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哲学者とあう
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ぼくは学校でいじめられているので、学校に行くのをやめました。つまり、引きこもりを始めたのです。
お母さんには、何度も学校に行きなさいと、言われました。でも、いじめの理由の一つに「父なし子と言われているんだよ」と言うと、お母さんは何も言わなくなりました。
お母さんは、お父さんの代わりにお金をかせいでくれています。昼間はコンビニ、夜は居酒屋で働いていました。
朝が来て、ぼくがリビングに行くと、お母さんが作った朝食はすでにテーブルにおかれていました。目玉やきにジャガイモのサラダ、それに定番のご飯と味噌汁です。
「おはよう」と言って、テーブルを前にすると、ぼくはすぐに食べ出しました。
「学校に行かないのはいいけれど、その代わり、自分で勉強しておかなければ、だめですよ」と、お母さん。
「わかっているよ」
ぼくは食べながら答えました。ぼくも今日は教科書には目を通しておくつもりだったからです。
「お昼には、家に帰ってきますからね。その時に、お昼に食べる物を買ってくるつもりよ」
やがて、お母さんは、ぼくのことを気にかけながらコンビニに出かけて行きました。
食べ終わったぼくは、食器を台所に置きに行ってから、自分の部屋に戻りました。机の引き出しから国語の教科書を出し、いま習っているはずのページを大声で読んでみました。それに疲れると、今度は漢字を抜き出して、ノートに書き、国語の辞典で意味を調べて、それを漢字の下に書いてみました。
やがて、勉強することに、あきがきました。
窓の外を見ますと、明るい空がマンションビルの間から見えました。そこで、ぼくは家から出てみることに決めて、椅子から立ちあがりました。自分の部屋を出ると、ぼくは玄関でズック靴をはいて家を出ました。
でも、どこへ行こうか?
いろいろ考えたぼくは、やっと思いつくことができました、
そこは、みなみ公園です。
みなみ公園は、街中のマンションビルに囲まれた所にあるのですが、そこだけ木々がたくさんある場所です。
遊具がある公園や運動公園なんかも近くにあるせいか、子供たちがここに来ることはない公園でした。
ぼくは笑顔になって歩き出し、十分もするとみなみ公園が見えてきました。
公園の中に入ると、かしわの木のそばに小さな小屋が建てられていたのです。ぼくはゆっくりと小屋に近づきました。
すると、中から男の人が出てきました。 男の人は白いひげをはやしています。
「おじさん、勝手にこんな所に家なんか作ったらだめだよ」
「家を作っている時に、誰もだめだとは言われなかったぞ」と言って、男は胸をはりました。
ぼくは、思わず周りを見回しましたが、誰も人はいませんので文句を言う人もいなかったのでしょう。
「わかった。おじさん、ホームレスでしょう?」
ホームレスとは、住む家がなくなったので、駅の構内や公園で寝泊まりをしている人たちのことでした。その程度の知識は、ぼくにもありました。
「たしかに、駅前の公園にいたことはある。役所の連中がやってきて、追い出されてしまったがね。だが、わしは、いまはホームレスなんかじゃないぞ」と、男は怒鳴り出しました。
「じゃ、おじさんは、なんなのさ?」
「わしは、哲学者じゃ」
「哲学者って、何をする人なの?」
「哲学者は、何が本当のことなのか、常に考えている者だよ」
「へえ、えらいんだ」
「その通りじゃ」
でも、ぼくが不審げに首を傾げてしまいました。
「疑っておるのか! わしのことを」
ぼくが首を傾げたことが、気にいらなかったのでしょうか?
「あんたが、どの程度世の中のことを考えているか、確かめてやる」
「考えたくなくても、考えてしまう。世の中のことは、本当に悩むことばかりだと思うよ」
「この世で、自分の存在を主張している昆虫がいる。それは、何か?」
「えっ、問題ですか?」
ぼくは首をひねりました。でも、解答がわかりません。
「こうさんかね」
「ええ」
「そうじゃろう。それでは、教えてあげよう」
「はい、なんですか?」
「それはアリじゃ」
「え、アリですか?」
「アリは自分のことを常に、ここに有りと言っておるではないか!」
ぼくは、う~むと声を出し、腕を組んでいました。
「次はどうじゃ。自分の存在を否定している植物がいる。それは、何か?」
「それも、わからないよ」
「やっぱりだめか! それは、果物でもある梨じゃよ」
「存在をしていながら、自分がない、ナシと言っているではないか」
「別に、梨は、自分でナシとか言ってはいないと思うけど…」
「もう、いちもん、聞くぞ」
「自分の存在を疑っている魚がいるぞ。それは、何か?」
「え、そんなのいたっけ?」
ぼくはふたたび首をかしげました。
「わからんのか?」
「わかりません」
「じゃ、教えてやろう。それはイルカじゃ」
「イルカ?」
「イルカは、つねに、なぜここにいるか。イルカと疑っているからのう」
ぼくは、ふたたび腕を組んで、うなってしまいました。
「でも、おじさん。イルカは魚じゃなくて、クジラと同じ哺乳類だよ」
「えっ、そうじゃったかのう。哲学者でも勘違いをすることはあるぞ」
男の言葉にうなずきながら、ぼくは腕時計を見ていました。
時計の針は、後十五分もすれば昼の十二時をさそうとしていたのです。お母さんが家に戻ってくる前に、ぼくが家に帰らなければなりません。
「おじさん、お話し楽しかったよ」と、ぼくは片手をあげて家に帰る道を歩き出しました。
「少年よ。待ちなさい。もう少し話をしようではないか」と、男はぼくの背に声をかけてきました。
お母さんには、何度も学校に行きなさいと、言われました。でも、いじめの理由の一つに「父なし子と言われているんだよ」と言うと、お母さんは何も言わなくなりました。
お母さんは、お父さんの代わりにお金をかせいでくれています。昼間はコンビニ、夜は居酒屋で働いていました。
朝が来て、ぼくがリビングに行くと、お母さんが作った朝食はすでにテーブルにおかれていました。目玉やきにジャガイモのサラダ、それに定番のご飯と味噌汁です。
「おはよう」と言って、テーブルを前にすると、ぼくはすぐに食べ出しました。
「学校に行かないのはいいけれど、その代わり、自分で勉強しておかなければ、だめですよ」と、お母さん。
「わかっているよ」
ぼくは食べながら答えました。ぼくも今日は教科書には目を通しておくつもりだったからです。
「お昼には、家に帰ってきますからね。その時に、お昼に食べる物を買ってくるつもりよ」
やがて、お母さんは、ぼくのことを気にかけながらコンビニに出かけて行きました。
食べ終わったぼくは、食器を台所に置きに行ってから、自分の部屋に戻りました。机の引き出しから国語の教科書を出し、いま習っているはずのページを大声で読んでみました。それに疲れると、今度は漢字を抜き出して、ノートに書き、国語の辞典で意味を調べて、それを漢字の下に書いてみました。
やがて、勉強することに、あきがきました。
窓の外を見ますと、明るい空がマンションビルの間から見えました。そこで、ぼくは家から出てみることに決めて、椅子から立ちあがりました。自分の部屋を出ると、ぼくは玄関でズック靴をはいて家を出ました。
でも、どこへ行こうか?
いろいろ考えたぼくは、やっと思いつくことができました、
そこは、みなみ公園です。
みなみ公園は、街中のマンションビルに囲まれた所にあるのですが、そこだけ木々がたくさんある場所です。
遊具がある公園や運動公園なんかも近くにあるせいか、子供たちがここに来ることはない公園でした。
ぼくは笑顔になって歩き出し、十分もするとみなみ公園が見えてきました。
公園の中に入ると、かしわの木のそばに小さな小屋が建てられていたのです。ぼくはゆっくりと小屋に近づきました。
すると、中から男の人が出てきました。 男の人は白いひげをはやしています。
「おじさん、勝手にこんな所に家なんか作ったらだめだよ」
「家を作っている時に、誰もだめだとは言われなかったぞ」と言って、男は胸をはりました。
ぼくは、思わず周りを見回しましたが、誰も人はいませんので文句を言う人もいなかったのでしょう。
「わかった。おじさん、ホームレスでしょう?」
ホームレスとは、住む家がなくなったので、駅の構内や公園で寝泊まりをしている人たちのことでした。その程度の知識は、ぼくにもありました。
「たしかに、駅前の公園にいたことはある。役所の連中がやってきて、追い出されてしまったがね。だが、わしは、いまはホームレスなんかじゃないぞ」と、男は怒鳴り出しました。
「じゃ、おじさんは、なんなのさ?」
「わしは、哲学者じゃ」
「哲学者って、何をする人なの?」
「哲学者は、何が本当のことなのか、常に考えている者だよ」
「へえ、えらいんだ」
「その通りじゃ」
でも、ぼくが不審げに首を傾げてしまいました。
「疑っておるのか! わしのことを」
ぼくが首を傾げたことが、気にいらなかったのでしょうか?
「あんたが、どの程度世の中のことを考えているか、確かめてやる」
「考えたくなくても、考えてしまう。世の中のことは、本当に悩むことばかりだと思うよ」
「この世で、自分の存在を主張している昆虫がいる。それは、何か?」
「えっ、問題ですか?」
ぼくは首をひねりました。でも、解答がわかりません。
「こうさんかね」
「ええ」
「そうじゃろう。それでは、教えてあげよう」
「はい、なんですか?」
「それはアリじゃ」
「え、アリですか?」
「アリは自分のことを常に、ここに有りと言っておるではないか!」
ぼくは、う~むと声を出し、腕を組んでいました。
「次はどうじゃ。自分の存在を否定している植物がいる。それは、何か?」
「それも、わからないよ」
「やっぱりだめか! それは、果物でもある梨じゃよ」
「存在をしていながら、自分がない、ナシと言っているではないか」
「別に、梨は、自分でナシとか言ってはいないと思うけど…」
「もう、いちもん、聞くぞ」
「自分の存在を疑っている魚がいるぞ。それは、何か?」
「え、そんなのいたっけ?」
ぼくはふたたび首をかしげました。
「わからんのか?」
「わかりません」
「じゃ、教えてやろう。それはイルカじゃ」
「イルカ?」
「イルカは、つねに、なぜここにいるか。イルカと疑っているからのう」
ぼくは、ふたたび腕を組んで、うなってしまいました。
「でも、おじさん。イルカは魚じゃなくて、クジラと同じ哺乳類だよ」
「えっ、そうじゃったかのう。哲学者でも勘違いをすることはあるぞ」
男の言葉にうなずきながら、ぼくは腕時計を見ていました。
時計の針は、後十五分もすれば昼の十二時をさそうとしていたのです。お母さんが家に戻ってくる前に、ぼくが家に帰らなければなりません。
「おじさん、お話し楽しかったよ」と、ぼくは片手をあげて家に帰る道を歩き出しました。
「少年よ。待ちなさい。もう少し話をしようではないか」と、男はぼくの背に声をかけてきました。
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