるべきだわ」と言って、横から話に入り込んできた者がいた。私と隼斗は、思わず声のした方に顔をむけた。そこには、中年の女が立っていた。髪はブラウンに染め、着ている物は明らかにブランド品だった。
「突然、失礼」
そう言いながら、女は名刺を出して私と隼斗にそれぞれ一枚ずつくれた。受け取った名刺には、マコトプロの主任マネジャー深町真理子と書かれていた。
「はっきり、言うわ。私、隼斗を日本で通用する歌手に育てあげたいの。私の会社から一任の了解も得ているし、地元のケイとも協力を続けることになっているわ」
真理子の強い視線に、傲慢さと同時に成功をし続けてきた者のもつ自信が見えていた。
「まずは、ファンを組織していくことが必要よ。あなたもそう思わない」
私はあわてて、名前をいい、大学の学生であることを話した。
「じゃ、あなたの大学でもファンクラブを作らなくちゃ」
私は、頭を大きくさげていた。
「歌手活動って、ビジネスとしてやっていかなければならない面があるのよ。私がそう言う面を教えてあげるわ。弘子さんとどういうことがあったのかは、私は知らないわ。でも、利益を得ることが分かっているのだから会うべきよ」
隼斗は、大きなため息を一つついていた。そして、それは真理子の考えを受け入れた証しだった。
一番合わせたくなかったのは、私だったと思う。でも、真理子の話を聞いた後、すぐに弘子に連絡をした。弘子は喜んでいた。
三日後。同北大学の学生会館で隼斗は弘子と一緒にファンクラブを作ってくれる仲間たちと会うことになった。
この場所に、真理子はついてきた。どうすればうまくファンクラブを作れるか、弘子に教えるためであった。同時に隼斗が困ることが起きないように守るためでもあったのだ。
隼斗は、弘子に対して愛想笑いをし続けていた。だが、隼斗はもう弘子に心を動かされることはなかった。奇妙な安堵感を感じながら、私はファンクラブの発起人たちを見つめていた。
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