幸せになりたい!

矢野 零時

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5サンドイッチ

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 次の日の朝。母と同じに起きようと思ったのだが、理江が目覚めた時には、母はもう起きて働き出していた。理江は母が焼き上がったた食パンをもらい、スライサーで四十枚だけサンドイッチ用の薄切りをつくった。それをお盆にのせてキッチンに行った。
 このパンのスライスで、サンドイッチを作ろうと思ったのだ。
 冷蔵庫に入れて置いた生卵を出して鍋に入れ、ゆで出した。その間にタマネギのみじん切りを作り、ツナ缶を開けて、中のツナと一緒にボールの中に入れた。そして、大きなスプーンでかき混ぜた。粘り気が出てきたところで、コショウをたっぷりとふり、醤油を少しだけたらした。これで、ツナサンドの具ができあがったのだ。
 次に、ゆで上がったタマゴの入った鍋に蛇口をひねり水道の冷たい水を入れた。やがて余熱がとれ、タマゴは冷たくなる。鍋から取り出したタマゴのからをむいて、新しいボールに入れ、スプーンでつぶした。あまり細かくしないで歯触りを感じる大きさでやめ、マヨネーズをたっぷりと入れた。ここでもコショウをふりかけて、からしも大匙一杯だけ入れた。さらに、それらをかき混ぜた。これで、タマゴサンドの具もできた。
 理江はこれらの具を薄切りパンにぬり、もう一枚のパンで挟んでいった。それが終わると、パンの耳をおとし、三角形になるように包丁を入れ、大皿二つにツナサンドとタマゴサンドを分けてのせた。二度にわけて、理江は店内に大皿を運んだ。思わず、鼻歌が浮かんできてしまった。すでに、定番の食パンとクロワッサンは母が運び終わっている。
「売れるかもしれないね」と母は置かれた大皿を見ながら言っていた。
 そんな時にドアの鈴が鳴って少年が入ってきた。
「やあ、進くん。いらっしゃい」と、母が声をかける。
「お母さん、知っているの?」
「蕎麦屋双葉の息子さんだよ。パン屋をはじめる前はよくそばを食べに行っていたからね」
 進はトレーをとると、四つ切りの食パンをトンクでつかみ、トレーにのせていた。
「サンドイッチも置いたんだね」と明るい声を出した進は母の方に顔を向けた。
「そうだよ。少し種類を増やそうと思ったのさ」
 母はまるで自分で考えついたように自慢げに言っていた。
「ところで、おばさん。値段がついてないけど、いくらなの?」
 そうだった。理江も、サンドイッチを作ることに夢中になりすぎて、値段のことを考えるのを忘れていた。進と同じに理江も母の方を見た。
「そうだね。一切れ、二百円」
「一切れって、この三角形にわけたぶん?」と、理江が疑問を投げかけた。
「高いかね。じゃ、三角形二切れで三百円、今度は安過ぎるかな?でも、オープンしたばかりで強気ではいられないよ」
 安いかもしれないが、調理パンは日持ちが悪い。理江は、なるべく早く売れて欲しかった。
「じゃ、いいのね。そうだ。三角形の一切れは、タマゴとツナのどちらを選んでいいことにしようか」
 オーナーである母の言うことに理江は異議を唱える気はない。
「わあ、ほんとう」と、進は喜んでタマゴとツナを一切れずつ取ってトレーに入れていた。母はレジの引出しからB5版の厚めの紙とマジックをとり出して、理江に渡した。
「ちょっと、売れそうなことを書いてくれないかい?眼が悪くなって字を書くのが面倒になってね」
 しかたがない。それほど、字がうまくないけど理江が書かない訳にはいかない。
 
 タマゴとツナのどちらを選んでもいいです。二つ合わせて、3〇〇円

 文章だけでは味気ない。傍で見ていた進が口をはさんできた。
「ぼく、これに絵を入れてもいい?」
「進くんは、絵が得意なのかな?」
 理江が聞くと進は頷いた。確かに厚紙にはスペースがあきすぎている。理江はマジックを進に渡した。マジックを手にすると、進はすらすらと音をたてお下げの女の子が二つの三角形のパンを前に両手をあげている絵をかいて見せたのだ。
「すごい、うまいのね」と、理江は驚いていた。
「使わせてもらうわ」
 さっそく理江はその紙をスタンドにはさんで、サンドイッチのそばに立てた。それを見ていた進は嬉しそうに笑い、母からパンをつめてもらった袋を受け取ると店から出て行った。
「他に調理パンは作れるかね?」
 母にも調理パンへの意欲が生まれたようだった。
「そうね。お母さん、じゃ、コッペパンは作れる?」
「作れると思うけどね」
「焼きそばパンはどうかしら?」
「ランチ向きで売れるかもしれないね」
 理江の頭の中では、コンビニにラーメンや焼きそば用のソースが売っていたことを思い出していた。

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