飛べ、ミラクル!

矢野 零時

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9 山の中で

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 ミラクルは、がけ下の草の上に横たわっていました。朝がきて、青い空に白い雲が見えました。白い雲は少しずつ形がかわっていきます。先ほどは、カモメのように見えていましたが、今は白いゾウのように見えています。
 そんな時に、大きな木からリスがおりてきました。
「きみは、どうして、ここにいるんだい?」
「カナちゃんといっしょに遠足にきて、はなれてしまったんだ」
「じゃ、カナちゃんは、きみをさがしているよ!」
「そうだよね。きのうは、カナちゃんがぼくをよんでいる声が聞こえた。でも、カナちゃんは、この場所がわからなかったみたいなんだ?」
 リスは、むずかしいことには答えられないので、ドングリを見つけると、それをくわえて木の上にもどって行きました。
 山の天気はかわりやすいものです。次の日から雨がふりだし、しばらくの間、雨の日がつづきました。やがて、また朝から雲一つなく、空じゅうに青いペンキをぬったような日がきました。
 天気がよくなったので、リスが木からおりてきました。
「まだ、カナちゃん、むかえにこないね」
「うん」と、ミラクルはさびしそうに言いました。あまり、さびしそうだったので、リスは「カナちゃんがむかえにくるまで、きみは何かしていればいいよ。何かすることはないの?」と、元気づけるように言いました。
「そうだ。ぼくは、地球をすくわなければならない!」
「そうなの?」
「大きくなって、地球にやってきた宇宙怪獣とたたかい、宇宙へ旅立つんだ」
 リスは首をかしげて、しばらくミラクルを見つめていましたが、やはり、リスには、わからないことなので、木にもどって行きました。
 また、何日か、たちました。
 今日の空の雲は、たくさんの小さな魚がおよいでいるように見えました。そんな時に、赤トンボが飛んできてミラクルの頭にとまりました。
「どうして、いつもこんな所にいるの?」と、赤トンボが聞きました。
「カナちゃんが、むかえにきてくれるのを待っているんだ!」
「そうなの?でも、もう秋だよ。もう少ししたら、木の葉がドンドンと落ちてくるよ。次に冬がきて白い雪がふったら、その下にうずもれてしまうんだよ」
「きみは、雪を知っているんだね」
「ちがうんだ。冬をこしたテントウムシに聞いた話だよ。ぼくは、冬まで生きてはいられないらしい」
 赤トンボは、言いたいだけ言うと、飛んで行ってしまいました。
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