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衆愚政治を知る
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ぼくは家からけっこう外に出かけているのですが、お母さんはそれを知りません。家から出て歩くことをさせたいと思ったのでしょう。働きに行く前に、五千円をおいて「たまに出かけて新しい靴を買ってきなさい」と言って、お母さんはでかけていきました。
靴を売っている所は、やはりデパートです。そして、デパートは駅のそばにありました。すぐに、漢字書き取りを終えると、ぼくは家をでました。駅前には、彫刻が飾られていて、そこだけ丸く芝生が植えられているところがあります。
そこに、詩人が立って歩いている人に声をかけていて、芝生のはじには哲学者のおじさんがすわってハモニカーを吹いていました。詩人の足元には、A5判の紙がばらまかれたように置かれていました。これが詩人の作品のようでした。
ぼくが近づいていくと、詩人が声をかけてきました。
「やあ、来てくれたんだ」
そう言われても困ります。ぼくは詩人がいつ作品を売ろうとしているのか、まるで知らなかったからです。
「たしか、詩を売っている所は、駅の駐車場と言っていたと思うけどね」
「そうなんだ。前はそうしていたけどね。駐車場の警備員さんにここでは売らないで下さいと言われてしまったんだよ。だから、ここで売ることにしたんだ」
詩人は腰をかがめ、二枚の紙にかかれた作品を手にとって、それをぼくに見せました。
一枚の紙には、ひまわりとバラの花の絵がかかれ、紙の上には詩として、
『きれいだわ。美しすぎて、いつまでも見ていたい。』と書かれていたのです。
二枚目の紙には、耳がある太った人がかかれていました。どうみても、ブタです。ブタが棒につけられた水あめを口に入れて目を細めているのです。でも、お尻には注射針が射され、長い管で血を抜かれているようでした。さらに、小刀が刺さっていて、それで腰の肉が切られ、霜降りの肉が見えていました。
そして、その絵の上に書かれた詩には、
『あまい。あまいな。なにもかも忘れていられる。』と書かれていました。
+
「どちらを買ってくれるかな?」
「選ばなければならないの?」
詩人は当然のように、うなずいていました。
「やっぱり、お花の絵かな?」
「残念だね、少年。君までその絵を選ぶのか!」と言って、おじさんがハモニカーを吹くのをやめて、立ち上がりました。
「これを選んだらだめなの?」
おじさんは、そうだと言う顔でうなずいていました。
「でも、通りに残っているのは太った人の絵ばかりだよ。ということは、花の方を買った人が多いからだ」
「私らもそう思って花の方を多く持ってきているよ。だが少年。みんなが本当にいいと思って花の方を買ったと思っているかい?」とおじさんは哲学者ぽく聞いてきました。
ぼくは大きくうなずいていました。
「違うね。彼らは本当のことを見たくないんだ。いや、見ないようにしている。だから、自分らの姿をえがかれた絵を買わなかったのさ」
「こんなブタのようなめに、ぼくらは、いや大人の人たちは会っていないと思うな」
「本当かね?」
「だって、ぼくらは民主主義で暮しているんだよ。あまり勉強が好きでないぼくだって、ちゃんと知っているよ」
「ほほう、偉いな。だが、衆愚政治という言葉を知らんだろうな」
「えっ、小学生だからね。そんな言葉は教科書に載っていなかったと思うけど?」
「簡単にいうと、大衆、つまり民衆の参加する民主主義は結局愚劣で堕落した政治に陥るという考え方だよ」
「へえ、そうなんですか?」
「これは古代のギリシャで生まれた言葉だが、この言葉で言うしかないことが、あちらこちらで起こっていると、私は思っているのだよ」
だんだんおじさんは哲学者にしか見えなくなっていました。
「そんなの古代ギリシャの話でしょ。いまはちゃんと民主主義が行われているよ」
「ドイツでヒットラーという権力者が生まれたことを君も知っているよね」
思わず、ぼくはうなずいていました。
「ヒットラーがヨーロッパで第二次世界大戦をおこす前には、ドイツの国では彼を愛国者だと思われていたんだよ。ドイツで生まれた共和国やワイマール憲法も民主主義なのに壊れていった。そもそも民主主義って、なんなのかね?」
ぼくは何も言えませんでした。本で調たり、考えてみないといけないと、ぼくは思っていました。今まで、そんなことはなかったことです。
「少年、これは君への宿題にしておこう」と言って、哲学者はにっこりと笑いました。
そんな時に男女の二人連れがやってきて、花の絵がある紙を手に取り、詩人に百円を渡していたのです。
「そうだ。ぼくは靴を買わなければならなかったんだ」
ぼくは哲学者と詩人に向かって、軽く頭をさげると、デパートに向かって歩き出していました。
靴を買った後、ぼくは本屋に行き、高校生の参考書コーナーにたちよりました。
そこには、政治や経済のこと書いた参考書がおいてありましたので、それを手にとり、立ち読みをしました。買おうとも思ったのですが、高校生の参考書は値段が高いし、そもそもぼくは余分なお金を持っていません。そこで買った靴をいれてくれた袋にボールペンで大事だと思うことは次々とメモをしておきました。
参考書には、民主主義とは「人民が主権を持ち、自らの手で、自らのために政治を行うこと」と書かれていました。さらに、国民全部が集まれないので、選挙で代表者がえらばれ、代表者による多数決で政治が決められるとも書かれていたのでした。
ぼくは安心をしていました。このやり方で、ぼくらの国もやっている。ぼくはそのことを、明日、公園にいる哲学者と詩人に話にいくつもりでした。
ちなみに、帰ってきたお母さんにぼくが買ってきた靴をみせると、「いい靴だね」と言って喜んでくれました。
靴を売っている所は、やはりデパートです。そして、デパートは駅のそばにありました。すぐに、漢字書き取りを終えると、ぼくは家をでました。駅前には、彫刻が飾られていて、そこだけ丸く芝生が植えられているところがあります。
そこに、詩人が立って歩いている人に声をかけていて、芝生のはじには哲学者のおじさんがすわってハモニカーを吹いていました。詩人の足元には、A5判の紙がばらまかれたように置かれていました。これが詩人の作品のようでした。
ぼくが近づいていくと、詩人が声をかけてきました。
「やあ、来てくれたんだ」
そう言われても困ります。ぼくは詩人がいつ作品を売ろうとしているのか、まるで知らなかったからです。
「たしか、詩を売っている所は、駅の駐車場と言っていたと思うけどね」
「そうなんだ。前はそうしていたけどね。駐車場の警備員さんにここでは売らないで下さいと言われてしまったんだよ。だから、ここで売ることにしたんだ」
詩人は腰をかがめ、二枚の紙にかかれた作品を手にとって、それをぼくに見せました。
一枚の紙には、ひまわりとバラの花の絵がかかれ、紙の上には詩として、
『きれいだわ。美しすぎて、いつまでも見ていたい。』と書かれていたのです。
二枚目の紙には、耳がある太った人がかかれていました。どうみても、ブタです。ブタが棒につけられた水あめを口に入れて目を細めているのです。でも、お尻には注射針が射され、長い管で血を抜かれているようでした。さらに、小刀が刺さっていて、それで腰の肉が切られ、霜降りの肉が見えていました。
そして、その絵の上に書かれた詩には、
『あまい。あまいな。なにもかも忘れていられる。』と書かれていました。
+
「どちらを買ってくれるかな?」
「選ばなければならないの?」
詩人は当然のように、うなずいていました。
「やっぱり、お花の絵かな?」
「残念だね、少年。君までその絵を選ぶのか!」と言って、おじさんがハモニカーを吹くのをやめて、立ち上がりました。
「これを選んだらだめなの?」
おじさんは、そうだと言う顔でうなずいていました。
「でも、通りに残っているのは太った人の絵ばかりだよ。ということは、花の方を買った人が多いからだ」
「私らもそう思って花の方を多く持ってきているよ。だが少年。みんなが本当にいいと思って花の方を買ったと思っているかい?」とおじさんは哲学者ぽく聞いてきました。
ぼくは大きくうなずいていました。
「違うね。彼らは本当のことを見たくないんだ。いや、見ないようにしている。だから、自分らの姿をえがかれた絵を買わなかったのさ」
「こんなブタのようなめに、ぼくらは、いや大人の人たちは会っていないと思うな」
「本当かね?」
「だって、ぼくらは民主主義で暮しているんだよ。あまり勉強が好きでないぼくだって、ちゃんと知っているよ」
「ほほう、偉いな。だが、衆愚政治という言葉を知らんだろうな」
「えっ、小学生だからね。そんな言葉は教科書に載っていなかったと思うけど?」
「簡単にいうと、大衆、つまり民衆の参加する民主主義は結局愚劣で堕落した政治に陥るという考え方だよ」
「へえ、そうなんですか?」
「これは古代のギリシャで生まれた言葉だが、この言葉で言うしかないことが、あちらこちらで起こっていると、私は思っているのだよ」
だんだんおじさんは哲学者にしか見えなくなっていました。
「そんなの古代ギリシャの話でしょ。いまはちゃんと民主主義が行われているよ」
「ドイツでヒットラーという権力者が生まれたことを君も知っているよね」
思わず、ぼくはうなずいていました。
「ヒットラーがヨーロッパで第二次世界大戦をおこす前には、ドイツの国では彼を愛国者だと思われていたんだよ。ドイツで生まれた共和国やワイマール憲法も民主主義なのに壊れていった。そもそも民主主義って、なんなのかね?」
ぼくは何も言えませんでした。本で調たり、考えてみないといけないと、ぼくは思っていました。今まで、そんなことはなかったことです。
「少年、これは君への宿題にしておこう」と言って、哲学者はにっこりと笑いました。
そんな時に男女の二人連れがやってきて、花の絵がある紙を手に取り、詩人に百円を渡していたのです。
「そうだ。ぼくは靴を買わなければならなかったんだ」
ぼくは哲学者と詩人に向かって、軽く頭をさげると、デパートに向かって歩き出していました。
靴を買った後、ぼくは本屋に行き、高校生の参考書コーナーにたちよりました。
そこには、政治や経済のこと書いた参考書がおいてありましたので、それを手にとり、立ち読みをしました。買おうとも思ったのですが、高校生の参考書は値段が高いし、そもそもぼくは余分なお金を持っていません。そこで買った靴をいれてくれた袋にボールペンで大事だと思うことは次々とメモをしておきました。
参考書には、民主主義とは「人民が主権を持ち、自らの手で、自らのために政治を行うこと」と書かれていました。さらに、国民全部が集まれないので、選挙で代表者がえらばれ、代表者による多数決で政治が決められるとも書かれていたのでした。
ぼくは安心をしていました。このやり方で、ぼくらの国もやっている。ぼくはそのことを、明日、公園にいる哲学者と詩人に話にいくつもりでした。
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