ご一緒に お茶でも

矢野 零時

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8喫茶店存立問題

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 カサイ帝国へコンテストに参加し、花嫁の着付けをするためにジョージは随行していかなければなりません。その間、カンナさんがジョージの洋装店をまかされることになりました。もちろん、カンナさんは店を守ってジョージを待ってくれると言っています。
 後は、アーサーがどうするかです。
 ジョージがカサイ帝国への旅をしている間、何が起きるかわかりません。ジョージを守るためにアーサーもジョージについて行かなければと思っていました。
 そうなると、喫茶店は店を閉めるしかありません。
 アーサーがため息をついていると、リンダが声をかけてきました。
「アーサーさま、喫茶店のことで悩んでおられるのですか?」
「そうだよ。ジョージがセシール姫さまといっしょに旅にでる。だが、旅の途中で何が起きるかわからない。だから、ジョージを守るために私もジョージといっしょに旅に行こうと思っているんだ」
「では、この店を誰がするのですか?」
「誰もいないな。まずは喫茶店を閉店にしようと思うんだ」
「これだけ、はやっているのに、もったいないですよ」
「リンダさんには申し訳ない。喫茶店がなくなると、働き口がなくなる。リンダさんの働き口はこの商店街のどこかに見つけておくつもりだからね」
「ここはアーサーさまのお城ですよ。守らなければなりません」
「お城ね!そうだ。いいことを思いついた。リンダさんがこの喫茶店をやってくれないか、店をゆずるよ」
「それはダメですよ」
「え、どうして?」
「アーサーさまが、ジョージさまについて行かれる時は、私はアーサーさまについて旅に行きますから」
 アーサーは口を開けて、リンダをみつめていました。
「じゃ、やっぱり、この店は閉店だね」
「また、アルバイト募集のチラシをはりだしてみるのはどうでしょう?」
「でも、今度欲しい店員は、経験者で、一日中店にいてもらわなければならないぞ」
 しばらくの間、リンダは軽く頭を横にかしげていました。
「なんとか、なると思いますよ」
「そうかな?」
 他にいいアイデアも浮かばないので、アーサーはカウンターの上に紙をもってきて、ペンで次のような、文言を書きました。

 アルバイト募集
 朝8時から夜8時まで働いてくれる人、三名まで募集します。
 待遇:男女とはない。
    朝、昼、夕方にまかない飯を用意いたします。
    賃金は、一日 金貨5枚
                                 喫茶店店主 アーサー
 それをさっそく店の前にはりました。
 
 次の日の朝。
 開店に準備を終えたアーサーがモーニングのためにやってきたお客たちのために仕入れたパンを焼いていた時でした。
 かっぷくのいい少しお腹がつきでた男と小太りの女二人が店の中に入ってきました。
「いらしゃいませ」と、ジョージは言って、三人に挨拶をしました。すると、三人はカウンターにいるジョージのところにやってきました。
「店の外にはってあるチラシを見たんだが、やとってくれないかね」
「みなさん、全員がこの店で働くことを望んでいるのですか?」
 ジョージがそう聞くのも無理のないことでした。この歳の人たちならば、それぞれの部署で活躍をしていそうな人たちだったからです。
「そうだよ。そろそろ仕事を変えたくなったからね」
 渡りに船、あまりにも都合よすぎます。
「じゃ、お願いできますか。まずお名前を教えていただきたいと思います」
「わしはフランクリン」
「私は、マリア」
「私はミネルバ」
 アーサーが何も言わないのに、三人はすぐに働き出しました。リンダは三人と目をあわすと笑顔をむけています。パンを運んできていたパン屋の職人たちともすぐに仲良くなっていました。
 昼に様子を見に来たカンナさんは「これで、一安心だね」と言ってました。
 
 この三人が何者なのか、お話をする前に、少しデル王国の制度についてお話をしておきましょう。
 デル王国の王家に生まれた子どもたちは、母である女王さまが直接育てることをしません。オローラ姫さまやセシール姫さまにはそれぞれ乳母がついて、その乳母によってずっと育てられていたのでした。
 乳母になっている方はこの国の公爵の妻がその任にあたっていました。
 公爵はデル王国に長い間つかえ、信用を得て、領地も与えられ、直属の部下ももっていたのです。
 セシール姫さまの乳母は、ブスタ家の奥さま、ホメルでした。今回はセシール姫さまの縁組が決まりましたので、空を飛ぶことができたように喜んでいました。
 オローラ姫さまの乳母は、ケンド家の奥さま、サマンサでした。長女でありながらオローラ姫さまが結婚できなかったことを一番くやんでいました。サマンサは、オローラ姫さまの恋心を知ると、それをかなえさせてやりたいと思っていたのです。
 もうお分かりですね。喫茶店のアルバイトをしたいと現れたのはケンド家の料理長とメイド二人だったのでした。




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