15 / 27
15薬作り着手
しおりを挟む
月のしずくを手に入れて城に戻った私は、すぐにでも王の部屋に飛び込みたかった。
だが、私がすべきことは何なのか分かっている。まず一日でも早く採ってきた月のしずくを薬に作り上げなければならない。私が王と会える時は、作り上げた薬を王に渡すことができる時だ。
そこで、私はすぐにアンナを探した。アンナには私が死んでいた時に私がやっていたことを、やってもらえるように教え込んでいた。だから、協力をしてもらうとすれば、アンナに頼むしかない。
私の部屋の前の通路でアンナに出会った。
「ナターシャ様、ご無事でなによりです」と、アンナは涙ぐんでくれた。
「月のしずくを採ってくることができたわ」
「それはようございましたね」
「さっそく薬を作りたいの」
「お手伝いをいたしますが、どのようにいたしますか?」と、アンナは不安げに眉を八の字によせた。
「ちょっと、待ってね」と、私は言った。
私も月のしずくを薬に作ったことはない。だが、亡くなられた王妃が使っていた図書室に植物総合図録という本があって、その中に薬にする方法も書かれていたのだ。それをよりどころに、私は薬作りを進めるつもりでいた。
私は竹かごを背負ったまま、図書室に行き、その本を見つけると、それを持ってアンナのところに戻った。
「調理台の一つを使わしてくれる」
「調理室の一つをいまは薬作り専用室にしてございます。そこに調理台がありますので、それをお使いください」
私はアンナに案内をされて専用室に行き、背中にせおってきた竹かごの中の物を調理台の上に開けた。白く可憐な花がついている植物が山に積まれることになった。
その時に、私は月のしずくの根がしっかりついているのを、三房とりあげた。
「これを、薬草庭園の使っていない場所に植えてきてちょうだい」
「はい、かしこまりました」と言って、アンナは私からそれを受け取るとすぐに専用室から出て行った。
持ってきた月のしずくだけでは、王をなおす薬の原料として足りないかもしれない。もし、庭に植えて増えてくれれば、それをすぐ使うことができるはずだ。だが、私が勝手に思い込んでも、月のしずくは庭園で育たないかもしれない。ともかく、これをやってみる価値はある。
専用室に残った私は、本を読みながら作業を進める。
「まず、泥や小石を取り除いてもらおうかな。それに枯れた草はよけてちょうだい」
私が指示をだすと、アンナが連れて来た侍女たちは調理台を囲んでゴミと思える物をとりのぞきだした。
「その後、薬草を水洗いをするのだけど、井戸から組んだ水を使わないでください」
「どうすればいいんですか。鍋に水を入れて煮て欲しいのよ」
「そんなことをする必要があるのですか?」
「水を熱で殺菌するためよ」と、私は疑問を口にした侍女たちに答える。
大鍋で煮たお湯を今度はしゃもじを廻して冷やし、冷やし終わった水を使って月のしずくを侍女たちは洗い出した。 洗った月のしずくを彼女らはザルに分けて入れていた。
「この後、いかがいたしましょうか?」と、庭園から戻ってきたアンナが聞いてきた。
「本によれば、三通りの薬、塗り薬、粉薬、水薬が作れるらしい。だから、三通りの薬を作ってみるわ」
そのために、月のしずくを二つわけて、半分を専用室の窓辺に並べておき、干すことにした。
アンナは、侍女たちと一緒に半分の月のしずくを窓辺に運んだ。下に大きな敷布をしき、その上に、月のしずくがくつかないように間をおいて並べた。窓辺は南に向いていたので、日が出さえすれば、いつも光があたり、薬草を乾かし続けてくれるはずだ。月のしずくが渇いたならば、これを鉢に入れてすり、粉にする。粉になった月のしずくはそのまま粉薬として使うことができるし、この粉にごま油を入れて練り上げると塗り薬にすることができる。
だが、その作業ができるのは、まだ後のことであった。
私ができるのは、残りの月のしずくを使って水薬を作ることであった。
すぐに、かまどに火を起こし、寸胴鍋に水を4分の1ほどを入れて、かまどにかける。煮立ち始めたら、残っている月のしずくすべてをそこに入れた。
私は寸胴鍋のそばから離れることはできない。かまどの火を弱めると、ゆっくりとに煮続けないといけないからだ。
私が夕餉もとらないでいることをアンナから聞いたリカードは私の様子を見にやってきた。
「ナターシャ様、食事を取らないと、お体にさわります。私どもに言いつけていただければ、いかようにもお手伝いをいたしますのに」
私は首を左右にふった。
「この薬を作ることは、私がすべきことだと思っているの」
「そう言われると思っておりました。そこで、パンの間にハムとサラダをはさんだものを作ってまいりました。この料理名はサンドイッチだそうです。これを食べながら、作業をしてください。体に気をつけていただかねば、お薬も完成させることはできませんぞ」
サンドイッチとは、伯爵の名前だ。彼は賭け事が好きで、一日中カードをいじり、食事をとる時間もおしがった人だ。そこでゲームをしながら、食事をとれる方法として、パンの間に具をはさんで食べる料理を彼が思いついた。そのことが有名になり、その料理方法に伯爵の名前がついてしまったのだ。
私もその話は聞いたことがあった。
私は汚れていた手を布巾でふいた後、リカードからサンドイッチを受け取り、私はほおばっていた。
だが、私がすべきことは何なのか分かっている。まず一日でも早く採ってきた月のしずくを薬に作り上げなければならない。私が王と会える時は、作り上げた薬を王に渡すことができる時だ。
そこで、私はすぐにアンナを探した。アンナには私が死んでいた時に私がやっていたことを、やってもらえるように教え込んでいた。だから、協力をしてもらうとすれば、アンナに頼むしかない。
私の部屋の前の通路でアンナに出会った。
「ナターシャ様、ご無事でなによりです」と、アンナは涙ぐんでくれた。
「月のしずくを採ってくることができたわ」
「それはようございましたね」
「さっそく薬を作りたいの」
「お手伝いをいたしますが、どのようにいたしますか?」と、アンナは不安げに眉を八の字によせた。
「ちょっと、待ってね」と、私は言った。
私も月のしずくを薬に作ったことはない。だが、亡くなられた王妃が使っていた図書室に植物総合図録という本があって、その中に薬にする方法も書かれていたのだ。それをよりどころに、私は薬作りを進めるつもりでいた。
私は竹かごを背負ったまま、図書室に行き、その本を見つけると、それを持ってアンナのところに戻った。
「調理台の一つを使わしてくれる」
「調理室の一つをいまは薬作り専用室にしてございます。そこに調理台がありますので、それをお使いください」
私はアンナに案内をされて専用室に行き、背中にせおってきた竹かごの中の物を調理台の上に開けた。白く可憐な花がついている植物が山に積まれることになった。
その時に、私は月のしずくの根がしっかりついているのを、三房とりあげた。
「これを、薬草庭園の使っていない場所に植えてきてちょうだい」
「はい、かしこまりました」と言って、アンナは私からそれを受け取るとすぐに専用室から出て行った。
持ってきた月のしずくだけでは、王をなおす薬の原料として足りないかもしれない。もし、庭に植えて増えてくれれば、それをすぐ使うことができるはずだ。だが、私が勝手に思い込んでも、月のしずくは庭園で育たないかもしれない。ともかく、これをやってみる価値はある。
専用室に残った私は、本を読みながら作業を進める。
「まず、泥や小石を取り除いてもらおうかな。それに枯れた草はよけてちょうだい」
私が指示をだすと、アンナが連れて来た侍女たちは調理台を囲んでゴミと思える物をとりのぞきだした。
「その後、薬草を水洗いをするのだけど、井戸から組んだ水を使わないでください」
「どうすればいいんですか。鍋に水を入れて煮て欲しいのよ」
「そんなことをする必要があるのですか?」
「水を熱で殺菌するためよ」と、私は疑問を口にした侍女たちに答える。
大鍋で煮たお湯を今度はしゃもじを廻して冷やし、冷やし終わった水を使って月のしずくを侍女たちは洗い出した。 洗った月のしずくを彼女らはザルに分けて入れていた。
「この後、いかがいたしましょうか?」と、庭園から戻ってきたアンナが聞いてきた。
「本によれば、三通りの薬、塗り薬、粉薬、水薬が作れるらしい。だから、三通りの薬を作ってみるわ」
そのために、月のしずくを二つわけて、半分を専用室の窓辺に並べておき、干すことにした。
アンナは、侍女たちと一緒に半分の月のしずくを窓辺に運んだ。下に大きな敷布をしき、その上に、月のしずくがくつかないように間をおいて並べた。窓辺は南に向いていたので、日が出さえすれば、いつも光があたり、薬草を乾かし続けてくれるはずだ。月のしずくが渇いたならば、これを鉢に入れてすり、粉にする。粉になった月のしずくはそのまま粉薬として使うことができるし、この粉にごま油を入れて練り上げると塗り薬にすることができる。
だが、その作業ができるのは、まだ後のことであった。
私ができるのは、残りの月のしずくを使って水薬を作ることであった。
すぐに、かまどに火を起こし、寸胴鍋に水を4分の1ほどを入れて、かまどにかける。煮立ち始めたら、残っている月のしずくすべてをそこに入れた。
私は寸胴鍋のそばから離れることはできない。かまどの火を弱めると、ゆっくりとに煮続けないといけないからだ。
私が夕餉もとらないでいることをアンナから聞いたリカードは私の様子を見にやってきた。
「ナターシャ様、食事を取らないと、お体にさわります。私どもに言いつけていただければ、いかようにもお手伝いをいたしますのに」
私は首を左右にふった。
「この薬を作ることは、私がすべきことだと思っているの」
「そう言われると思っておりました。そこで、パンの間にハムとサラダをはさんだものを作ってまいりました。この料理名はサンドイッチだそうです。これを食べながら、作業をしてください。体に気をつけていただかねば、お薬も完成させることはできませんぞ」
サンドイッチとは、伯爵の名前だ。彼は賭け事が好きで、一日中カードをいじり、食事をとる時間もおしがった人だ。そこでゲームをしながら、食事をとれる方法として、パンの間に具をはさんで食べる料理を彼が思いついた。そのことが有名になり、その料理方法に伯爵の名前がついてしまったのだ。
私もその話は聞いたことがあった。
私は汚れていた手を布巾でふいた後、リカードからサンドイッチを受け取り、私はほおばっていた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる