そこは夢の詰め合わせ

けり

144.時に残酷な愛

「好きだ」

そう伝えられたのがもう60年も前になるだろうか。それが最後だったかもう記憶も定かでは無いけれど。あの人は最近ようやく顔を出すようになった。

「貴女のその瞳も、羽根も私は愛そう」

もう齢70は過ぎているであろう男から求婚をされているのは羽根を生やした妖精のようなモノノケ。

彼女は人より何十倍も生きている妖怪である。そんな言葉に惑わされるほど簡単に生きている訳ではない。

「貴方はもう時期死ぬよ。それでもワタシに恋をするの？」

「この命が尽きるならば来世でも私は貴女を愛するでしょう」

男はその数年後死に至った。
彼女は少し悲観にくれた。
自分を一人の女性として見てくれたのは彼が初めてだったから。

彼は染めていたかのような黒い黒い髪が特徴で、緑の目が彼女をいつも観ていた。

数年後の話だ。
黒い猫が彼女の前に現れた。
あの人と同じ、黒い綺麗で滑らかな黒。
そんな毛並みの猫が目の前に現れた。

あの人と同じ緑の目をした黒い猫が居た。
あの人と同じ眼で、何かあの人を思い出してしまって。何故かあの人を思い出してしまって。

「もう一度ワタシを愛してくれる？」

彼女はそっと黒猫を抱き抱え羽根を揺らした。
その羽根は嬉しそうに羽根を響かせた。