ご一緒に お茶でも

◆第２章 花嫁衣裳騒動◆ １オムロ王の提案

「さっそく、カサム帝国に戻り、婚礼の準備をしなければなりませんな」と言って、オムロ王はデル国王に能面の翁のような笑顔を向けました。
「セシールには結納をもたせて、オムロ王の所に行かせるつもりです。婚礼はいつがよろしいですかな？」
「私の国は、チューリップを紋章にしておりますので、チューリップがさく春にしたいと思いますが、いかがでしょうか？」
　デル国王はセシール姫の方に顔を向け、セシール姫が大きくうなずいたのを見てから、口を開きました。
「それで、よろしいかと思います」
「おう、そうじゃ。セシールに持たせる花嫁衣裳を作らせねばならんな」
　デル国王がそう言うと、オムロ王が声をあげました。
「デル国王よ。私の国に腕の立つ仕立屋がおります。セシール姫の花嫁衣裳は、私の国にいる仕立屋に作らせたいと思っておりますが」
「なんと。そのためには、セシールの体のサイズをいろいろと知らなければなりませんぞ。婚礼日に間に合わせるには、やはり手前の国にいる仕立屋にまかせていただくしかない」
「たしかに、セシール姫の体のサイズは教えていただかなければなりませんが、ぜひともカサム帝国の仕立屋が作った服を着ていただきたい」
「うむ、どうしたものかな？」と、デル国王はあごに指をあてました。
「そうじゃ、いいことを思いついたぞ」と、オムロ王は手をたたきました。
「近隣の諸国にも有名な仕立屋たちがおります。その者たちにも参加をさせて服作りを競い合わせる。つまりコンテストを行うのはどうじゃ」
「なるほど、それはいい考えですな。しかし、作ってもらった花嫁衣裳に、優劣をつけるのは難しいのでは？」
「心配いたすな。私の国には服の見立てに目の肥えている者、伯爵や侯爵たちがたくさんいる。彼らの投票で一番いい花嫁衣裳をきめるのはどうじゃ」
「なるほど、オムロ王、それはいい考えですな」
　すると、それまで黙って聞いていたセシール姫が口を開いたのでした。
「一番になれなかった方々も心をこめて私のために服を作ってくれると思うのです。その方々が作った服も、私はいただいてもよろしいでしょうか？」
「セシール姫がそれを望むならば」と、オムロ王は、声を出していました。
「カサム帝国では、晩餐会や夜会などが、なんども開かれると思いますので、その時に着させていただきたいと存じます」と、セシール姫は言いそえていました。
「なるほど、なるほどな。セシール姫は賢い人じゃ」と、オムロ王はうなずきました。
「それでは、まずは服を作るためにセシール姫の体の寸法を測る者を早急に招喚せねばならんが、誰がいいかな？」
　デル国王は側仕えの方に顔を向けました。でも、側仕えたちは、そもそも服に関心がありません。ただ黙ってデル国王と目をあわせないように、顔をさげていました。
　そんな時に、セシール姫が声をあげました。
「ポポロ商店街にある洋装店の主、ジョージがよろしいかと思いますが」
「ほほう、その者はどんな人物なのかな？」と、オムロ王。
「お姉さまが、デル王国では一番の服作りだと申しておりました」
「服好きのオローラが言うからには、間違いがなかろう。ところで、オローラはみかけなくなったが、どこにいるのかな？」と、デル国王が片眉をあげました。
「それにつきましては、私の方から、答えることができます。実は、口止めをされておりましたが、城の北門の前にある別館におります」と、側仕えの一人が答えていました。
「なんで、そんなところにいるのじゃ？」
「しばらくの間、一人にして欲しいと申しておりました。そして、誰も会いに来ないように言われております」
「一体、何を考えているのか？」
　そう言ったデル国王は額にたてじわを作っていました。