上 下
4 / 5

4取調室1

しおりを挟む
 岡田沙織殺害事件の捜査が行われて、一週間が経っていた。

 もう少し話が聞きたいと本間勇は、中の島警察署に連れて行かれた。
「ここはどこですか?」
「取調室ですよ」と言って、佐川が机を間に挟んで本間の前にすわった。
 部屋の角には机が一つ置かれ、それを前に近藤がすわり、書類を前にして何か書き続けている。書記役をやっているのだろう。
「取り調べ室ですか! 任意聴取だというので、ついてきたんですよ。それなのに取り調べだなんて!」
「まずはお話をさせてください。私どもも、いろいろ捜査をしておりますので、それを報告させていただきながら、お話をしていきましょう」
 そこで佐川は本間にテーブルの上に置かれていたお茶を勧めた。
「井上不動産を経営している井上さんには、私どもが税務署と共同捜査をしたことの話をしましてね。なんとなく脱税をしているのではないかと思ったものですから」
「卑劣な手を!」
「改めて、井上さんに話を聞くと、本間さんは途中でスナック・ムーンを一度出て行ったと言っていましたよ。トイレだったのではないかと、でも長い時間戻ってこなかったと言っていましたよ」
「そうだ。腹のぐわいが悪くなった。くだっていたんだった」
「でも、ムーンの経営者、君原さんは、井上さんも一緒にトイレに行ったと言っていた。まさか、大をする個室に一緒にいることはしないはずだ」
 本間の顔は青くなっていた。
「そこで、君原さんのお客さんに、いろいろと聞き込みをしてみました。すると困った話を聞き込んでしまった」
「なんですか?」
「殺人事件のあった夜、ムーンを貸し切りで使いたいというお客さんがいたんですよ。貸し切りを頼んだ人は、先にムーンを使う予約が入っているのでと言って断られたてそうです」
「そんな話は、私も今聞いたことですよ」
「そうですか。それで前もって入っていた予約は誰からですかと君原さんに聞いたんですよ。すると、その予約先はあなただと言ったんです」
「確かに、私はムーンを予約し、井上と一緒に酒を飲んだ。途中で席をたったのは、具合が悪くなったからだ。それだけで、私が岡田沙織を殺したと言い切れるんですか。そうだ。外部から、ブティック・オカダに入り込んで殺したかもしれない」
 勝ち誇ったように、本間は言い放ち、佐川を睨みつけてきた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真犯人(刑事 佐川 敏 殺人事件捜査リポート)

矢野 零時
ミステリー
ブレーキとアクセルを踏み間違えて交通事故をおこした老人の裁判を担当することに なった弁護士が射殺されました。犯人は一体誰、そして、殺害をした理由は? もちろん、解決をするのは刑事 佐川敏です。

BLEND

むーちょ
ミステリー
西暦XX29年 ブラックバン(ブラックホールの暴走)が起き、宇宙の半数以上の星が壊滅した。地球は壊滅を免れたが放射能による大規模汚染で、生命も一時は絶望的な数になった。 月日は経ち、地球は元の青さを取り戻しつつあった。 残された星々の異星人は「地球」の存在を知り、長い年月を掛けて移住を始めた。環境省は正式な手続きをするため地球全域に税関所を設けたが、異星人の数が予想を大きく上回り検査が甘くなってしまう事態に陥る。 そして、異星人の滞在を許した地球は数百種類の人種の住む星になり、様々な文化や宗教、犯罪が渦巻く混沌の星になってしまう… X129年 政府は、警察組織内にて無許可で地球に侵入した異星人を取り締まる捜査課「Watch」を作った。 この物語は混沌の世界を監視する「Watch」たちの事件簿である---------

おさかなの髪飾り

北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明 物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか? 夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた 保険金殺人なのか? それとも怨恨か? 果たしてその真実とは…… 県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です

孤島の洋館と死者の証言

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽は、学年トップの成績を誇る天才だが、恋愛には奥手な少年。彼の平穏な日常は、幼馴染の望月彩由美と過ごす時間によって色付けされていた。しかし、ある日、彼が大好きな推理小説のイベントに参加するため、二人は不気味な孤島にある古びた洋館に向かうことになる。 その洋館で、参加者の一人が不審死を遂げ、事件は急速に混沌と化す。葉羽は推理の腕を振るい、彩由美と共に事件の真相を追い求めるが、彼らは次第に精神的な恐怖に巻き込まれていく。死者の霊が語る過去の真実、参加者たちの隠された秘密、そして自らの心の中に潜む恐怖。果たして彼らは、事件の謎を解き明かし、無事にこの恐ろしい洋館から脱出できるのか?

審判【完結済】挿絵有り

桜坂詠恋
ミステリー
「神よ。何故あなたは私を怪物になさったのか──」 捜査一課の刑事・西島は、5年前、誤認逮捕による悲劇で全てを失った。 罪悪感と孤独に苛まれながらも、ひっそりと刑事として生きる西島。 そんな西島を、更なる闇に引きずり込むかのように、凄惨な連続殺人事件が立ちはだかる。 過去の失敗に囚われながらも立ち向かう西島。 彼を待ち受ける衝撃の真実とは──。 渦巻く絶望と再生、そして狂気のサスペンス! 物語のラストに、あなたはきっと愕然とする──。

歪像の館と消えた令嬢

葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽(しんどう はね)は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の親友である財閥令嬢、綺羅星天音(きらぼしてんね)が、曰くつきの洋館「視界館」で行われたパーティーの後、忽然と姿を消したというのだ。天音が最後に目撃されたのは、館の「歪みの部屋」。そこでは、目撃者たちの証言が奇妙に食い違い、まるで天音と瓜二つの誰かが入れ替わったかのような状況だった。葉羽は彩由美と共に視界館を訪れ、館に隠された恐るべき謎に挑む。視覚と認識を歪める館の構造、錯綜する証言、そして暗闇に蠢く不気味な影……葉羽は持ち前の推理力で真相を解き明かせるのか?それとも、館の闇に囚われ、永遠に迷い続けるのか?

「鏡像のイデア」 難解な推理小説

葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。

鐘楼湖の殺人

大沢敦彦
ミステリー
《あらすじ》 ミステリー作家の阿門正はKADOYAMAの編集者上十石めぐみと鐘楼湖の近くにある旅館「てる」に宿泊。穏やかな環境で執筆に集中することが目的だったが、”死神コンビ”の到来は殺人事件をもたらすのだった。 《登場人物》 ・阿門正…ミステリー作家 ・上十石めぐみ…KADOYAMA編集者 ・大塚國夫…刑事

処理中です...