刑事殺し・リスト・憎悪

矢野 零時

文字の大きさ
上 下
4 / 11

3大食い

しおりを挟む
 カフェ・ケルン。
 署に出勤する前によるところだ。いつもすわる場所に俺はすわった。そこは店の一画で、目立たたずに店の中を一目で見まわすことができる場所だった。
「ステーキ用のお肉入れておいたわよ」
 そう言いながらウエイトレス熊谷勝代が近づいてきた。年齢は四十を超えて小太りだが、動きは機敏だった。
「レアで250グラムを二枚頼むよ。ライスをつけてくれ」
「いつもの食欲ね。でも、大丈夫なの?」
 俺は、ほぼ毎日ステーキの朝食をとる。毎朝二千円近い金額を支払っているのだ。店としてはこんないい客はいない。だが、勝代は心配をしてくれた。俺は安月給の刑事にしかすぎないからだ。勝代もこの店で朝から閉店まで働き、楽な生活をしているわけではない。同じ労働者としての心配だったのかもしれない。
「まあ、しかたがないさ」と俺はつぶやく。
「ふ~ん」と、鼻を鳴らしてから、勝代は調理場のカウンターに注文伝票を置きに戻っていった。
  前にテレビでやっている大食いコンテストに出ることを勝代には勧められたことがあった。大食いで優勝をすれば、賞金がでるからだ。だが、俺は出なかった。俺は目立つわけにはいかないからだ。
 そう、俺には人に知られたくない秘密があった。
 何を言い出すかと思うかもしれないが、俺は一人ではなく二人なのだ。
 ある捜査の途中で俺は異生物に寄生されていた。もう一人と言うのはその寄生体のことだ。どうして、寄生体を取り除く努力をしないのかと、言うかもしれない。だが、それを考えさせないほど、寄生体の力が強いのだ。俺の思考方法とは違うが、寄生体は俺よりも知性があるのかもしれない。必要があれば俺の意識を支配し、俺の体の中も変えることができる。だが、普段は潜在意識に隠れて、その姿を見せない。だから、外から見ただけでは寄生される前の俺と変わらないように見える。
 だが、明らかに隠せないことがある。それは以前と違って食欲が増大したことだ。俺は寄生体の分まで食べて体を維持していかなければならなくなった。
 やがて、勝代はジュウジュウと音を立てる鉄のプレートを運んできた。プレートの上には、二枚のステーキが重ねてのせてある。投げやりで料理らしくないが、俺はそんなことは気にしない。ソースをかけないで醤油をかける。醤油の持つ濃い目の味としょっぱさが好きだからだ。俺はナイフとフォークを使い、食べ始めた。やはり、肉はうまい。付け合わせにつけてくれたポテトサラダも箸休めになる。。
 寄生体はもう一つ俺に人に隠せないことをさせている。
 それは、肉の塊を入れたリュックをつねに持たせていることだ。非常時が来たら、寄生体はその肉を食べて力をつけるためだ。ともかく、俺の意思ではない。未知の者に持って歩かされていると人に言ったら、俺は狂っているとしか思われないだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

九竜家の秘密

しまおか
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞・奨励賞受賞作品】資産家の九竜久宗六十歳が何者かに滅多刺しで殺された。現場はある会社の旧事務所。入室する為に必要なカードキーを持つ三人が容疑者として浮上。その内アリバイが曖昧な女性も三郷を、障害者で特殊能力を持つ強面な県警刑事課の松ヶ根とチャラキャラを演じる所轄刑事の吉良が事情聴取を行う。三郷は五十一歳だがアラサーに見紛う異形の主。さらに訳ありの才女で言葉巧みに何かを隠す彼女に吉良達は翻弄される。密室とも呼ぶべき場所で殺されたこと等から捜査は難航。多額の遺産を相続する人物達やカードキーを持つ人物による共犯が疑われる。やがて次期社長に就任した五十八歳の敏子夫人が海外から戻らないまま、久宗の葬儀が行われた。そうして徐々に九竜家における秘密が明らかになり、松ヶ根達は真実に辿り着く。だがその結末は意外なものだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

亡くなった妻からのラブレター

毛蟹葵葉
ミステリー
亡くなった妻からの手紙が届いた 私は、最後に遺された彼女からのメッセージを読むことにした

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

魔法使いが死んだ夜

ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。  そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。  晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。  死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。  この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

処理中です...