10 / 11
9第三の殺人
しおりを挟む
まさか、俺たちがすでに安藤治療病院にきていることを沢田は知らない。そばで話を聞いていた竹内は声をあげた。
「敷地が広すぎるな」
沢田には竹内も共感を覚えていた。弱い者はいつだって分かり合えるものだ。いや、だからこそ、沢田を助けたいと竹内も思っていた。
「分けて、探した方がよさそうだ」
俺がうなずくと、竹内は俺と反対の方に走り出し病院の建物の中に入っていった。
俺が建物に入らなかったのは、携帯で沢田と話をした時に風の吹く音が聞こえていたからだ。緑色の草地が広がり、日陰で患者が憩えるように、あちらこちらに木々が植えられベンチがおかれていた。
パンと乾いた音が聞こえた。
俺は音のした方にかけだした。すると、木々が多くある場所が見えてきた。男が倒れていた。車の中から見た男、田島だった。帽子がとれた頭は白髪で短く刈り上げている。俺は近づき、腰を落とし彼を抱き起した。黒いコートの前が開き、見えた白いワイシャツの胸の辺りは血に染まりバラが咲いたようだった。
「失敗をしてしまった。ここで終わらせるわけにはいかない」
田島は悲しそうに俺を見つめてくる。
「しっかりしろ、田島。いま医者を呼んでやる」
俺は田島を足下にゆっくりと置いた。それから携帯を出して電話をかけ出した。そんな時に、後ろに人の気配を感じたのだ。すると、俺の中にいる寄生体が目覚めた。俺の後頭部に寄生体が作った眼のおかげで真後ろも見え出した。
白衣の男が俺の真近にいた。血走った眼を持つ男の顔を見た途端に俺のわき腹が痛んだ。鋭い刃物を刺しこまれたのだ。刃物は医者が手術に使うメスだった。俺はいつも肉を入れたリュックを背負っている。そんな背中にメスを刺しても、俺の体にメスを届かせることは難しい。だから、リュックが覆いかぶさっていない脇腹を狙ったのだ。俺は体を廻して、男を前にした。。男は、すばやく俺の前腹を狙ってメスを突き出してきた。俺は右手を前に出してメスの動きをさえぎった。メスは俺の腕を切り、血が吹き出していた。
「死ね。死ぬんだよ」
「あんた殺人鬼か!」
後の捜査で俺も知ることになるのだが、男の名は、桜井四郎。
安藤治療病院で脳外科医をしていた。必要のない患者を手術室に連れ込み殺し続けていたのだ。その手術を見ていた看護士たちの間で、手術の狂気さが知れ渡り、田島がそれを知ることになったのだ。
俺は何度も桜井にメスを腹に刺しこまれ、最後は割られたまきのように倒れていった。そんな俺を見て、桜井は「ケケケ」と声をたてて笑っていた。
桜井はまだ田島が息をしているのが面白くなかったのだ。胸ポケットから注射器のセットを出し、注射器に液を入れると田島の所に行って田島の腕に注射器をさしだした。
「みんな、死にたがっている。そういう輩には筋弛緩剤は最適なんだ」
やがて、田島は動かなくなっていた。桜井は鼻歌を歌い出し、俺に近づいてきた。俺のそばにくると腰をかがめ、ふたたび注射器に液を入れ出したのだ。すでに寄生体が目覚めて俺の体を修復しだしていたが、筋弛緩剤を打たれては、寄生体でも俺を生かすことが出来るかどうかわからない。
筋弛緩剤が撃たれ出した時、パーンという音が聞こえた。落ちて行く意識の中で、俺は沢田が拳銃を両手でかまえているのが見ることができた。
どのくらい時間が経ったのだろうか?
やがて、俺は目覚めることができた。
「気が付いたかい?」
竹内が俺を覗きこんでいた。俺は無意識に自分の腹を次々と触った。桜井に刺された所だ。だが、すでにどの傷も塞がっていた。思い出したように、注射を打たれていた腕にも眼がいった。そこにはストローのような突起物ができていたのだ。どうやら、そこから注射液は吐き出したに違いなかった。腕下にある草や土が濡れていた。しばらくすると突き出たストローはかさぶたのように土色になり、砕けて腕からとれていった。
「やっぱり、あんたはモンスターだな。噂どおりだったよ」
「田島は?」俺は立ち上がり、楓の木元にいる彼を見つめた。
「もう、死んでいるよ」
そう言って、竹内は首を横にふっていた。
「ここから沢田が走り出していったよ。それも拳銃を手にしてな」
そう話を続けた竹内は額に三本の横ジワを作っていた。
「今度は市長を狙うらしい」
「竹内、田島が誰を殺したがっていたのか、知っているのか?」
「紙に田島が書いたリストがあるんだよ。あんたが甦ってくるまで、時間がたっぷりとあったからな。そのリストを沢田が持っていった。あいつを説得しようとしたんだができなかった」
そう言って、竹内は頬をゆがめて笑った。
遠くに聞こえていたパトカーのサイレン音がだんだんと大きく成り出していた。
「敷地が広すぎるな」
沢田には竹内も共感を覚えていた。弱い者はいつだって分かり合えるものだ。いや、だからこそ、沢田を助けたいと竹内も思っていた。
「分けて、探した方がよさそうだ」
俺がうなずくと、竹内は俺と反対の方に走り出し病院の建物の中に入っていった。
俺が建物に入らなかったのは、携帯で沢田と話をした時に風の吹く音が聞こえていたからだ。緑色の草地が広がり、日陰で患者が憩えるように、あちらこちらに木々が植えられベンチがおかれていた。
パンと乾いた音が聞こえた。
俺は音のした方にかけだした。すると、木々が多くある場所が見えてきた。男が倒れていた。車の中から見た男、田島だった。帽子がとれた頭は白髪で短く刈り上げている。俺は近づき、腰を落とし彼を抱き起した。黒いコートの前が開き、見えた白いワイシャツの胸の辺りは血に染まりバラが咲いたようだった。
「失敗をしてしまった。ここで終わらせるわけにはいかない」
田島は悲しそうに俺を見つめてくる。
「しっかりしろ、田島。いま医者を呼んでやる」
俺は田島を足下にゆっくりと置いた。それから携帯を出して電話をかけ出した。そんな時に、後ろに人の気配を感じたのだ。すると、俺の中にいる寄生体が目覚めた。俺の後頭部に寄生体が作った眼のおかげで真後ろも見え出した。
白衣の男が俺の真近にいた。血走った眼を持つ男の顔を見た途端に俺のわき腹が痛んだ。鋭い刃物を刺しこまれたのだ。刃物は医者が手術に使うメスだった。俺はいつも肉を入れたリュックを背負っている。そんな背中にメスを刺しても、俺の体にメスを届かせることは難しい。だから、リュックが覆いかぶさっていない脇腹を狙ったのだ。俺は体を廻して、男を前にした。。男は、すばやく俺の前腹を狙ってメスを突き出してきた。俺は右手を前に出してメスの動きをさえぎった。メスは俺の腕を切り、血が吹き出していた。
「死ね。死ぬんだよ」
「あんた殺人鬼か!」
後の捜査で俺も知ることになるのだが、男の名は、桜井四郎。
安藤治療病院で脳外科医をしていた。必要のない患者を手術室に連れ込み殺し続けていたのだ。その手術を見ていた看護士たちの間で、手術の狂気さが知れ渡り、田島がそれを知ることになったのだ。
俺は何度も桜井にメスを腹に刺しこまれ、最後は割られたまきのように倒れていった。そんな俺を見て、桜井は「ケケケ」と声をたてて笑っていた。
桜井はまだ田島が息をしているのが面白くなかったのだ。胸ポケットから注射器のセットを出し、注射器に液を入れると田島の所に行って田島の腕に注射器をさしだした。
「みんな、死にたがっている。そういう輩には筋弛緩剤は最適なんだ」
やがて、田島は動かなくなっていた。桜井は鼻歌を歌い出し、俺に近づいてきた。俺のそばにくると腰をかがめ、ふたたび注射器に液を入れ出したのだ。すでに寄生体が目覚めて俺の体を修復しだしていたが、筋弛緩剤を打たれては、寄生体でも俺を生かすことが出来るかどうかわからない。
筋弛緩剤が撃たれ出した時、パーンという音が聞こえた。落ちて行く意識の中で、俺は沢田が拳銃を両手でかまえているのが見ることができた。
どのくらい時間が経ったのだろうか?
やがて、俺は目覚めることができた。
「気が付いたかい?」
竹内が俺を覗きこんでいた。俺は無意識に自分の腹を次々と触った。桜井に刺された所だ。だが、すでにどの傷も塞がっていた。思い出したように、注射を打たれていた腕にも眼がいった。そこにはストローのような突起物ができていたのだ。どうやら、そこから注射液は吐き出したに違いなかった。腕下にある草や土が濡れていた。しばらくすると突き出たストローはかさぶたのように土色になり、砕けて腕からとれていった。
「やっぱり、あんたはモンスターだな。噂どおりだったよ」
「田島は?」俺は立ち上がり、楓の木元にいる彼を見つめた。
「もう、死んでいるよ」
そう言って、竹内は首を横にふっていた。
「ここから沢田が走り出していったよ。それも拳銃を手にしてな」
そう話を続けた竹内は額に三本の横ジワを作っていた。
「今度は市長を狙うらしい」
「竹内、田島が誰を殺したがっていたのか、知っているのか?」
「紙に田島が書いたリストがあるんだよ。あんたが甦ってくるまで、時間がたっぷりとあったからな。そのリストを沢田が持っていった。あいつを説得しようとしたんだができなかった」
そう言って、竹内は頬をゆがめて笑った。
遠くに聞こえていたパトカーのサイレン音がだんだんと大きく成り出していた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

九竜家の秘密
しまおか
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞・奨励賞受賞作品】資産家の九竜久宗六十歳が何者かに滅多刺しで殺された。現場はある会社の旧事務所。入室する為に必要なカードキーを持つ三人が容疑者として浮上。その内アリバイが曖昧な女性も三郷を、障害者で特殊能力を持つ強面な県警刑事課の松ヶ根とチャラキャラを演じる所轄刑事の吉良が事情聴取を行う。三郷は五十一歳だがアラサーに見紛う異形の主。さらに訳ありの才女で言葉巧みに何かを隠す彼女に吉良達は翻弄される。密室とも呼ぶべき場所で殺されたこと等から捜査は難航。多額の遺産を相続する人物達やカードキーを持つ人物による共犯が疑われる。やがて次期社長に就任した五十八歳の敏子夫人が海外から戻らないまま、久宗の葬儀が行われた。そうして徐々に九竜家における秘密が明らかになり、松ヶ根達は真実に辿り着く。だがその結末は意外なものだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
幾度繰り返そうとも、匣庭は――。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。
舞台は繰り返す。
三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。
変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。
科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。
人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。
信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。
鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。
手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

魔法使いが死んだ夜
ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。
そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。
晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。
死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。
この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる