そこは夢の詰め合わせ

狐谷

137.狐死首丘

銃声。月のない新月の空で星が輝く。
その星の明かりの下で、銃口から煙が立つ。
倒れた音共に鉄の塊が落ちる音がする。

からん。

中に何も入ってない空の音がすうっと響いた。静かな事がとてもわかるほど響く音だった。

遠い遠い東の方角。その方角を見ながら、それは思い出していた。自分の住んでいた住処を。人知れず死にゆくそれは満足そうな笑みを浮かべていた。

「ごめん・・・ごめんねっ・・・」

遠くから聞こえるすすり泣く音。
それを見るように、見なきゃいけない使命感の為にそれは身体を起こす。

「泣かないで？あなたは・・・悪く・・・ない」

それが咳き込む。口から吐かれるのは赤黒い液体。大量の赤黒い液体が地面に吐き出される。土が赤く染まる。

「僕のせいで・・・ごめんっ・・・」

そう言って逃げるように走り出し暗闇に消えたのを確認すると両手を広げ、大きく空を見る。

空を見たあと壁際まで動き体を起こす。
そして遠く遠く東を見つめる。
遠く見えた山の先に明るみ出した空があった。青い星空がオレンジ色に染まっていくのを見てそれは涙を零す。

「あぁ・・・まだ泣けるんだ・・・小生」

そっと呟いた。登った朝日に涙が輝いていた。それは今から死にゆくそれにとって数少ない涙だった。

狐死首丘。
狐が死に至る時、自分の巣の方を見る。
それは何故なのか、帰省本能なのか、分からない。しかしそれははっきりと東を見て息絶えた。