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10大沢市庁舎
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俺の先走りが捜査本部の連中には面白くなかったようだ。後は組織で捜査を行うと管理官は言って、田島の身元を明らかにするため、拳銃を取り扱える麻薬取締官、自衛隊、税関にまで捜査を拡げていった。そして、俺たちを捜査からはずしてしまった。だから、俺たちは勝手に捜査しますと捜査本部に言っていた。俺たちは、そもそも安藤治療病院に沢田がいたことを報告をしていなかった。そして、沢田を止めなければと思い続けていたのだ。
だから、俺と竹内は大沢市庁舎の屋上に行った。屋上は、市内の街を展望できるように鉄の枠にはめられた硬質ガラスの窓で囲まれていた。鉄の枠は、幅二メートルで高さ三メートルはある。
やがて、沢田がやってきた。
「思ったとおり、やってきたな」と、俺は低い声を出していた。
「片倉さん、生きていたんですね。よかった」
そう言った沢田は、屋上を見まわしていた。一時間前には、ここで市長が表彰式を行うことになっていた。だが、俺たちは、爆発物が仕掛けられたという電話が警察にあったと言って、市の関係者たちにここから出て行ってもらっていたのだ。
「田島のリストには、市長の名前ものっていたということか?」と、俺は聞いた。
沢田は額に縦ジワを寄せた。
「やっぱり、そうか。だが、もうやめにしないか。人殺しを続けるのは」
「田島さんに、ぼくは約束をしてしまったんです。相手の死を願うしか手立てがないことを知った田島さんはこのリストを作ったんだ。願いを叶えてあげなければならない」
そう言った沢田は、一枚の紙を出して見せた。四つにおった跡がついていた。
「馬鹿な、警察官は法をすべてに優先しなければならんだろう」
「そうです。だから警察をやめたんですよ」
沢田はリストが書かれた紙を胸ポケットにしまうと、拳銃を出してかまえていた。
「弾は後、一発だろう。ここに二人はいる。銃で防ぐことはできないぞ」
「片倉さんを撃つことなんてできませんよ。第一、田島さんのリストに載っていない」
沢田はクルリと後ろを向き鉄枠にはめられたガラスを撃った。砕け散ったガラスは建物の下に落ちて行く。すると、風が吹きこんできた。風は沢田の胸ポケットに入れていたリストを空に飛ばした。
すると沢田は屋上の外に向かって跳んだのだ。すぐに、彼はガラスのなくなった鉄枠の空間に吸い込まれ、消えていった。
俺は沢田のいなくなったガラス枠を見ていた。たぶん、一分も経っていなかったかもしれない。
リストは俺の足下に落ちてきた。上体を倒して足元のリストをつかもうとしたが、手は空をつかんだ。横から竹内がリストをつかんだからだ。
「片倉、あんたは見ない方がいい。ミイラ取りがミイラになる。いい刑事を無くしたくはないからな。それよりもそこに落ちている拳銃を拾えよ」
竹内は口をゆがめて笑い、ポケットから、ライターを出して、リストに火を付けた。リストは紙だ。赤い炎を上げて灰になっていく。
「ここは、憎悪の都市なんだ」と俺は拾った拳銃を見つめながら言った。
「いや、違うな。哀愁の都市なのさ」
そう言った竹内は屋上のふちまで行って、下を覗きこんでいた。沢田はすでに歩道のアスファルトにはりついた小さな×点にしか見えない。やがて歩道を歩いていた人たちが点のまわりを丸く囲み出していた。
終
だから、俺と竹内は大沢市庁舎の屋上に行った。屋上は、市内の街を展望できるように鉄の枠にはめられた硬質ガラスの窓で囲まれていた。鉄の枠は、幅二メートルで高さ三メートルはある。
やがて、沢田がやってきた。
「思ったとおり、やってきたな」と、俺は低い声を出していた。
「片倉さん、生きていたんですね。よかった」
そう言った沢田は、屋上を見まわしていた。一時間前には、ここで市長が表彰式を行うことになっていた。だが、俺たちは、爆発物が仕掛けられたという電話が警察にあったと言って、市の関係者たちにここから出て行ってもらっていたのだ。
「田島のリストには、市長の名前ものっていたということか?」と、俺は聞いた。
沢田は額に縦ジワを寄せた。
「やっぱり、そうか。だが、もうやめにしないか。人殺しを続けるのは」
「田島さんに、ぼくは約束をしてしまったんです。相手の死を願うしか手立てがないことを知った田島さんはこのリストを作ったんだ。願いを叶えてあげなければならない」
そう言った沢田は、一枚の紙を出して見せた。四つにおった跡がついていた。
「馬鹿な、警察官は法をすべてに優先しなければならんだろう」
「そうです。だから警察をやめたんですよ」
沢田はリストが書かれた紙を胸ポケットにしまうと、拳銃を出してかまえていた。
「弾は後、一発だろう。ここに二人はいる。銃で防ぐことはできないぞ」
「片倉さんを撃つことなんてできませんよ。第一、田島さんのリストに載っていない」
沢田はクルリと後ろを向き鉄枠にはめられたガラスを撃った。砕け散ったガラスは建物の下に落ちて行く。すると、風が吹きこんできた。風は沢田の胸ポケットに入れていたリストを空に飛ばした。
すると沢田は屋上の外に向かって跳んだのだ。すぐに、彼はガラスのなくなった鉄枠の空間に吸い込まれ、消えていった。
俺は沢田のいなくなったガラス枠を見ていた。たぶん、一分も経っていなかったかもしれない。
リストは俺の足下に落ちてきた。上体を倒して足元のリストをつかもうとしたが、手は空をつかんだ。横から竹内がリストをつかんだからだ。
「片倉、あんたは見ない方がいい。ミイラ取りがミイラになる。いい刑事を無くしたくはないからな。それよりもそこに落ちている拳銃を拾えよ」
竹内は口をゆがめて笑い、ポケットから、ライターを出して、リストに火を付けた。リストは紙だ。赤い炎を上げて灰になっていく。
「ここは、憎悪の都市なんだ」と俺は拾った拳銃を見つめながら言った。
「いや、違うな。哀愁の都市なのさ」
そう言った竹内は屋上のふちまで行って、下を覗きこんでいた。沢田はすでに歩道のアスファルトにはりついた小さな×点にしか見えない。やがて歩道を歩いていた人たちが点のまわりを丸く囲み出していた。
終
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