二次創作小説

ルフ

壊れた記憶の残滓

僕は犬なんだ。
突然なんだと思われるかもしれないけど。
仕方ないじゃない。僕は犬なんだから。

僕は今楽しい。
仲良しの人もできたし、大切な人もできた。
少し嫉妬しちゃうところがあるけど。
それでもみんなと話してるのは楽しいんだ。

「えへ。みんな仲良し！」

彼女がこう言う事は少ない。
あんまり言わないけど、今回ははっきりと言っていた。

それから彼女はたくさん話していた。
してみたかったこと、実際にしたこと。
仲良しの人達と話したたわいのない会話。
付き合った人、別れた人。

辛い記憶もあっただろう。
それでも彼女は楽しそうに喋っていた。

話すのを聞くだけだと充実した生活だろう。
話してない辛い事もあるだろう。
それでも彼女の声は希望に満ちていた。

ザザ・・・と声がかすれる音がする。
もう時間が無いようだ。

「もう時間か。じゃあありがとう！」

お礼を言いたいのはこちらの方だ。
自分に気持ちを気づかせてくれた。
みんなと楽しそうに笑う君をもっと見たかった。

「ありがとう聞いてくれて見知らぬ人！」

ノイズが多くなり、遂には音が消えた。
自分の目の前にあるのはひとつのカセットテープ。

それは残滓。それは残骸。それは断片。それは欠片。
誰を証明のもので、どこで用いられたものかは分からないが。
それは過去に居た人物の存在を確かに証明するもの。

自分は彼女を覚えていない。
でも、彼女の声を聞くと胸が締め付けられる。
何かが辛く、頭が痛くなる。
記憶に霧がかかったように見えないんだ。
何か大切な事だった気がするのだけど。