刑事殺し・リスト・憎悪

矢野 零時

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プロローグ

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 マンションの塀と立木で作られた場所。そこは、通りから誰にも見られることはなく、側にあるマンションの窓からも隠されていた。ここを通るものといったら、街猫たちだけだった。そこに少年と杖を突いた男が立っていた。
「このままじゃ。珠美ちゃんが殺されてしまう。だから、ぼくが父さんをやるしかないんだ」
 そう言った少年の手には果物ナイフが握られていた。
「ともかく、それはやめなさい。坊やが殺人者になってしまう」
「でも、ずっと、風呂場で水につけられてしまっているんだ。間違いなく、明日は死んでしまうよ」
 少年の唇は恐怖と不安で震えていた。
「まちなさい。私がなんとかするよ」
 男は少年の手から、果物ナイフをもぎとり、自分のコートのポケットに入れた。少年は震えを押えるように唇をかんでいた。
 男は、少年の父親が振るう暴力を知っていた。匿名ではあったが、市や児童相談所にも連絡をし、警察にも通報をしていたのだ。彼らは、一度は訪ねるのだが、父親の言い回しに負けて、すぐに帰ってしまう。その結果は悲惨だった。父親の暴力は減ることはなく、いや、かえって増えていった。少年の中には、哀しみと無力感だけが残り、父親に対する憎しみが心の中に積もり続けていったのだ。
「私がなんとかする。待ちなさい」
 そう言った男は、必死にたちあがった。杖を突いていない手で、少年の頭を強くなぜると、体をゆするようにして木立の間をくぐり光の当たる道路に出ていった。
 歩いていた男は立ち止まり青い空に向かって顔を上げた。空には太陽が輝き男の目を射った。それでも、男は太陽を見続けていた。それをすることで、祈りが届くと思っているかのようだった。
「憎悪を持つしかない。だが、私に力が時間がまだあるのだろうか?」
 
 
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