引きこもり・ひらひら

矢野 零時

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キツネがいた

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 ぼくは学校でいじめられたので、学校に行くのをやめました。つまり、引きこもりを始めたのです。
 お母さんも、始めは学校に行きなさいとぼくに言っていましたが、今ではもうあきらめたようで、何も言わなくなりました。
 お父さんは死んでいないので、お父さんの代わりに、お母さんが働いてくれていました。
 職場は、昼間はコンビニ、夜は居酒屋でした。

 今日は、昼のために、お母さんはサンドイッチを作ってくれ、サランラップをかけて食卓テーブルの上においてくれました。昼になり、ぼくは自分の部屋から出て階段をおりて居間に行きました。

 そこでサンドイッチを食べていると庭の花の間から、顔をこちらにむけているものがいました。
 始めは、犬かなと思っていたのですが、鼻がつきだし耳の先がとがっています。体にはえている毛は黄色いのですが、どこかすすけて汚れた感じでした。
「キツネだ。まちがいはない」と、ばくは声をあげました。居間のガラス戸が閉まっていましたので、ぼくの声は聞こえてはいないようです。
 ハムをはさんであるサンドイッチを半分だけ残すと、それを手にぼくはガラス戸を開けサンダルをはいて、ベランダから庭に出て行きました。
 キツネも何かくれるなと思ったのでしょうか、逃げずにぼくを待っていてくれました。でも、その目は猜疑心に満ちていて、ぼくがおかしな動きをしたら、すぐに逃げなければと思っているようでした。

「食べ物だよ。食べ物。安心して食べてよ」
 ぼくがそう言いながら、キツネの前にサンドイッチをおいてやりました。キツネは鼻で食べ物であることを確かめながら、目はぼくの方を見ていました。おかしなことしないかと警戒をしていたのです。

 でも、キツネはサンドイッチを食べ終わると満足したのか、ぼくの庭から出て行きました。
 
 そんなキツネを目で追っていると、キツネは他の家に入り込んでいったのです。ぼくは、キツネはその家に行って、何をするうtもりなのか、たしかめたくなりました。そこで、庭柵の間から抜け出して、ぼくはキツネが入った家に向かったのでした。

 その家は古い家で縁側がありました。
 縁側にはステテコに半袖シャツをきたお爺さんが、ウチワであおぎながら座っていたのでした。ぼくが覗いていると、お爺さんが、こっちへ来いと手をふっていました。しかたなく、ぼくはお爺さん所に行きました。
「ぼうが、学校に行ってない所を見れば、今日は開校記念日なのかな?」
 そんな質問には、うまく答えることはできませんので、ぼくはもじもじしながら黙っていました。
「なにか、ようかな?」
「キツネ、お爺さんの所にきたでしょう?」
「ほう、ぼうは、動物好きなんだ。キツネはね。わしの庭がとおり道になっているようだよ」
「こんな街中に、キツネがいるんですね」
「この辺りにはキツネ牧場がたくさんあったんだよ」
「キツネ牧場?」
「そうだよ。この辺りにはたくさんの人たちがキツネを飼っていた」
「どうしてですか?」
「戦前の話だよ。キツネからはいい毛皮がとれるからね。だが、戦争が始まると、ぜいたく品はいかんと言われて、毛皮作りをやめさせられたからね」
「じゃ、キツネ牧場にいたキツネたちは?」
「その辺の野原に逃がしてやった人もいたと思うよ」
「キツネのことなんか、まるで考えていなかったんだ」と、ぼくは声をあげました。
「そうなんだ。人間は先のことなど考えていない。いや、見えていないんだよ。たくさん増やせば、金もうけに利用できると思って増やし、飼いきれなくなって、ほっておかれた生き物はたくさんいるんだよ。ウシガエル、アメリカザリガニなんかが有名かな」
「動物を飼うときは、かわいいと思って飼わないからだと思うな」
「ぼう、だけど動物をかわいいだけでは、飼うことは難しいんだね」
「ええ、そうなの?」
「かわいいと思えなくなるとどうなるかな。かわいいと思っていたのに、思えなくなってすてられた動物もたくさんいるよ。あらいぐま、ハクビシン、ミドリガメが有名かな」

 ぼくが学校に行っていた頃のことですが、同じクラスの広志がミドリガメを飼っていて、水槽に入りきらなくなったので川に逃がしたのですが、そのときに、ぼくもいっしょに行ったことがあったのです。

 むずかしい話になって、ぼくは腕をくんでいました。

「ところで、ソフトクリームでも、食べるかい?」と、お爺さんに言われたので、ぼくはうなずきました。
 すぐにお爺さんは立ちあがり、冷蔵庫からソフトクリームを二つ出してきて、一つをぼくにくれました。ぼくは縁側に腰をおろしてソフトクリームを食べだしました。
 熱い夏には、やっぱりソフトクリームだなと、ぼくは思っていました。

 











 

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