そこは夢の詰め合わせ

イバラ

82.暗く、暗い。

深く、深い。暗く、暗い。狭く、狭い。
そんな奥底に彼女は居る。
白い、しかし暗いそんな色、それは気の遠くなるような時間、誰かを待っている。

彼女は独り、歌い続ける。薄い光の中蠢く、
身をよじらせるだけでその場所が震えるというのに光をも見なくなった、いや、見えなくなったそれは閉じた瞼を開けない。

『彼』が来るその日まで、彼女はその瞳で世界を映すことはない。それがどれだけの年月を重ねようとも、どれだけ雨風に晒されようとも、彼女はずっと待ち続けるであろう。

(あぁ・・・ワタシはここに居ます。早くワタシを見つけてください。ワタシだけの・・・ワタシの━━━━━━！)

流れる模様の美しい鱗が地面と擦れる。淡い光に反射したそれは小さな星空のようだった。反射した鱗は美しかったがそれを見る人は居ない。そう居ないのだ。

もうこの世界に、彼女と同じ種族は居ない。
もうどうしたって彼女の待つ人は来ない。
しかしそれでも彼女は待ち続ける。
それが『彼』との約束なのだから。
それがただ一つの約束だから。
護るべき最後の約束だから。
だから彼女は待ち続ける。
それがいつになろうと。
世界が壊れようとも。
彼を待ち続ける。

もう彼女を見つけれる人は、動物は、もうこの世には居ないだろう。彼女のいる場所はもう見つからない。あるのは一筋の光があるだけである。そして彼女が大事に護っている花のみである。その花の名前は胡蝶蘭。

━━━━━━━━━━『胡蝶蘭』
花言葉は「あなたを愛しています」

一生を彼と共に。
そう願ったが彼は居ない。
だが彼女は待つのだ。
彼が最初にくれた胡蝶蘭とともに。