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3相談
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アーサーはじっくりと話ができると思い、ジョージを喫茶店にさそいました。
すると、ジョージは「人に聞かれたくないこともあるので、たまに洋装店の屋根裏部屋はどうですか?」と、言ったのです。
「それは相当な相談ごとですね。それでは先に店に行っていてください」と、アーサーはジョージに言って、ジョージを荷車から降ろしました。それから、ロバに声をかけて荷車を喫茶店の裏に運び、そこにあるポプラの木にロバをつなぎました。ロバは、木の周りにある草を食べ出していました。
アーサーは喫茶店の前に戻ると店の出入口から声をかけて、カンナさんに無事にジョージが戻ったことを告げました。それから、真向かいの洋装店に歩いて行きました。
洋装店に入ると、アーサーは「ジョージは屋根裏にいるんだね?」とジョアンナに声をかけてから、立てかけてある梯子を使って屋根裏部屋にあがりました。
「やあ、待っていましたよ」と、ジョージはテーブルを前にしています。
テーブルをはさんでアーサーも丸椅子に腰をおろしました。
「まず、報告をしなければならないことがあります。それは悪いことと良いことの二つありますが、どちらから話したらいいですかね?」と、ジョージ。
「それなら、良いことからにしましょう」と、アーサーは言いました。
「そうですね」と言って、床においていた袋を持ち上げ、テーブルの上に袋を開けて、中に入っている物を出してみせました。袋の中からは、金貨がジャラジャラと音をたてて、テーブルの上に落ちていきます。
「これは、どうしたんですか?」
「セシール姫さまが結婚される時に着る花嫁衣装を作るように言い渡されたのですよ。これがその手間賃と材料費ということでしょう」
「それは、よかった。おめでとうございます」
「いえ、まだ喜ぶことはできません。私が作った服を必ずしも着てくれるかどうか、わからないからです」
「それはまた、どうしてですか?」
「複数の仕立屋たちがそれぞれに花嫁衣裳を作ります。私もその一人にしかすぎません。作られた服は審査をされ選ばれた服だけが、セシール姫さまが着る花嫁衣装になるという訳ですよ」
「つまり、花嫁衣裳制作コンテストということですね。まず、それに選ばれないといけない」
「そうです。でも、私は自分の作る服に自信をもっています。ですから、セシール姫さまには、ぜひ着ていただきたいと思っています。しかし、選ばれると決まったわけではない」
ジョージは悲痛な声をあげていました。
「そのコンテストに参加できるのは、デル国からは私だけだと聞いていますが、カサイ帝国や世界中の仕立屋が参加してくるそうですよ」
「それに、勝ち抜くことは大変ですね」
アーサーは思わず腕を組んでいました。
「そこで、お願いがあります。これが悪い話になりますが」
「なんですか?」
「服を仕立てる前に、最高の布地を手に入れなければなりません。それを求めて、あっちこっちの市場をまわって見て歩きたい。そうなると常連のお客さまが希望する服を作れなくなります。そこで、カンナさんにうちに戻ってもらえないかと思っているのです。しばらくの間でいい。カンナさんを洋装店に戻していただきたい? それでも、ひと月はかからないと思っていますが」
「私ができることなら、なんでも協力をします。だから、かまいません。でも、カンナさんの気持ちを聞いてみる必要がありますね。じゃ、次は私の店、喫茶店に行って、カンナさんに聞いてみましょう」
ジョージは大きくうなずきました。
「でも、たくさんある金貨はどうします。ちゃんとしまって置かないと盗まれるかもしれませんよ」と言って、アーサーはテーブルの上に散らばっている金貨を見まわしました。
するとジョージは部屋のすみにおかれたカメを指さしました。
「その中に入れて置きますよ。今まで貯めた分もそこに入れてあるんです」
アーサーは立ち上がり、カメの中をのぞきますと、殻つきのクルミがカメの口まで入っていました。ジョージがニヤニヤ笑いながら、椅子から立ってきて、クルミの中に手を入れてかきまわし、カメの中から壺を取り出したのです。壺をテーブルの上におき、蓋を開けました。
「ほら、壺の中に私が今までためてきた銀貨や金貨が入っていますよ」
言われて、アーサーが壺の中をのぞくと、たしかに金貨や銀貨がつまっています。ジョージはテーブルの上に散らばった金貨をつかむと、壺の中に入れて蓋をしました。そして、ふたたび壺をカメの中に入れ戻していました。
「でも、これで盗まれないと言い切れないと思うけど・・」
「大丈夫ですよ。ここから降りたら、階段をはずしてしまいますのでね」
ジョージはすました顔をして屋根裏部屋から先に降り、後についてアーサーも降りました。ジョージは、すぐに梯子をはずしてジョアンナにあずけていました。すると、ジョアンナはそれを裁断台の下に置きました。
「ジョアンナさん、喫茶店に行ってくるよ。留守番よろしくね」
ジョージとアーサーが喫茶店に入って行くと、カウンターにいたカンナさんは笑顔をむけてきました。カウンター前の椅子にジョージとアーサーはすわると、すぐにジョージは先ほどアーサーに言った話をカンナさんにしたのでした。
「よかったですね。ジョージの服作りには、全面的に協力するわ。私なら、洋装店と喫茶店の両方を掛け持ちをしてもいいのよ」
「そんな無理なことをカンナさんにさせられないよ。カンナさんには負けるが、紅茶を入れる腕もだいぶ上がっています。それに私がたまに作るチーズケーキも評判がいいんですよ。ともかく、前から喫茶店の店員を増やさなければと思っていたので、この機会にアルバイトの募集をするつもりです」と言って、アーサーは笑いました。
すると、ジョージは「人に聞かれたくないこともあるので、たまに洋装店の屋根裏部屋はどうですか?」と、言ったのです。
「それは相当な相談ごとですね。それでは先に店に行っていてください」と、アーサーはジョージに言って、ジョージを荷車から降ろしました。それから、ロバに声をかけて荷車を喫茶店の裏に運び、そこにあるポプラの木にロバをつなぎました。ロバは、木の周りにある草を食べ出していました。
アーサーは喫茶店の前に戻ると店の出入口から声をかけて、カンナさんに無事にジョージが戻ったことを告げました。それから、真向かいの洋装店に歩いて行きました。
洋装店に入ると、アーサーは「ジョージは屋根裏にいるんだね?」とジョアンナに声をかけてから、立てかけてある梯子を使って屋根裏部屋にあがりました。
「やあ、待っていましたよ」と、ジョージはテーブルを前にしています。
テーブルをはさんでアーサーも丸椅子に腰をおろしました。
「まず、報告をしなければならないことがあります。それは悪いことと良いことの二つありますが、どちらから話したらいいですかね?」と、ジョージ。
「それなら、良いことからにしましょう」と、アーサーは言いました。
「そうですね」と言って、床においていた袋を持ち上げ、テーブルの上に袋を開けて、中に入っている物を出してみせました。袋の中からは、金貨がジャラジャラと音をたてて、テーブルの上に落ちていきます。
「これは、どうしたんですか?」
「セシール姫さまが結婚される時に着る花嫁衣装を作るように言い渡されたのですよ。これがその手間賃と材料費ということでしょう」
「それは、よかった。おめでとうございます」
「いえ、まだ喜ぶことはできません。私が作った服を必ずしも着てくれるかどうか、わからないからです」
「それはまた、どうしてですか?」
「複数の仕立屋たちがそれぞれに花嫁衣裳を作ります。私もその一人にしかすぎません。作られた服は審査をされ選ばれた服だけが、セシール姫さまが着る花嫁衣装になるという訳ですよ」
「つまり、花嫁衣裳制作コンテストということですね。まず、それに選ばれないといけない」
「そうです。でも、私は自分の作る服に自信をもっています。ですから、セシール姫さまには、ぜひ着ていただきたいと思っています。しかし、選ばれると決まったわけではない」
ジョージは悲痛な声をあげていました。
「そのコンテストに参加できるのは、デル国からは私だけだと聞いていますが、カサイ帝国や世界中の仕立屋が参加してくるそうですよ」
「それに、勝ち抜くことは大変ですね」
アーサーは思わず腕を組んでいました。
「そこで、お願いがあります。これが悪い話になりますが」
「なんですか?」
「服を仕立てる前に、最高の布地を手に入れなければなりません。それを求めて、あっちこっちの市場をまわって見て歩きたい。そうなると常連のお客さまが希望する服を作れなくなります。そこで、カンナさんにうちに戻ってもらえないかと思っているのです。しばらくの間でいい。カンナさんを洋装店に戻していただきたい? それでも、ひと月はかからないと思っていますが」
「私ができることなら、なんでも協力をします。だから、かまいません。でも、カンナさんの気持ちを聞いてみる必要がありますね。じゃ、次は私の店、喫茶店に行って、カンナさんに聞いてみましょう」
ジョージは大きくうなずきました。
「でも、たくさんある金貨はどうします。ちゃんとしまって置かないと盗まれるかもしれませんよ」と言って、アーサーはテーブルの上に散らばっている金貨を見まわしました。
するとジョージは部屋のすみにおかれたカメを指さしました。
「その中に入れて置きますよ。今まで貯めた分もそこに入れてあるんです」
アーサーは立ち上がり、カメの中をのぞきますと、殻つきのクルミがカメの口まで入っていました。ジョージがニヤニヤ笑いながら、椅子から立ってきて、クルミの中に手を入れてかきまわし、カメの中から壺を取り出したのです。壺をテーブルの上におき、蓋を開けました。
「ほら、壺の中に私が今までためてきた銀貨や金貨が入っていますよ」
言われて、アーサーが壺の中をのぞくと、たしかに金貨や銀貨がつまっています。ジョージはテーブルの上に散らばった金貨をつかむと、壺の中に入れて蓋をしました。そして、ふたたび壺をカメの中に入れ戻していました。
「でも、これで盗まれないと言い切れないと思うけど・・」
「大丈夫ですよ。ここから降りたら、階段をはずしてしまいますのでね」
ジョージはすました顔をして屋根裏部屋から先に降り、後についてアーサーも降りました。ジョージは、すぐに梯子をはずしてジョアンナにあずけていました。すると、ジョアンナはそれを裁断台の下に置きました。
「ジョアンナさん、喫茶店に行ってくるよ。留守番よろしくね」
ジョージとアーサーが喫茶店に入って行くと、カウンターにいたカンナさんは笑顔をむけてきました。カウンター前の椅子にジョージとアーサーはすわると、すぐにジョージは先ほどアーサーに言った話をカンナさんにしたのでした。
「よかったですね。ジョージの服作りには、全面的に協力するわ。私なら、洋装店と喫茶店の両方を掛け持ちをしてもいいのよ」
「そんな無理なことをカンナさんにさせられないよ。カンナさんには負けるが、紅茶を入れる腕もだいぶ上がっています。それに私がたまに作るチーズケーキも評判がいいんですよ。ともかく、前から喫茶店の店員を増やさなければと思っていたので、この機会にアルバイトの募集をするつもりです」と言って、アーサーは笑いました。
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