そこは夢の詰め合わせ

そぼろ

106.理性を持った獣

 月明かりで鋭い歯が輝く。
暗い夜道で月に口を開け吠えているのは果たして理性の消えた獣だろうか？それとも理性を持った人間だろうか？

人は理性をもった獣であるという人も居た。
人は理性を無くした時獣となる。

では、理性を持った獣は人だけなのだろうか？答えは間違いだ。

居るのだ。理性を持った獣は人以外にも。
それが今日、今この瞬間に空へ羽ばたかんとしていた。

大きく広げた翼と太く強き尾。象徴たる角が月にシルエットとして映される。

それを人はこう呼んだ。

「ドラゴン」と。

遠い東洋の地では｢龍｣と呼ばれるものと似ているそうだが、ここでは違う。

そしてその強き獣は姿を消すとまた何処かで羽を広げて飛び立つのだ。

「一人。また一人。この姿を見て狂うのを見るのが楽しいんだよねぇ」

声が聞こえる。少し低めの声だ。
独り言のようだったが誰かに話しているようにも聞こえる。

恐れよ人よ。矮小なる人間よ。
貴様らのすぐそばにいる人間は本当に人なのか？獣が化けている可能性があるのだ。
理性をもった獣は人だけでは無い。

牙を持った獣も理性を持ち合わせる事が出来るのだ。