飛べ、ミラクル!

矢野 零時

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1 ミラクル

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「お兄ちゃんは、いいな。わたしもミラクルがほしい!」
「これは、ぼくのミラクル。お金をためて、やっと買ったんだよ。カナは、おこづかいをもらうたびに、いろんな物を買っているんだろう!」
 お兄ちゃんにそう言われると、カナは口先をとがらせました。口をとがらせるのは、カナのくせでした。でも、お兄ちゃんの言うとおりです。おこづかいで、カナは、ドーナツを買ったり、シールを買ったりして、お金をみんなつかっていました。
 お兄ちゃんが手にしているミラクルは、おもちゃのロボットです。少し前には、水玉もようのほうそう紙につつまれ、箱の中に入っていました。
 お兄ちゃんは、うでを組み、しばらくの間、首をかたむけていました。
「そうだ!」と言って、お兄ちゃんは、本箱の一番上のたなにあったすべての本を下におろしました。次に、おし入れの戸をあけ、おろした本ぜんぶを、その中に入れてしまったのです。そして、何もないたなの上に、箱から出したばかりのミラクルを立たせたのでした。右手をあげるポーズをつけると、お兄ちゃんは、まんぞくそうにミラクルを見あげました。
「カナ、ぜったい、ミラクルにはさわるな!これは、ぼくのたから物」
 そう言うと、お兄ちゃんはいやがるカナのせをおしながら、カナといっしょに部屋から出ていきました。
 お兄ちゃんに両手でかかえあげられた時から、ミラクルは目がさめていました。ですから、本箱の高いたなから、部屋じゅうをミラクルは見ることができたのです。正面のかべに、へたくそなチューリップの絵がはってありました。その絵の右下に書かれていた字から、お兄ちゃんの名前がカズキであることを知りました。
 机の前のかべに、大きなポスターがはられ、それにはミラクルのよこ顔がえがかれていて、テレビのアニメでかつやくしているロボットがミラクルであることも書いてありました。
 目ざめたミラクルは自分がすべきことが何なのか、ちゃんとわかっていました。
 そうです!
 いつの日にか、宇宙怪獣が地球にやってきます。地球をすくうために、ミラクルは大きくなって宇宙怪獣とたたかい、たくさんの星がかがやく宇宙へ旅立つのです。その時がくるまでは、本箱のたなの上にいなければと、ミラクルは思っていました。
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