引きこもり・ひらひら

矢野 零時

文字の大きさ
上 下
3 / 11

キツネがいた

しおりを挟む
 ぼくは学校でいじめられたので、学校に行くのをやめました。つまり、引きこもりを始めたのです。
 お母さんも、始めは学校に行きなさいとぼくに言っていましたが、今ではもうあきらめたようで、何も言わなくなりました。
 お父さんは死んでいないので、お父さんの代わりに、お母さんが働いてくれていました。
 職場は、昼間はコンビニ、夜は居酒屋でした。

 今日は、昼のために、お母さんはサンドイッチを作ってくれ、サランラップをかけて食卓テーブルの上においてくれました。昼になり、ぼくは自分の部屋から出て階段をおりて居間に行きました。

 そこでサンドイッチを食べていると庭の花の間から、顔をこちらにむけているものがいました。
 始めは、犬かなと思っていたのですが、鼻がつきだし耳の先がとがっています。体にはえている毛は黄色いのですが、どこかすすけて汚れた感じでした。
「キツネだ。まちがいはない」と、ばくは声をあげました。居間のガラス戸が閉まっていましたので、ぼくの声は聞こえてはいないようです。
 ハムをはさんであるサンドイッチを半分だけ残すと、それを手にぼくはガラス戸を開けサンダルをはいて、ベランダから庭に出て行きました。
 キツネも何かくれるなと思ったのでしょうか、逃げずにぼくを待っていてくれました。でも、その目は猜疑心に満ちていて、ぼくがおかしな動きをしたら、すぐに逃げなければと思っているようでした。

「食べ物だよ。食べ物。安心して食べてよ」
 ぼくがそう言いながら、キツネの前にサンドイッチをおいてやりました。キツネは鼻で食べ物であることを確かめながら、目はぼくの方を見ていました。おかしなことしないかと警戒をしていたのです。

 でも、キツネはサンドイッチを食べ終わると満足したのか、ぼくの庭から出て行きました。
 
 そんなキツネを目で追っていると、キツネは他の家に入り込んでいったのです。ぼくは、キツネはその家に行って、何をするうtもりなのか、たしかめたくなりました。そこで、庭柵の間から抜け出して、ぼくはキツネが入った家に向かったのでした。

 その家は古い家で縁側がありました。
 縁側にはステテコに半袖シャツをきたお爺さんが、ウチワであおぎながら座っていたのでした。ぼくが覗いていると、お爺さんが、こっちへ来いと手をふっていました。しかたなく、ぼくはお爺さん所に行きました。
「ぼうが、学校に行ってない所を見れば、今日は開校記念日なのかな?」
 そんな質問には、うまく答えることはできませんので、ぼくはもじもじしながら黙っていました。
「なにか、ようかな?」
「キツネ、お爺さんの所にきたでしょう?」
「ほう、ぼうは、動物好きなんだ。キツネはね。わしの庭がとおり道になっているようだよ」
「こんな街中に、キツネがいるんですね」
「この辺りにはキツネ牧場がたくさんあったんだよ」
「キツネ牧場?」
「そうだよ。この辺りにはたくさんの人たちがキツネを飼っていた」
「どうしてですか?」
「戦前の話だよ。キツネからはいい毛皮がとれるからね。だが、戦争が始まると、ぜいたく品はいかんと言われて、毛皮作りをやめさせられたからね」
「じゃ、キツネ牧場にいたキツネたちは?」
「その辺の野原に逃がしてやった人もいたと思うよ」
「キツネのことなんか、まるで考えていなかったんだ」と、ぼくは声をあげました。
「そうなんだ。人間は先のことなど考えていない。いや、見えていないんだよ。たくさん増やせば、金もうけに利用できると思って増やし、飼いきれなくなって、ほっておかれた生き物はたくさんいるんだよ。ウシガエル、アメリカザリガニなんかが有名かな」
「動物を飼うときは、かわいいと思って飼わないからだと思うな」
「ぼう、だけど動物をかわいいだけでは、飼うことは難しいんだね」
「ええ、そうなの?」
「かわいいと思えなくなるとどうなるかな。かわいいと思っていたのに、思えなくなってすてられた動物もたくさんいるよ。あらいぐま、ハクビシン、ミドリガメが有名かな」

 ぼくが学校に行っていた頃のことですが、同じクラスの広志がミドリガメを飼っていて、水槽に入りきらなくなったので川に逃がしたのですが、そのときに、ぼくもいっしょに行ったことがあったのです。

 むずかしい話になって、ぼくは腕をくんでいました。

「ところで、ソフトクリームでも、食べるかい?」と、お爺さんに言われたので、ぼくはうなずきました。
 すぐにお爺さんは立ちあがり、冷蔵庫からソフトクリームを二つ出してきて、一つをぼくにくれました。ぼくは縁側に腰をおろしてソフトクリームを食べだしました。
 熱い夏には、やっぱりソフトクリームだなと、ぼくは思っていました。

 











 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

世にも奇妙な日本昔話

佐野絹恵(サノキヌエ)
児童書・童話
昔々ある所に お爺さんと お婆さんが住んでいました お婆さんは川に洗濯物へ お爺さんは山へ竹取りへ 竹取り? お婆さんが川で 洗濯物をしていると 巨大な亀が泳いで来ました ??? ━━━━━━━━━━━━━━━ 貴方の知っている日本昔話とは 異なる話 ミステリーコメディ小説

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

【総集編】アリとキリギリスパロディ集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。 1分で読める! 各話読切 アリとキリギリスのパロディ集

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

眠れる夜のお話

天仕事屋(てしごとや)
児童書・童話
子供たちが安心して聴ける 眠れるお話です。

おじいちゃんの汚名を払拭、最強姉妹の冒険記録~長所がなかったはずの私の長所は膨大な魔力量?!~

荒井竜馬
児童書・童話
 ある日、十歳の女の子の柊楓(ひいらぎかえで)はトラックに轢かれそうになる子供を庇って、死にそうになってしまう。  しかし、寸でのところで別世界に転移させられて、カエデの命は助かることになる。  そして、カエデは突然、自分を世界に転移させたオラルというおじいちゃんに、孫になってくれとお願いされる。  似ている境遇にいたアリスという女の子と共に、オラルのもとで孫として生活をしていく中で、カエデは自分に膨大な魔力があることを知る。  少しずつ魔法をアリスから習っていく中で、カエデとアリスはある決意をすることになる。  チートみたいな能力のある二人は、とある事情から力を隠して冒険者をすることになる。  しかし、力を隠して冒険者をするというのも難しく、徐々にバレていき……  果たして、二人は異世界で目立ちすぎずに、冒険者として生活をしていくことができるのか。  これは、冒険者を目指すことになった、姉妹のような二人の女の子のお話。  冒険をしたり、少しまったりしたり、そんな少女たちの冒険記録。  ※10話で一区切りになっているので、とりあえず、そこまでだけでもご一読ください!

処理中です...