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第十四話 協力金 

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 ヒックス公爵は、何度もフタ―ク国のピィドル王に謁見をくりかしていた。
 今日の謁見も、リカードとガーナルの婚約をすすめるためだった。
「二人が結婚を本当に望んでいるのかね?」
 王は改めて、ヒックスに聞いていた。そんな質問をしたのは、リカードが必ずしもガーナルとの結婚を喜んでいるようには見えなかったからだ。
「もちろんでございますよ」
「それならば推し進めたほうがいいだろう」
「宮殿には、第二、第三王子もおられます。それぞれがご家庭を持つようになると、これではせまい。やはり、これを機会に、宮殿を増設されてはいかがですか?」
 それができれば、他の人の目を気にしないで、ヒックスは言いたいことをリカードに言えるようになる。ようは、国策を自分の思うようにしたいのだ。もう一つ理由があった。ヒックスは大手の土木業者に国の仕事を斡旋をして、多額のリベートを手にしていたのだが、宮殿の増設を始めれば、さらに多くのリベートを手にすることができるのだ。
 そんなことをヒックスが考えているとも知らない王は、その話にのってきた。王がその話にのったのは、城に老朽化の兆候が見えていたからだった。
「増設するよりも、古くなった城の修繕がまず先じゃろう」
「なるほど、それならば、城を手直ししながら宮殿の増設をすることが必要ですな」
「しかし、城の改修や宮殿の増設となれば、多額のお金が必要になるぞ」
「王様、資金を集めるためには、近隣の国々から協力金を出してもらうのはいかかがでしょうか」
「なに、だが他の国が負担をしてくれるかね?」
「遠方にある国、たとえばリーズル国が攻めてこようとしていると風評を流すのですよ。そうしておいて、リーズル国から国を守れるのはフタ―ク国だけだと言い続ける。そこで、あなた方の国を守ってあげるが、そのためにはフタ―ク国の城を補強する必要がある。だから、お金をだして欲しいと言うのはいかがです」
「なるほど、いい考えじゃのう」
「それでは総務の者に伝えて、どのようにするか、検討させることとしてよろしいでしょうか?」
「あなたにお任せをいたしますぞ」と、王は浮かれていた。

 一方、モリス捜査隊の隊長は、フターク国に戻っていたのだ。彼は警備隊長のマスギヤの家そばの木立に隠れ、マスヤギが城から戻ってくるのを待っていた。
 夜になって、空に星が出た頃、マスギヤは現れ、彼は飛び出ていった。
 マスヤギは始め驚いていたが、これまでの経過を聞きモリスが生きていることを知ると、「生きていてくれたのですか!」と喜んでいた。
 もし、モリスがガンダ国に行ってくれなければ、マスギヤがアンナ殺しのためにガンダ国に行かされていたかもしれない。それに推薦をしてマスヤギを隊長にしてくれたのは、モリスであることを知って恩義を感じていたのだった。
「そうですか。モリス様やあなた方はガンダ国に勤めることになっていたのですか」
「そこで、私たちの家族をガンダ国に連れて行きたいのです。実はモリス様やヒックス侯爵の下男の方々の家族もまだフターク国におります。マスヤギ様、なにとぞお力添えを願いいたします」
「あなた方には、すぐにでも家族の方々を連れて行ってもらいたい。だが、あなた方は顔が知れ渡ってしまっている。この国の中を歩いていて見つかったら、まずいことになるのは明らか。人目のない国境まで、私たちがご家族の方々をお連れして、そこであなた方に家族をお渡しするのがいいと思います」
「しかし、私たちの家族全部を一気に連れて行こうとすると目立ってしまいます。やはり、それではガーナル様たちに気づかれてしまうのでは?」
「気づかれないためには、何回かに分けて、家族を国境までお連れをするつもりです」
「しかし、何回も国境までくることができますか?」
「国内では何か起きそうな不穏な空気が溜まりだしている。だから、一日一回は国内を見回りをするように上から言われているんですよ、だから、その一行に加わってもらい、国境にお連れすることができる。もしよけれれば、モリスのご家族をまずお連れしていただくのはどうですか?」
「えっ、よろしいのですか?」
「では、二日後の昼すぎ、国境にお連れしますよ。せっかくお会いできたので、お知らせしておきたいことがあります」
「それは、なんですか?」
「協力金のことですよ」
「協力金?」
「これから、公文書を作って、送付されることになると思いますが」
 スギヤマから城の増改築資金捻出のために各国から協力金をとることになり、ガンダ国は他の国の三倍の額を徴収されようとしていることを知らされた。

 モリスの家族をつれてガンダ国に戻ってきた捜査隊長は、すぐにエルザに協力金のことを報告した。
 エルザは、宿屋「やすらぎ」のオーナーを呼んで、まずモリスの家族たちが住む家を捜すように命じた。さらに捜査隊等で入り込んできた人たち十一人の家族が住む家をも探すように命じたのだった。
 次に財務相を呼びつけた。
「金の延べ棒、1000本での納品ということですか。そもそも金の延べ棒を持っている国は多くない。いろいろな市場から買い込んでこなければなりませんぞ。他の国が動き出すと金の高騰がおこる。その前に手をうたなければなりませんな」
 財務相は、額に縦じわが刻むと、さらに話し出した。
「集めた金の延べ棒を今度はフターク国に運ばなければなりません。そうなると思い荷物を運ぶための丈夫な荷馬車が必要になります。また、それができるようにフターク国への道を整備しなければなりませんな。それらはすべて金がかかる。やはり、住民の皆様に税の負担をしてもらうしかないかと」
「それはしたくないな。まず宮殿の地下にある金貨を使うつもりです。それを溶かして延べ棒を作ましょう。次に新たな事業を起こすしかない」
「しかし、ここには売れるような物はないかと?」
「ここには、たくさんの野草が生えております。その中には薬になる物がある。それらを売るしかないでしょう。それに診療所を大きくして、もっと治療者を受け入れる方法もある」
「しかし、アンナ様の治療も限界がきているのではないでしょうか?」
「そうですね。軽易な者には、アンナ以外の者が治療することも考えてみようではありませんか」
「なるほど、産婆や指圧などの仕事をしている者を集めておきます」と言って、財務相は頭をさげ王妃の間からでていった。

 やがて、フータル国から協力金提出の文書をもらった各国の王たちは苦虫をつぶしたような顔をしていた。どの国も余裕がなかったからだ。協力金を支払うためには国の住民から税を追加徴収するしかない。
 各国では、増税のことを知らせる立て札を自国のあちらこちらに立てていった。
 悪天候のせいで穀物は不作だ。だから、それらからは、いつもの税でさえ徴収できるどうか判らなかった。したがって、増税対象にできたのは、住民にかけられる住民税だけだった。増税分は、国によって違うが、2割増しか、3割増しの額になっていた。
 すぐに住民たちは自分の王に追加税の減免を願い出た。だが、それを聞き入れる国王はいなかった。国の役人たちは、税をあげる理由を住民たちに説明するとき、フターク国への協力金を渡すためであると告げることになった。それは各国の住民たちがフタ―ク国を憎みだす起因となっていったのだ。

 やがて協力金を手にしたフタ―ク国は城の大改修を始めた。
 すぐに城内にあるトロ神の礼拝堂を壊し出した。当然、聖女たちが祈る場所をなくしたので、治療を始める前に行っていた祈りがなくなっていた。
 そのせいか、聖女たちの治療する力がさらに弱くなりだし、診療所に来る人たちはまるでなくなったのだ。
 やがてガーナルも治療所に行くことがなくなった。
 暇になると、ガーナルは自分の方から、リカードを誘って遊びだした。二人は風光明媚な場所に行き、そこで結婚をどのようにするかなど、現実を見ないでいられる話ばかりをしていたのだった。
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