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3大食い

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 カフェ・ケルン。
 署に出勤する前によるところだ。いつもすわる場所に俺はすわった。そこは店の一画で、目立たたずに店の中を一目で見まわすことができる場所だった。
「ステーキ用のお肉入れておいたわよ」
 そう言いながらウエイトレス熊谷勝代が近づいてきた。年齢は四十を超えて小太りだが、動きは機敏だった。
「レアで250グラムを二枚頼むよ。ライスをつけてくれ」
「いつもの食欲ね。でも、大丈夫なの?」
 俺は、ほぼ毎日ステーキの朝食をとる。毎朝二千円近い金額を支払っているのだ。店としてはこんないい客はいない。だが、勝代は心配をしてくれた。俺は安月給の刑事にしかすぎないからだ。勝代もこの店で朝から閉店まで働き、楽な生活をしているわけではない。同じ労働者としての心配だったのかもしれない。
「まあ、しかたがないさ」と俺はつぶやく。
「ふ~ん」と、鼻を鳴らしてから、勝代は調理場のカウンターに注文伝票を置きに戻っていった。
  前にテレビでやっている大食いコンテストに出ることを勝代には勧められたことがあった。大食いで優勝をすれば、賞金がでるからだ。だが、俺は出なかった。俺は目立つわけにはいかないからだ。
 そう、俺には人に知られたくない秘密があった。
 何を言い出すかと思うかもしれないが、俺は一人ではなく二人なのだ。
 ある捜査の途中で俺は異生物に寄生されていた。もう一人と言うのはその寄生体のことだ。どうして、寄生体を取り除く努力をしないのかと、言うかもしれない。だが、それを考えさせないほど、寄生体の力が強いのだ。俺の思考方法とは違うが、寄生体は俺よりも知性があるのかもしれない。必要があれば俺の意識を支配し、俺の体の中も変えることができる。だが、普段は潜在意識に隠れて、その姿を見せない。だから、外から見ただけでは寄生される前の俺と変わらないように見える。
 だが、明らかに隠せないことがある。それは以前と違って食欲が増大したことだ。俺は寄生体の分まで食べて体を維持していかなければならなくなった。
 やがて、勝代はジュウジュウと音を立てる鉄のプレートを運んできた。プレートの上には、二枚のステーキが重ねてのせてある。投げやりで料理らしくないが、俺はそんなことは気にしない。ソースをかけないで醤油をかける。醤油の持つ濃い目の味としょっぱさが好きだからだ。俺はナイフとフォークを使い、食べ始めた。やはり、肉はうまい。付け合わせにつけてくれたポテトサラダも箸休めになる。。
 寄生体はもう一つ俺に人に隠せないことをさせている。
 それは、肉の塊を入れたリュックをつねに持たせていることだ。非常時が来たら、寄生体はその肉を食べて力をつけるためだ。ともかく、俺の意思ではない。未知の者に持って歩かされていると人に言ったら、俺は狂っているとしか思われないだろう。

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