ご一緒に お茶でも

矢野 零時

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9逮捕(1)

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 オローラ姫は人と会いたくなかったので、森の中に入って歩きだしたのです。すると、木の枝先に服がさけ、服についていた宝石はばらばらと音をたてて草藪の中に落ちていきました。その上、木の葉や実のしるが服につき、段差がある所では、オローラ姫はつまずいて転がってしまいました。その結果、髪も顔も泥だらけになっていたのです。
 森から出たオローラ姫は、町に入ると裏通りを歩き廻り、一時間後、ポポロ商店街にある洋装店をたずねていたのでした。
「おや、オローラ姫さま、どうなされたのですか?」
 奥から出てきたジョージは驚いて聞きました。
「とにかく、新しい服に替えさせてよ。なんの服でもいいわ」
 すぐにジョージはウインドウに飾っていた中で一番きれいな服を持ってきました。
「これでいかがですかな?」
「その服で、いいわよ」
「わかりました。着替える前に、まず体を清潔にして頂かなければ成りませんな」
「えっ、まさか、どこで?」
「古くなった服を作り直しも行っておりますので、古い服を洗う洗濯室がございます。そこで体を洗っていただきたいと存じます」
「ジョアンナ、オローラ姫のお手伝いをしてあげて」
「はい」
 ジョアンナはカンナさんの娘さんです。カンナさんと同じに働き者で今は洋装店を支える人物になっておりました。
 ジョアンナは、洗濯室にオローラ姫を案内し、服をぬいでもらいました。洗濯室に置かれている水がめからジョアンナが桶でオローラ姫の体に水をかけ、汚れを取り除いてあげました。オローラ姫の体をジョアンナがふき終わるのを待って、店にあるガウンをジョージはジョアンナに手渡しました。ジョアンナがガウンをオローラ姫に着せると、洗濯室からオローラ姫が出てきました。
 今度は、ジョージがオローラ姫を着替室へ案内をし、新しい服を手渡しました。そこで、新しい服を着たオローラ姫は鏡を見て、満足したようです。
「この服、いいわね。でも、汚れてしまった服は、どうしよう?」
「すぐに、洗いまして、乾いた布に挟んで、水気をお取りしてみます。しかし、それでも、完全に乾かすことはできるかどうか、難しいと思いますが」
「少しくらい濡れていてもいいわよ。ともかく、待っていればいいのね」
「そうですね。お待ちください」
「ここじゃ、ちょっとね」と言ってオローラ姫は道路をはさんで見える喫茶店を指さしていました。
「隣の喫茶店に行って、待っているわ」

 オローラ姫は、オムロ王とセシール姫の婚約が成立したことを知りません。
 デル国王は、衛兵に命じて、オローラ姫を捜さしていたのです。本当はオローラ姫が勝手に逃げ出したことなのですが、デル国王は誰かがオローラ姫をたきつけて、オムロ王の前から逃げ出させたと思い込んでいました。それは、デル国王が自分の娘を悪く思いたくなかったからです。そして、オローラ姫をけしかけた犯人をみつけたら、刑罰を科すように言いつけていたのでした。
 そんなことをアーサーは知りません。喫茶店に入ってきたオローラ姫をいつものように出迎えました。オローラ姫は喫茶店の窓そばにすわり、アーサーはポットをもって、オローラ姫のティーカップに紅茶を注いでいました。
 やがて、馬にのった衛兵たちがやってきて、喫茶店にいるオローラ姫を見つけました。
「オローラ姫がおられたぞ!」と衛兵長が声をあげました。すると衛兵の一人は馬の首をたたいて、やってきた方向に走らせていきました。オローラ姫に乗ってもらうための馬車を呼びにいかせたのです。衛兵長は馬をおりると、二人の衛兵をつれて喫茶店の中に入ってきました。
「オローラ姫、すぐに城にお帰りください」
「いやよ。いや、帰りたくない」
「いけません。私は姫をお連れしなければならない」
 ここでオローラ姫に逃げられてはならないと思った衛兵長は、しっかりとオローラ姫の手首を捕まえていました。
「いやよ」
 そう言ったオローラ姫は、衛兵長から逃れようとして、体をくねらしています。そばで、それを見ていたアーサーは思わず衛兵長の手をつかみ、ねじあげていました。
「オローラ姫がいやがっております。おやめください」
「わかったぞ。姫をそそのかして、城から連れ出した男とはお主のことだったのか」
「何を言っているんです。ともかく、姫がいやがっているではありませんか」
「こ奴を捕まえろ!」
 衛兵長は他の衛兵たちに命じると外で馬のたずなを持って待っていた衛兵たちも飛び込んできて、アーサーは六人もの衛兵を相手にすることになり、たちまち縄でしばられてしまいました。

 
 
 




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