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第一話 クマさん2
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次の日。
お祖母ちゃんとお母さんはいっしょにぬいぐるみ屋さんに行った。舞も二人について行くことができたのは、昨日の夜、お母さんに舞が学校から帰ってきてから出かけることにしてねと頼んでいたからだ。
やがて、三人は、ぬいぐるみ屋さんのお店に入った。
「おばあさん、おひさしぶり」
と、お祖母ちゃんはぬいぐるみ屋さんに声をかけた。
舞はえっと声を出しそうになる。お祖母ちゃんがぬいぐるみ屋さんをおばあさんと呼んでいたからだ。ぬいぐるみ屋さんをおばあさんと呼んでいたことは、お祖母ちゃんよりも年寄りだったことになる。
いったい、ぬいぐるみ屋さんは何歳なのか?
「佳代ちゃんも元気だったかい?」
「おかげさまで」
佳代はお祖母ちゃんの名前だ。ぬいぐるみ屋さんに名前を呼ばれたお祖母ちゃんは、少女のように口に手を当てて笑った。
「前に頼んでいたクマさんの修理、終わっているわよね?」
「そりゃ、そうだよ。ちゃんと治しているよ」
ぬいぐるみ屋さんはガラスケースの後ろにある戸口から隣の部屋に入っていた。しばらくして、ぬいぐるみ屋さんは赤ちゃんのような大きさのぬいぐるみを抱いて出てきた。
「ほら、ちゃんと治っているだろう」
「ほんとだ。ぬいぐるみ屋さん、ありがとう」
それまで、お祖母ちゃんの後ろで口をとがらしていたお母さんがお祖母ちゃんの前に出てきた。
「げんきんなこだね」
お祖母ちゃんは顔をしかめていたが、だがそんなことを気にもせずにお母さんはクマさんを抱きしめている。
「ちゃんと包装紙に包んであげますよ」
ぬいぐるみ屋さんは、両手をあげてお母さんに近づいてきた。
「ぬいぐるみ屋さん、いいのよ。このまま抱いて帰るから」
「えっと、修理代を払っていなかったね。いくらだい?」
と言って、お祖母ちゃんが懐から市松模様の財布を出した。
「いいよ。サービスしておくよ。昔はいろんなぬいぐるみを買ってもらったからね」
「そういうわけにもいかないよ。長い間保管してもらっていたのだから、保管料も払わないとならないしね」
「そこまで言うならば、何か別のぬいぐるみを買ってもらおうかな」
ぬいぐるみ屋さんは舞の方を見ながら言っていた。お祖母ちゃんは、ぬいぐるみ屋さんの視線を追って舞を見た。
お祖母ちゃんに見られた舞は思わず顔を赤くした。舞は買いたいと思っているキツネのぬいぐるみを抱いていたからだ。
「舞、そのぬいぐるみ、欲しいのかい?」
すぐに、舞は大きくうなずく。
「孫の願いだもの、買わない訳にはいかないね」
とお祖母ちゃんが言うと、ぬいぐるみ屋さんはにっこりと笑っていた。ぬいぐるみ屋さんは、舞の気持ちを前から見抜いていたのだ。
「キツネさんは、ちゃんと箱に入れて、包装してあげますよ」
ぬいぐるみ屋さんが両手を出してきたので、舞はぬいぐるみのキツネをさし出した。
「よかったね」
ぬいぐるみ屋さんは、キツネのぬいぐるみの顔に近づけて声をかけた。すると、キツネの目がまるで生きている動物のように光り出した。
その後、ぬいぐるみ屋さんは、キツネのぬいぐるみを水玉模様の包装紙に包み、さらに包装紙と同じ水玉模様のついた紙袋に入れて舞に持たせてくれた。
お祖母ちゃんがお金を払った時、お母さんが声を出していた。
「お祖母ちゃん、すいませんね。舞がわがままなもんですから」
でも、それは言葉だけだ。お祖母ちゃんが支払いをしている間、お母さんは財布を出すふりもしなかった。
「さあ、そろそろ、おいとまをしようかね」
おばあちゃんは、ぬいぐるみ屋さんに向かって、片手をあげた。ぬいぐるみ屋さんは笑顔を三人に向けている。
クマさんを抱いたお母さんは、一番先に店の外に出ていった。
舞は水玉模様の紙袋をさげたままで、ためらっていた。
それは、ぬいぐるみ屋さんの年はいくつなのか、聞かなければと思っていたからだ。だが、それを言い出すための言葉が思いつかない。
「舞、なごりおしいだろうけど、帰ろうかね」
お祖母ちゃんにそう言われたので、ぬいぐるみ屋さんに聞くのはもう一度この店に来た時にすることにした。
「ぬいぐるみ屋さん、また来ます」
舞は挨拶を終えると、お祖母さんの後について店を出た。
お祖母ちゃんとお母さんはいっしょにぬいぐるみ屋さんに行った。舞も二人について行くことができたのは、昨日の夜、お母さんに舞が学校から帰ってきてから出かけることにしてねと頼んでいたからだ。
やがて、三人は、ぬいぐるみ屋さんのお店に入った。
「おばあさん、おひさしぶり」
と、お祖母ちゃんはぬいぐるみ屋さんに声をかけた。
舞はえっと声を出しそうになる。お祖母ちゃんがぬいぐるみ屋さんをおばあさんと呼んでいたからだ。ぬいぐるみ屋さんをおばあさんと呼んでいたことは、お祖母ちゃんよりも年寄りだったことになる。
いったい、ぬいぐるみ屋さんは何歳なのか?
「佳代ちゃんも元気だったかい?」
「おかげさまで」
佳代はお祖母ちゃんの名前だ。ぬいぐるみ屋さんに名前を呼ばれたお祖母ちゃんは、少女のように口に手を当てて笑った。
「前に頼んでいたクマさんの修理、終わっているわよね?」
「そりゃ、そうだよ。ちゃんと治しているよ」
ぬいぐるみ屋さんはガラスケースの後ろにある戸口から隣の部屋に入っていた。しばらくして、ぬいぐるみ屋さんは赤ちゃんのような大きさのぬいぐるみを抱いて出てきた。
「ほら、ちゃんと治っているだろう」
「ほんとだ。ぬいぐるみ屋さん、ありがとう」
それまで、お祖母ちゃんの後ろで口をとがらしていたお母さんがお祖母ちゃんの前に出てきた。
「げんきんなこだね」
お祖母ちゃんは顔をしかめていたが、だがそんなことを気にもせずにお母さんはクマさんを抱きしめている。
「ちゃんと包装紙に包んであげますよ」
ぬいぐるみ屋さんは、両手をあげてお母さんに近づいてきた。
「ぬいぐるみ屋さん、いいのよ。このまま抱いて帰るから」
「えっと、修理代を払っていなかったね。いくらだい?」
と言って、お祖母ちゃんが懐から市松模様の財布を出した。
「いいよ。サービスしておくよ。昔はいろんなぬいぐるみを買ってもらったからね」
「そういうわけにもいかないよ。長い間保管してもらっていたのだから、保管料も払わないとならないしね」
「そこまで言うならば、何か別のぬいぐるみを買ってもらおうかな」
ぬいぐるみ屋さんは舞の方を見ながら言っていた。お祖母ちゃんは、ぬいぐるみ屋さんの視線を追って舞を見た。
お祖母ちゃんに見られた舞は思わず顔を赤くした。舞は買いたいと思っているキツネのぬいぐるみを抱いていたからだ。
「舞、そのぬいぐるみ、欲しいのかい?」
すぐに、舞は大きくうなずく。
「孫の願いだもの、買わない訳にはいかないね」
とお祖母ちゃんが言うと、ぬいぐるみ屋さんはにっこりと笑っていた。ぬいぐるみ屋さんは、舞の気持ちを前から見抜いていたのだ。
「キツネさんは、ちゃんと箱に入れて、包装してあげますよ」
ぬいぐるみ屋さんが両手を出してきたので、舞はぬいぐるみのキツネをさし出した。
「よかったね」
ぬいぐるみ屋さんは、キツネのぬいぐるみの顔に近づけて声をかけた。すると、キツネの目がまるで生きている動物のように光り出した。
その後、ぬいぐるみ屋さんは、キツネのぬいぐるみを水玉模様の包装紙に包み、さらに包装紙と同じ水玉模様のついた紙袋に入れて舞に持たせてくれた。
お祖母ちゃんがお金を払った時、お母さんが声を出していた。
「お祖母ちゃん、すいませんね。舞がわがままなもんですから」
でも、それは言葉だけだ。お祖母ちゃんが支払いをしている間、お母さんは財布を出すふりもしなかった。
「さあ、そろそろ、おいとまをしようかね」
おばあちゃんは、ぬいぐるみ屋さんに向かって、片手をあげた。ぬいぐるみ屋さんは笑顔を三人に向けている。
クマさんを抱いたお母さんは、一番先に店の外に出ていった。
舞は水玉模様の紙袋をさげたままで、ためらっていた。
それは、ぬいぐるみ屋さんの年はいくつなのか、聞かなければと思っていたからだ。だが、それを言い出すための言葉が思いつかない。
「舞、なごりおしいだろうけど、帰ろうかね」
お祖母ちゃんにそう言われたので、ぬいぐるみ屋さんに聞くのはもう一度この店に来た時にすることにした。
「ぬいぐるみ屋さん、また来ます」
舞は挨拶を終えると、お祖母さんの後について店を出た。
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