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第3話 毛が一本
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その日の朝、顔をあらって、鏡を見ていると、あごにヒゲが一本はえていた。黒い毛で、はっきり見える。うぶ毛などではない。
「あれ、いやだな」と、ぼくは声をあげた。すぐに指で毛をはさむと、ひき抜くことにした。だが、かんたんに抜くことはできない。思わず、顔をゆがめ、「いて!」と、声を出した。それでも、毛はどうやら抜くことはできたが、抜けた毛には血がついていた。
「なに、やっているんだ」
ぼくが、ふりかえると、父さんが腰に両手をつけて、たっていた。どうやら、父さんに見られていたらしい。
「ヒゲが、はえてきただけだよ」
「やはりそうか。大人になってきたんだな。腕を見せてみろや」
そう言った父さんは、ぼくの着ていたシャツのそでをまくりあげて、ぼくの腕を見ていた。
「まだ、腕は大丈夫なようだな、腕にも黒い毛がはえだしたら、知らせるんだ」
「なぜさ?」
「なぜ・・・」
父さんは両眉を八の字にさげて困り顔になっている。
「その時が、来たら、ちゃんと説明をしてやるよ」と言った父さんは、自分を納得させるようにうなずいていた。
朝食のおかずには、ベーコンエッグにポテトサラダがついていた。父さんは、いつものように、それに醤油をかけている。たい焼きと言うあまい物を売っている反動のせいか、わが家の食事は反対に塩辛いものを好んでしまうようだ。だから、普通のオカズの他に、塩辛がいつもだされている。ぼくは塩辛があれば、ご叛を何倍でも食べることができるんだ。
そんな食事の際中に、父さんは「良枝、とうとあの時期が近づいているようだぞ」と、ぼそっと母さんに言っていた。母さんは黙ってうなずいている。
父さんが言っているあの時期とは、なんのことなんだろう? その時のぼくは、まるでわからなかった。
「あれ、いやだな」と、ぼくは声をあげた。すぐに指で毛をはさむと、ひき抜くことにした。だが、かんたんに抜くことはできない。思わず、顔をゆがめ、「いて!」と、声を出した。それでも、毛はどうやら抜くことはできたが、抜けた毛には血がついていた。
「なに、やっているんだ」
ぼくが、ふりかえると、父さんが腰に両手をつけて、たっていた。どうやら、父さんに見られていたらしい。
「ヒゲが、はえてきただけだよ」
「やはりそうか。大人になってきたんだな。腕を見せてみろや」
そう言った父さんは、ぼくの着ていたシャツのそでをまくりあげて、ぼくの腕を見ていた。
「まだ、腕は大丈夫なようだな、腕にも黒い毛がはえだしたら、知らせるんだ」
「なぜさ?」
「なぜ・・・」
父さんは両眉を八の字にさげて困り顔になっている。
「その時が、来たら、ちゃんと説明をしてやるよ」と言った父さんは、自分を納得させるようにうなずいていた。
朝食のおかずには、ベーコンエッグにポテトサラダがついていた。父さんは、いつものように、それに醤油をかけている。たい焼きと言うあまい物を売っている反動のせいか、わが家の食事は反対に塩辛いものを好んでしまうようだ。だから、普通のオカズの他に、塩辛がいつもだされている。ぼくは塩辛があれば、ご叛を何倍でも食べることができるんだ。
そんな食事の際中に、父さんは「良枝、とうとあの時期が近づいているようだぞ」と、ぼそっと母さんに言っていた。母さんは黙ってうなずいている。
父さんが言っているあの時期とは、なんのことなんだろう? その時のぼくは、まるでわからなかった。
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