そこは夢の詰め合わせ

ミア

16.遠き日の君へ

鉄を叩いたような音が一定のリズムで響く。
しかしそのリズムが途切れる。『彼女』が空を向いたからである。視界に広がるのは廃れたコンクリートの山と、壊れかけのビルに生い茂る植物。動いているものは鳥や魚といった生き物。しかしその中に『人間』の姿は無い。彼らは数百年前に絶滅している。しかし、『人間』らしき者は居る。それが、
『彼女』なのである。

『彼女』は人が機械改造された姿、いわゆるサイボーグと呼ばれる。それが彼女である。彼女は自身がサイボーグとなった後、自力でエネルギーを生成できる『自律式半永久機械化人間』と言われるようになり、『戦争』にも出されるようになった。その戦争で、彼女以外の人間もサイボーグもいなくなってしまった。彼女はそんな廃れた街をいつものように歩く。そして彼女はこう呟く。

「彼は空の上で楽しくやっているだろうか」

何回。何十回。何百回。そう空に問いかけるだろうか。彼女が一人になってから、ずっと彼の事を思う。しかし、その問いに応える者など居なかった。応えるのは鳥のさえずる音と、何かが水に入る音だけである。

「今日はどこまで行こうか」

彼女は世界を歩き回る。希望を持っている訳では無いが、彼女は元の世界へと戻ったその星を歩いて回る。懐かしむように、そして悲しむような。しかしその真実を知るものはもう彼女以外は居ない。

そんな彼女の名前は『結城ミア』である。