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2人になれる世界だけ創ろう

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2人ともどこかおかしい。
R18です。


◇◇


 
「__おーい、引きこもり。ただちにこの扉を開けろ」
「……」

 そう言って侵略者オカンは私の部屋の扉をノックした。コンコンコン、そんな音が部屋に響いたが私は無視して更に安息地おふとんに沈み込んだ。

 __私はまだ眠いのだ。寝かせやがれ。こんちくしょー。

 ぼやぼやとした頭でそんなことを適当に考えて、もう一度目を閉じる。私がようやくこの楽園おふとんに辿り着いたのはつい数時間前のことだ。つまりまだまだ寝足りない。

「ほらー、投降しやがれこのやろー。ご飯だぞー」
「......」

 なのにコンコンコンとまたノック。呆れたような疲れたような棒読みが鼓膜を揺する。そしてついにはガチャッと扉の開く音がした。彼がどうやら部屋の中に入ってきたらしい。

「雪ちゃん、起きないとイタズラするぞ」
「りっくんママ、雪は冬眠するから出てって.....」
「誰がママだ、俺はまだ娘をこさえた覚えはない。つうか男だし」

 彼、りっくんこと陸斗りくとは幼なじみだ。私、__雪とは生まれてこの方、家は隣、保育園から大学、そしてついには同居する仲になってしまった。

 大学まで一緒なら分かる。しかし、どうして同居しているのかはりっくんと同居して2年目になるというのに分からない。私の両親もりっくんの両親も何にも言わない。常識とかがズレてるらしい私でも絶対におかしいと思えるのに、何故か誰も反対はしなかった。


「また徹夜で文字打ってたな」
「仕方ないじゃん。頭の中で言葉がばーって描かれてくんだもん」
「それでも夜は寝ろ。それか俺のところに来てよ」
「やだ、やらしー」
「今更だろう」

 いつもの調子でそんな会話をしていれば眠気なんて吹き飛んでしまった。最悪だ、二度寝なんて出来なさそう。それが分かったのかりっくんが無理やり私の身体を起こしたので、そのまま彼の首に腕を回して抱きつく。

「はあ、仕方ないなあ」
「わーい」

 何を意図するのか分かったらしいりっくんが私を抱っこした。そしてそのまま部屋を後にする。150cmで成長の止まった私とは裏腹に185cmまで竹のように伸びたりっくん。学生時代からの趣味は筋トレだからか私を抱き上げて歩く割にふらつきは少ない。

「.....首んとこ擦り寄るな。子猫か」
「にゃー」
「やる気なく鳴くな。.....はあ、こんな風にしてたら身体が鈍ってできることもできなくなるぞー」
「りっくんがいるじゃん」
「それでもだ。まだ20代なのに健康な同い年の子の介護なんて始めたくないんだけど」

 とか言いながら、甲斐甲斐しく世話してくれるのは誰だろうか。このオカンだ。そしてそれに甘えるアホは.....ふむ、私か。

 昔からこういう感じなので慣れたが、どうもこれは普通ではないらしい。分かっているのだが、人間関係なんて人それぞれ。私たちはこんな風にただの幼なじみなのに、どこか恋人ぽくて、お互いに依存しあったセフレ的なそんな歪な関係だ。


「次の締め切りってまだ先だよね」
「うん」
「じゃあ1日ひきこもってないでさー」
「外、好きくない」
「好きくない、って何?」
「んー、なんかSNSで誰か使ってたから言ってみた」
「ふーん」

 言葉の意味は伝わったようだが、耳慣れないらしく聞き返される。SNSとか辞書とか書籍とかで見つけた見知らぬ言葉を言ってみるのが好きなので、りっくんはあまり気にしていないらしい。


 こんな風に昔から文学やら言葉というものが好きで気がつけば何故か作家という仕事に就いていた私。出版された本が飛ぶように売れた。重版も何回かされた。ドラマと映画にもなった。なんか海外でも流行ってるらしい。あとなんか凄いらしい賞をとった。そんな感じで全てが嵐のように駆け抜けて行ったので、原作者であるというのにどうしても傍観者の気分で見てしまう。

 私はただ自分の中にある言葉と、あとは勝手に動いてくれる登場人物や情景をそのまま文字にし、そして自分が美しいと感じるまで文字で"絵を描く"。言葉で世界を塗りつぶして、彩らせて、つまらなければ更に塗りつぶして上書きして色を足す。それでもダメなら世界を一旦ぶち壊して、またその壊れたものに文字で絵を描く。

 そうやって無茶に出来上がった作品はどうも人から言うと「なんか凄い」だの「訳わかんないのに心に染みる」だの「あっと驚く」だのとびっくりされてしまうらしい。そして案外受けがいい。

 それはどうやったら書けるの?という質問にそれを説明しても意味は誰にも伝わらなかった。しかし、私はそういう認識をしていた。ずっと一緒に生きてきたはずのりっくんですら「はー、さすがは作家ってやつ?」と言われてしまう。

 そんな本が人に認められてしまったらしく、私はそのまま作家という職業についた。厳しい世界らしいが私は意外とどうにか収入が稼げて生きている。親も知人も生活能力も常識もないというかズレているというか、そんな言葉がぴったりの私が更に変な方向に道を外さないかばかり心配する。多分この同居もその心配からくるものだろうか。


◇◇


「はあ、雪ちゃん、.....雪」
「ん、む.....ひあ」

 ゾワゾワ、ゾクゾクそんな感覚が身体を支配し始めたらあとはもうりっくんの思う壷ってやつだ。私よりも私の何もかもを知り尽くしている彼にされるがまま。

 身体に大きな手が這って、やわやわと至る所を揉む。その間に人の唇に吸い付いて呼吸を奪っていく。


 __こんな関係になってどれくらい経つだろう。


 気がつけば高校生の時にはりっくんにハジメテを捧げてしまっていた。

 小さい頃は一緒にお風呂に入っていたし、寝てもいた。初恋はお互いだって知っているし、一緒にお風呂に入ったり寝たりしていなくてもそれ以外は高校生まで割とずっと一緒。大学生になりバイトを初めてちょっと離れたけれど、それでも傍から見ればベッタリらしい。

 友人にそれはちょっとおかしいよ、と言われても私の普通はこれだったし、親も何も言わない。りっくんは私がいると喜ぶし、私もりっくんの隣は心地よい。ちゃんと他人と同じように反抗期もあったし、異性への関心も気まずさもあった。

 __あったけれど、りっくんは違う。

「っ!?.....ひぁああっ!」
「何考えてんの、__ねえ?」

 私の身体を弄っていたりっくんの指が急に膣の中に挿入されて彼に開発されきったいい所を擦る。

「まっ、やらぁ、あ、あぁ」
「雪ちゃん」

 言葉を創る余裕を与えて貰えない。2本も飲み込んだ膣口はりっくんの指をヒクヒクと締めるし、腰が勝手に揺れる。りっくんはニコニコ笑いながら私を責め立てる。

 __気持ちいい。まって、言葉をつくるから。ちゃんと言うから。

 なんて言葉さえ喘ぎ声しか出せない私の口からは発されない。中途半端に剥かれた衣服が感情高ぶる身体を擦れるし、りっくんの吐息は擽ったい。

「やあ、...はあ、あ、ぁは、ん」
「ねえ、もしかして俺以外のこと考えてたとかないよね?」
「ない.....!りっくんのこと考えてた」
「ほんとに?」
「ほんと!りっくんに、はあ、あ、.....ハジメテ捧げたなあって思い出してた、.....だけたもん!.....ひゃああ!?」


 そこまでどうにか言うと硬いそれが膣口に突き刺さった。そして容赦なく最奥まで抉る。それに呼応するように悲鳴のような、でも甘い声が出て背中のゾクゾクと共に身体が揺れる。


「あは、そうだね。雪ちゃんのココは俺が初めてだもんね。もちろん、他の奴には使わせないけどさ」
「りっくん、りっくん」
「最初は本当に狭くてびっくりした。今はすっかり俺の形になったし、雪ちゃんはイキまくりだしさ。ほら、ココとか」
「ひゃあ、あ、あああん!は、あ、あ、や、あん」

 激しい責め苦に何も考えられずただ揺すられ、打ち付けられ、抉られ高みに連れていかれる。ジュポジュポ、ずぶぶ、ぱんばん、なんてエッチな文学に出てきそうなその音が部屋にも頭の中にもいやに響くし、世界はりっくんしかいないし、訳が分からない。

 寝ているときでさえ言葉を考える夢を見るのに、この行為の時にはりっくん以外に考えられないね、って言ったら更に1行為の回数は増えたし、夜や休日の時に身体を求められることも増えた。


 __おかしい。私たちの関係は変。

 分かってる。彼氏でもないただの幼なじみと同居していることも、こんな行為を高校生からずっとしていることもおかしいって。でも、りっくんに求められると嬉しいし、私にはりっくんしかいない。この行為はりっくんしか許したくないし、てかまず他人が苦手だ。

「りっくん、好き」
「__へ?」
「.....ん?」

 だから自分の口から出たその言葉に私もりっくんも固まった。2人して汗まみれで、未だに下半身のそれらは繋がっているし、なんならあと少しで達せたはず。

 なのにその言葉で世界は沈黙した。私がよく物語でやるようにたったそれだけの言葉で全てを一旦塗りつぶしてしまった。

「ゆき?」
「.....」

 __あ、ダメだ。


「いま、すきって.....」
「.....」

 __言うつもりなんてなかった。


「ねえ!」
「ひあんっ!」
「あ、ごめん」


 __きっと言うときはこの関係が終わる時だって。


「雪、俺のこと好きなの?」
「うん」
「ハジメテ奪って、ほかの男にも女にもできるだけ会わせないようにして、雪が逃げられないように同居するために画策したのに?」
「.....うん、知ってる。でも、りっくんだし良いかなって」


 分かってる。私だけじゃなくてりっくんもちょっと可笑しい。友人に何回も説明された。あれは執着だとか依存だとかが激しい束縛男だって。私がズレているのを良いことに、これが普通だって言い聞かせてくるようなヤバいやつって。

 でも私はそれでもりっくんが良かった。生まれた時から今日まで私の世界には彼ばかりが多くを占めて色を付ける。りっくんにちょっと会えないと寂しいけれど、親には年に数回会うくらいで全然いい。別に嫌いって訳じゃなくて寧ろ大好きだけれど。

 それに作家をしてたら、というか小さい時から色々な本を読んだり、歌の詩を見たり、新聞見たり、ドラマや映画を鑑賞したり、とにかく人の書いた言葉に準じたそれらを見てきたのだから何がおかしいかの分別くらいつく。寧ろついた上でりっくんとのことに関しては許容しているから、常識外れとかズレていると言われるだけなのだし。


「雪、俺も好き」
「そうなの?」
「ばか、そうじゃなかったらこんなに縛るようなことしないって」
「そっか、確かに」

 でも、りっくんとのこととなると全部不安でぐらぐらだ。こんな仲なのにお互いの想いを言ったらこの関係は破綻するって勝手に思ってた。なのにりっくんは私のことが好き。これほど嬉しいことはない。


 それが伝わったのかりっくんが私にキスをする。

「んんっ!ふ、んっ」

 すると未だに入ったままのそれに擦られ、奥のところをグイグイ押されて涙が零れた。そしてそれを皮切りに律動が再開される。


「は、や、ひゃあ、ぁあ」
「雪ちゃん、雪ちゃん」

 愛しい人と想いがちゃんと伝わってすると、一段と気持ちよく感じられる。そして先程から上手く達することができていないので、私もりっくんももう限界だ。

「りっくん、きもちい。も、いく、は、あ」
「いいよ。一緒にイこう。雪」

 打ち付けられるスピードが速くなる。キスを落とされ、逃げられないように腰を掴まれ、奥の良いところをズンズン熱いのに突かれて、抉られる。

「ひああ!あぁあ、やぁああ!」
「く、すごい、きつっ」

 それに合わせてずっと弄られていなかったぷっくりとした花芽を弾かれて一気ダメになる。りっくんのをギュウギュウ締め付けながら達すると、彼もきっと射精したのだろう。

「りっくん、好き」
「雪、俺も」

 一回出てしまった言葉は、通じあった感情はこんな風に簡単に出せる。何回でも言葉にして伝えられそうだ。

 __言葉は不思議。心は見えないのだから、言葉にしないといけない。私の中の彩りも言葉にしないと誰にも見せられない。でも、りっくんとのことだけは誰にも見せたくない。

 人からすれば歪な色をした世界だというのに、私の中ではこの上なく美しい。"私だけの"文字に起こしたくない世界ものがたり


◇◇



2人がただ共依存しているだけのお話です。

Twitterは「 @nemui_aoi 」です。他作品は作者のページからどうぞ。また、このお話はムーンライトノベルズ様にも置いておきます。
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