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第二十話 決戦
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ついにフタ―ク国のカント王は、すべての連邦国に早馬を走らせた。戦争に参加して兵を出す命令を出したのだ。
その伝令は、ガンダ国のエルザ王妃のもとにも届けられた。その内容は、七日後に、フタ―ク国の大通り広場に特別パーティの人たちも含めてギルドの兵士たちが集まる指令だった。
そのことを知ったモリスを始めフタ―ク国の元警備兵たちは、ライタルに特別パーティに参加して戦うことを申しでた。だが、ライタルはそれを断った。その理由は、ライタルたちが出動をした後、そのすきを狙って、インガ国がガンダ国を狙ってくるかもしれないからだ。その時に、ガンダ国を守るための兵士を確保しておかなければならない。その役をモリスたちにしてもらいたいと思っていたのだった。
オバタは、この度の戦いが人同士の争いでないことを見抜いていた。
神の力がなければ戦うことなどできない。
そこでアンナとともにに井戸から汲んできた水をつめた瓶を礼拝堂の祭壇に何本も並べた。瓶の中に入っている水は、たくさんの人たちの祈りによって聖水に変えることができるからだ。
オバタはアンナと一緒になって特別パーティの五人の剣、弓矢、鎧そして体に聖水をかけてやった。次に戦いに参加する百人のギルド兵士たちの武具や体にも聖水をかけていた。さらに、戦場で受けた傷の回復にも使えるように瓶に聖水を入れてコルクで栓をした物をたくさん作り、それをバッグにつめてメリカに持たせたのだった。
出陣の二日前に、ライタルたちギルドの兵士は、フタ―ク国の大通り公園にくることができた。すでに大通り公園には、連邦国の他の国々の兵士たちは集まっていた。インガ国とすでに戦った国や強盗団に襲撃を受けた国は、王みずからが参戦し、多くの兵士をつれてきていたが、インガ国から離れ何の被害も受けていない国からは、数十人の兵士を送りこんできただけであった。
大通り公園は、フタ―ク国の東西を貫く大通りに沿ってできている長い公園だ。そこにやってきた兵士たちはすぐにテントをはり、火を起こして、三食の食事をとって待機を続けていた。
ついに出陣の時がやってきた。
青い空の下で、公園にある噴水を前に立ったカントが演説を始めた。
カントから、ギルドの百人はフタ―ク国兵士たちの前を進むように言われ、特別パーティはインガ国を直接に攻めるように言われたのだ。
すぐにダラス国のミブライ王が異議をとなえた。それは、ギルド兵士たちは参加する各連邦国に均等に分けて付けるべきだという主張だった。だが、カントは、その意見を聞こうとはしなかった。
「われわれの兵士たちが本隊。本隊が負けるわけにはいかないでしょう。あなた方はインガ国の兵士と戦うのが怖いのですな。そうであれば、私らが保有している矢を、それぞれ三百本ずつ追加支給いたしますぞ。それで遠くからの攻撃ができるはず」
反論があがることを予想していたのだろう。そうでなければ、前もってたくさんの矢を用意などできるはずがない。
そう言われては、ミブライ王も黙るしかはい。
最後に、カントの号令のもとに兵士たちが掛け声をあげて出陣式が終えられた。
インガ国はフタ―ク国から半日もかからずに行くことができる場所にある。そしてインガ国の兵士たちはこちらに向かってきていた。だから、半日もたたずに戦は始まった。
フタ―ク国の兵士たちは連邦国の後ろについて行くだけだ。敵が前にいることがわかっても連邦国は急いで敵に近づこうとしない。敵が人とは言えない者であることを知っているからだ。遠くから敵兵のいる辺りに向かって矢を放つだけだった。
だが、いつまでも逃げていることはできない。やがてカラスやウサギ頭をもつインガ国の魔兵士とぶつかることになる。そこで連邦国の兵士たちは、魔兵士の死の呪文を聞いてバタバタと倒れていった。そんな姿をまの当たりに見た連邦国の兵士たちは、クモの子を散らすように呪文が届かない場所まで逃げ出していった。
そうなるとフタ―ク国兵の前を歩かせられていたギルド兵士が敵兵とぶつかることになった。だがギルドの兵士は聖水をかけてもらっているので、死の呪いは効かない。魔兵士たちを相手にしても普通の兵士同志の戦いと同じだ。やがてギルド兵士と戦う魔兵士の数はどんどんと減り出していた。
一方、特命を与えられた特別パーティの面々は馬を走らせてインガ国に向かった。
インガ国に入ったライタルは、「まるで、見知らぬ国だ」と声をあげていた。
立っている建物や道は同じなのだが、生えている木々や道端に咲いている花々は今までに見たことにない物に変わっていたからだ。
「ここは牛がいる牧場であったはずですよ。なんですか、まるで見知らぬ植物が生えて藪になっている」と、ベラルが驚きの声をあげた。
やがて、見知らぬ大樹の間から高い塔が見えだした。その場所は城のある辺りだ。ライタルは城の中で育っているのだが、塔の記憶はない。
やがて、高い塀のある城を前にすると、パーティの者たちは馬からおりた。
城門があり門番たちがいた。だが、人ではなくブタだ。
「入らせてもらうぞ」と、ライタルが大声をあげて門に近づく。
すると、門番たちは死の呪文をとなえだした。だが、聖水をかけているライタルたちに呪いは効かない。ライタルは剣を大きく左右に振って門番たちを切り倒していた。
城の中に入ったライタルは顔をあげた。宮殿があった場所に宮殿はなく、その代わりに高さのある塔ができていたのだ。
ライタルはパーティの仲間をつれて塔の中に入っていく。
すぐにパーティの前を塞ぐように魚やウサギの頭を持つ者がやってきて、呪いの言葉をとなえながら、切りかかってきた。だが、呪いをかけることができなければ、人間と同じ兵士にしかすぎない。兵士同志であれば、パーティの者の方が数段強い。まわりに集まってきた魔兵士たちはつぎつぎと切り倒されていった。中には逃げ出していく者もでていたのだ。
メリカはウサギ頭の魔兵士の一人を捕まえ、右手をねじあげた。
「ロズエルは、どこにいるんだ?」
「あんたらに、教えるきはない!」
「ほう、このままでは、右手が折れてしまうぞ。もし、教えてくれれば、何もしないで逃がしてやる」
「ほんとうか?」
「ほんとうだ」
「ロズエル様は、ここの最上階にいる。あんたら、そこまで、あがることができればな」と言って、ウサギ頭は階段を指さしていた。
その階段には赤いじゅうたんが敷かれ、手すりにはぶどうの蔓模様が彫られている。
「行ってみるしかない!」とライタルが言うと、メリカは捕まえていたウサギ頭を離してやった。もはや他の魔兵士たちはパーティから離れて遠くから見守るだけで近づこうとはしない。
パーティの面々が階段を登りだした。
そして、三階の踊り場の前まで登った時だ。
歌声が聞こえてきた。美しい声だ。それも人の心を揺り動かすような声だった。耳の聞こえないシアロ以外のパーティの者たちは笑顔を浮かべてさえいた。
やがて、踊り場に女が現れた。
美しい女だった。若い娘の顔をして絹布で作られた長いドレスを着ている。歌いながら女は、手に掴んでいた短剣を持ちあげていた。
それなのにベラルとビックは親しい者であるかのように、早足になり女に近づいていく。彼女の歌声には人の心を操る魔力があったのだ。
突然、ビックは歩みをとめ、クルリと後ろを向いた。すぐに弓に矢をつなぎライタルに向かって矢を放った。だがライタルの意識と関係なく体に身についた技がすばやく反応し、矢を剣ではらい落していた。
その間、女は持ち上げた短剣をベラルの上に振り下ろしていた。ベラルは肩から胸にかけて切られ、血をしたたらせながら倒れていった。それを見たシアロは女の前に飛び出しタスキ掛けに女を切りつけた。ギャーと叫び声をあげると、女は手に持っていた短剣を落とし階段を転げ落ちていった。シアロは耳が聞こえない。だから、歌声の魔力は彼に効かなかったのだ。
女が倒れたおかげで、ライタルたちは、歌声の魔力から完全に覚めることができた。
「この女は、セーレンですよ。歌で人を惑わす力を持っている魔女ですな」と言ったメリカは、階段をあがりベラルのそばに行った。次にバッグから瓶をとりだし、ベラルの傷の上に聖水をかけてやると、傷は小さくなっていた。
「ここで待っていてくれるか?」と、ライタルはベラルに声をかけた。
「何を言っておられる。私も参りますぞ」
そんなベラルに肩を貸してやりながら、メリカは一緒に階段を登りだしたのだ。それを見たライタルは、彼らの先に立ち階段を登りだしていた。
四階の踊り場につくと強い臭いがしてきた。獣の臭いだ。
ライタルたちは臭いが漂ってくる部屋に入っていく。
そこにひじかけ椅子があって、ジャガーがすわっていた。ライタルたちを見たジャガーは、「ウーガー」と吠えたてた。
すぐにジャガーは信じられない早さで動いた。椅子から飛びおりると、すぐに弓に矢をつごうとしたビックに襲いかかっていた。ビックの首にかみついたジャガーは、口から血をしたたらせながら、今度はライタルに向かって飛んでいた。剣を上にあげる間がない。ライタルは襲われると思った。
その時に、不思議なことが起こった。
ロト神へ祈る人たちの声がライタルの耳に聞こえてきたのだ。それは美しい応援歌のようだった。すると、ジャガーの動きが信じられないくらい遅くなりだした。ライタルは一歩下がって、体を右にまわした。それでも、このままではジャガーはライタルの脇腹にかみつくことができそうであった。
だが、ジャガーはそれができなかった。シアロが居合でジャガーの体にむかって剣を光らせたからだ。ジャガーはすぐに、上に飛び上がった。それはライタルに剣を振る時間を与えた。ライタルの上段に構えられた剣はジャガーの胴の上に落ちていった。二つに切られたジャガーの体は飛んで壁にぶつかっていた。
メリカはバッグから聖水の入った瓶をとりだした。コルクの栓をぬいて開けるとバッグの中に入れていた包帯をもとりだし、それに聖水をひたしてビックの首にあてていた。やはり聖水の力は偉大だ。聖水が傷口をしめらすだけで、血が噴き出るのをとめていた。
その伝令は、ガンダ国のエルザ王妃のもとにも届けられた。その内容は、七日後に、フタ―ク国の大通り広場に特別パーティの人たちも含めてギルドの兵士たちが集まる指令だった。
そのことを知ったモリスを始めフタ―ク国の元警備兵たちは、ライタルに特別パーティに参加して戦うことを申しでた。だが、ライタルはそれを断った。その理由は、ライタルたちが出動をした後、そのすきを狙って、インガ国がガンダ国を狙ってくるかもしれないからだ。その時に、ガンダ国を守るための兵士を確保しておかなければならない。その役をモリスたちにしてもらいたいと思っていたのだった。
オバタは、この度の戦いが人同士の争いでないことを見抜いていた。
神の力がなければ戦うことなどできない。
そこでアンナとともにに井戸から汲んできた水をつめた瓶を礼拝堂の祭壇に何本も並べた。瓶の中に入っている水は、たくさんの人たちの祈りによって聖水に変えることができるからだ。
オバタはアンナと一緒になって特別パーティの五人の剣、弓矢、鎧そして体に聖水をかけてやった。次に戦いに参加する百人のギルド兵士たちの武具や体にも聖水をかけていた。さらに、戦場で受けた傷の回復にも使えるように瓶に聖水を入れてコルクで栓をした物をたくさん作り、それをバッグにつめてメリカに持たせたのだった。
出陣の二日前に、ライタルたちギルドの兵士は、フタ―ク国の大通り公園にくることができた。すでに大通り公園には、連邦国の他の国々の兵士たちは集まっていた。インガ国とすでに戦った国や強盗団に襲撃を受けた国は、王みずからが参戦し、多くの兵士をつれてきていたが、インガ国から離れ何の被害も受けていない国からは、数十人の兵士を送りこんできただけであった。
大通り公園は、フタ―ク国の東西を貫く大通りに沿ってできている長い公園だ。そこにやってきた兵士たちはすぐにテントをはり、火を起こして、三食の食事をとって待機を続けていた。
ついに出陣の時がやってきた。
青い空の下で、公園にある噴水を前に立ったカントが演説を始めた。
カントから、ギルドの百人はフタ―ク国兵士たちの前を進むように言われ、特別パーティはインガ国を直接に攻めるように言われたのだ。
すぐにダラス国のミブライ王が異議をとなえた。それは、ギルド兵士たちは参加する各連邦国に均等に分けて付けるべきだという主張だった。だが、カントは、その意見を聞こうとはしなかった。
「われわれの兵士たちが本隊。本隊が負けるわけにはいかないでしょう。あなた方はインガ国の兵士と戦うのが怖いのですな。そうであれば、私らが保有している矢を、それぞれ三百本ずつ追加支給いたしますぞ。それで遠くからの攻撃ができるはず」
反論があがることを予想していたのだろう。そうでなければ、前もってたくさんの矢を用意などできるはずがない。
そう言われては、ミブライ王も黙るしかはい。
最後に、カントの号令のもとに兵士たちが掛け声をあげて出陣式が終えられた。
インガ国はフタ―ク国から半日もかからずに行くことができる場所にある。そしてインガ国の兵士たちはこちらに向かってきていた。だから、半日もたたずに戦は始まった。
フタ―ク国の兵士たちは連邦国の後ろについて行くだけだ。敵が前にいることがわかっても連邦国は急いで敵に近づこうとしない。敵が人とは言えない者であることを知っているからだ。遠くから敵兵のいる辺りに向かって矢を放つだけだった。
だが、いつまでも逃げていることはできない。やがてカラスやウサギ頭をもつインガ国の魔兵士とぶつかることになる。そこで連邦国の兵士たちは、魔兵士の死の呪文を聞いてバタバタと倒れていった。そんな姿をまの当たりに見た連邦国の兵士たちは、クモの子を散らすように呪文が届かない場所まで逃げ出していった。
そうなるとフタ―ク国兵の前を歩かせられていたギルド兵士が敵兵とぶつかることになった。だがギルドの兵士は聖水をかけてもらっているので、死の呪いは効かない。魔兵士たちを相手にしても普通の兵士同志の戦いと同じだ。やがてギルド兵士と戦う魔兵士の数はどんどんと減り出していた。
一方、特命を与えられた特別パーティの面々は馬を走らせてインガ国に向かった。
インガ国に入ったライタルは、「まるで、見知らぬ国だ」と声をあげていた。
立っている建物や道は同じなのだが、生えている木々や道端に咲いている花々は今までに見たことにない物に変わっていたからだ。
「ここは牛がいる牧場であったはずですよ。なんですか、まるで見知らぬ植物が生えて藪になっている」と、ベラルが驚きの声をあげた。
やがて、見知らぬ大樹の間から高い塔が見えだした。その場所は城のある辺りだ。ライタルは城の中で育っているのだが、塔の記憶はない。
やがて、高い塀のある城を前にすると、パーティの者たちは馬からおりた。
城門があり門番たちがいた。だが、人ではなくブタだ。
「入らせてもらうぞ」と、ライタルが大声をあげて門に近づく。
すると、門番たちは死の呪文をとなえだした。だが、聖水をかけているライタルたちに呪いは効かない。ライタルは剣を大きく左右に振って門番たちを切り倒していた。
城の中に入ったライタルは顔をあげた。宮殿があった場所に宮殿はなく、その代わりに高さのある塔ができていたのだ。
ライタルはパーティの仲間をつれて塔の中に入っていく。
すぐにパーティの前を塞ぐように魚やウサギの頭を持つ者がやってきて、呪いの言葉をとなえながら、切りかかってきた。だが、呪いをかけることができなければ、人間と同じ兵士にしかすぎない。兵士同志であれば、パーティの者の方が数段強い。まわりに集まってきた魔兵士たちはつぎつぎと切り倒されていった。中には逃げ出していく者もでていたのだ。
メリカはウサギ頭の魔兵士の一人を捕まえ、右手をねじあげた。
「ロズエルは、どこにいるんだ?」
「あんたらに、教えるきはない!」
「ほう、このままでは、右手が折れてしまうぞ。もし、教えてくれれば、何もしないで逃がしてやる」
「ほんとうか?」
「ほんとうだ」
「ロズエル様は、ここの最上階にいる。あんたら、そこまで、あがることができればな」と言って、ウサギ頭は階段を指さしていた。
その階段には赤いじゅうたんが敷かれ、手すりにはぶどうの蔓模様が彫られている。
「行ってみるしかない!」とライタルが言うと、メリカは捕まえていたウサギ頭を離してやった。もはや他の魔兵士たちはパーティから離れて遠くから見守るだけで近づこうとはしない。
パーティの面々が階段を登りだした。
そして、三階の踊り場の前まで登った時だ。
歌声が聞こえてきた。美しい声だ。それも人の心を揺り動かすような声だった。耳の聞こえないシアロ以外のパーティの者たちは笑顔を浮かべてさえいた。
やがて、踊り場に女が現れた。
美しい女だった。若い娘の顔をして絹布で作られた長いドレスを着ている。歌いながら女は、手に掴んでいた短剣を持ちあげていた。
それなのにベラルとビックは親しい者であるかのように、早足になり女に近づいていく。彼女の歌声には人の心を操る魔力があったのだ。
突然、ビックは歩みをとめ、クルリと後ろを向いた。すぐに弓に矢をつなぎライタルに向かって矢を放った。だがライタルの意識と関係なく体に身についた技がすばやく反応し、矢を剣ではらい落していた。
その間、女は持ち上げた短剣をベラルの上に振り下ろしていた。ベラルは肩から胸にかけて切られ、血をしたたらせながら倒れていった。それを見たシアロは女の前に飛び出しタスキ掛けに女を切りつけた。ギャーと叫び声をあげると、女は手に持っていた短剣を落とし階段を転げ落ちていった。シアロは耳が聞こえない。だから、歌声の魔力は彼に効かなかったのだ。
女が倒れたおかげで、ライタルたちは、歌声の魔力から完全に覚めることができた。
「この女は、セーレンですよ。歌で人を惑わす力を持っている魔女ですな」と言ったメリカは、階段をあがりベラルのそばに行った。次にバッグから瓶をとりだし、ベラルの傷の上に聖水をかけてやると、傷は小さくなっていた。
「ここで待っていてくれるか?」と、ライタルはベラルに声をかけた。
「何を言っておられる。私も参りますぞ」
そんなベラルに肩を貸してやりながら、メリカは一緒に階段を登りだしたのだ。それを見たライタルは、彼らの先に立ち階段を登りだしていた。
四階の踊り場につくと強い臭いがしてきた。獣の臭いだ。
ライタルたちは臭いが漂ってくる部屋に入っていく。
そこにひじかけ椅子があって、ジャガーがすわっていた。ライタルたちを見たジャガーは、「ウーガー」と吠えたてた。
すぐにジャガーは信じられない早さで動いた。椅子から飛びおりると、すぐに弓に矢をつごうとしたビックに襲いかかっていた。ビックの首にかみついたジャガーは、口から血をしたたらせながら、今度はライタルに向かって飛んでいた。剣を上にあげる間がない。ライタルは襲われると思った。
その時に、不思議なことが起こった。
ロト神へ祈る人たちの声がライタルの耳に聞こえてきたのだ。それは美しい応援歌のようだった。すると、ジャガーの動きが信じられないくらい遅くなりだした。ライタルは一歩下がって、体を右にまわした。それでも、このままではジャガーはライタルの脇腹にかみつくことができそうであった。
だが、ジャガーはそれができなかった。シアロが居合でジャガーの体にむかって剣を光らせたからだ。ジャガーはすぐに、上に飛び上がった。それはライタルに剣を振る時間を与えた。ライタルの上段に構えられた剣はジャガーの胴の上に落ちていった。二つに切られたジャガーの体は飛んで壁にぶつかっていた。
メリカはバッグから聖水の入った瓶をとりだした。コルクの栓をぬいて開けるとバッグの中に入れていた包帯をもとりだし、それに聖水をひたしてビックの首にあてていた。やはり聖水の力は偉大だ。聖水が傷口をしめらすだけで、血が噴き出るのをとめていた。
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