刑事殺し・リスト・憎悪

矢野 零時

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5はぐれ捜査開始

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 車に戻った竹内はタバコを吸い車の中をタバコの煙で白くけぶらしていた。
「あんなにしゃべって、よかったのかい?」
「何も言わないわけにはいかないだろう。まずは署に戻って、斎藤にどこまで捜査が進んでいるのか、聞いて見る必要があるな」
 そう思った俺はまず署の刑事課に携帯で電話をした。だが、拳銃紛失に関わった斎藤は課内にいなかった。連絡をとりたいと言うと、別の事件で出ていると言っていた。だが、薄笑いで言われては、それが本当かどうか、疑わしくなる。ともかく、明日までは、打つ手がない。
「できることは、なさそうだ」
 俺がそう言うと、竹内はタバコを灰皿に押し付けて消していた。
 
 捜査本部の他の捜査員たちは聞き取りを行うために、昼に会えなかった者と出会える夜の街に飛び出していった。赤口署も最上階は警官たちが柔道や剣道の訓練を行うことができる道場がある。そこに幾組もの布団がしかれ、捜査員たちが泊まり込めるように手配がされていた。夜遅くに戻ってきた捜査員たちはそこで寝るのに違いなかった。だが、俺たちには打つ手がない。

「遅い夕食でもとるかい?」俺がそう言うと、竹内は乾いた笑い声をたてた。
「大食いを何度も見る趣味がないんでね。その代わり、好きな場所で降ろしてやるよ」
「あんたはどうするんだ?」
「早く帰って、かみさんに寝る時間をつくってやるよ」
 竹内の一人娘は慢性腎不全だった。これからも、ずっと人工透析を続けなければならない。それは金のかかることだった。その資金を作るために、竹内は退職後も働き、彼の妻も働いていたのだ。普段は娘の介護も妻がしている。疲れている妻に寝る時間を少しでも多く与えてやろうと竹内は考えていた。
「それがいいだろうな」
 俺がそう言うと、竹内は車を走らせ出した。やがて、居酒屋が並んでいる場所に来ていた。いきつけの赤提灯が見える。焼肉屋だ。
「その前でおろしてくれや」
 俺がそう言うと、竹内はスピードを落とし、車を停めた。俺はドアを開けて、車をおりた。俺が歩きだすと、俺の背後で車がふたたび動き出す音が聞こえていた。

 次の日、本来ならば、八時半までに、特別捜査本部に行かなければならない。だが昨日の今日だ。捜査の進展を聞けるはずもない。頑張ろうの激励の言葉が並ぶだけだ。俺はまず大友署に顔を出した。もちろん、竹内にも来るように携帯で連絡をしておいた。
 行く先は刑事課だ。俺たちは竹内を引き連れて、俺はまっすぐに窓から明るい陽が入っている斎藤の机にむかった。側にある椅子を引いて、斎藤の前で俺は腰をおろした。
「拳銃強奪犯が八斗交番から出てくる姿は近隣の監視カメラに写っていたんじゃないのかな?」
「素人の意見だな。交番のある道路の左右一キロ以内には監視カメラはない。交番を中心に5百メートルの中にある監視カメラと品田町へ向かう通りや大沢駅にむかう通路にある監視カメラの映像は全部沢田に見てもらった。だが、どこにも、沢田が見た老人は、いなかった」
「バスを利用したんじゃないのかな?」
「バスをおりて交番にくるとして、それに該当する左右二箇所のバス停が考えられるが、乗降りをしてくる者の中には、やはり該当する男はいなかった。もちろん、これも沢田に見て貰っての話だが」
「他の手掛かりは検証をしたのかい?」
「落とし物を届けた人の調書をとっていたが、書いたのは沢田だ。老人の言っていたことはすべてがでたらめだったね。調書に記載の人物はいなかったし、当然住所もそんな所はなかった。また、落とし物として置いていった時計にはきれいにふき取られて指紋はついていなかった。交番に持ち込まれた時にはハンカチで包んできていたが、そのハンカチは男が持ちかえっていったそうだ。それに飲み残しの紅茶を科捜研に出しておいたが、それに含まれていた睡眠薬はどこの病院でも出してくれるマイスリーだったよ」
 なるほど、斎藤たちが、捜査会議に参加しなかった理由が分かった気がした。手掛かりがまるでなかったのだ。
「だが、紅茶に口をつけたのだろう。だったら、唾液がついている。血液型やDNAだって分かるんじゃないかね?」
「それは、科捜研まかせだね。今のところ連絡はない」
「ところで、沢田はどうしたのかね?」
「沢田は、辞表を出していったよ」
 自慢げに斎藤は言った。
「署の方でそれを受けつけたのかい?」
「さあ、わからん。明らかにしてはいない。臨機応変に対応する考えなんだろう」
「じゃ、沢田の住所を教えてもらえないかな?」
「どうするんだ?」
「決まっているじゃないか。様子を見に行くんだよ」
 斎藤は、パソコンをあけて、警察官の住所録に入り込み、沢田の住処を調べて教えてよこした。それを俺は携帯の電話帳に書きこんだ。
 俺は竹内に車を走らせ品田区に行った。ランチの時間がきていた。駐車場のある定食屋を見つけると、そこに俺たちは飛び込んだ。俺は大盛りかつ丼とハンバーグ定食、竹内はもりそばを食べた。定食屋をでると、ふたたび車を走らせ出した。
「ここじゃないのか」
 そう言って竹内は車をとめた。個人住宅が多い街にきていた。道幅は狭く車を走らせている者はいなかった。昼間なのに眠ったような街だった。俺はタバコを吸い出した竹内を横眼に見て、車をおりた。石造りの門をくぐり、玄関ドアをたたいた。しかし、何の音もしない。俺はもう一度ドアをたたいてみた。やはり、誰もでてこない。俺は腰のホルダーから携帯を出して、沢田を呼んでみた。だが、俺のコールに沢田は出てくれなかった。
「一体、どこにいったんだ?」
 俺は夕暮れの空を睨みつけていた。

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