9 / 20
◆1章.永遠の微睡みを揺蕩う
009.人は生まれ持つそれを選べない
しおりを挟む「……いやいや、まさか"あれ"に耐えることができることは」
「ええ、本当ですわね」
「……」
__なんだ、これ。
私は今、謁見室にて皇帝陛下と皇后陛下、そして皇太子殿下と向き合って座っている。私の両側には両親が座っていて、何だかお見合いの席のようである。
あの謁見の間での出来事から約15分ほど経っただろうか。ポカンと突っ立っていた私を何故か嬉しそうに見る人もいれば、驚愕した顔で見る人もいた。
あのヴィルデですらたじろいだというのに、何が起こっているの?なんて思っているうちには何事もなかったかのようにみんな身なりを整え、皇太子殿下に挨拶をして、そしてそのままこの謁見室へと案内された。何が起きているのかせめて両親に聞きたかったのだが、それをする暇もなくここに通されたのだ。
(……何が何だか分からないし、気まずい)
何故かずっと皇太子殿下が私のことを見つめてくるのだ。まるで天使のように麗しい顔でそんなに見つめないでほしい。そう困り果てていると助け舟が出る。皇后陛下だ。
「ノア、そんなに見つめるのはよくないわ。セシーリア嬢が怖がってしまうでしょう?」
「これは失礼致しました。驚きの連続だったもので、つい」
「い、いえ!気にしておりませんわ」
ごめんなさい。めちゃくちゃ気にしてます。でも、そう言うしかないのでそう言って強ばった顔の筋肉を動かして微笑む。すると皇太子殿下から極上の笑みが返ってきた。あまりの威力に顔から火が出そうだ。
「セシーリア嬢、先程のことは驚いただろう?」
「は、はい……」
そんなことを考えていれば、皇帝陛下に話を振られた。ちょうど知りたかった話題だ。陛下の問いに正直に頷くと、陛下も頷き更に言葉が続く。
「我が皇家は遠い昔から色々と特殊でな。ノアのようにただそこにいるだけで相手が怯ませてしまう性質を持つものが生まれることがある。私もその気があるので相手によっては怯む者もいるが、ノアの場合はとてもこれが強くてな。あの謁見の間の通りだ」
「……」
それを聞いて私は頷く。
なるほど。だから先程のようなことになるし、彼の噂も色々と凄いのか。ああいう謁見の場とかパーティーとか何だか大変そうだと思わず思ってしまう。
(……あれ、でもなんで私は何ともなかったの?)
正直威圧なんて全く感じなかった。どちらかというと私の中で未曾有の事態が起きたせいでの困惑が強かったのだ。
「慣れれば耐えきる者も出てくるが、血縁でもない限りは大抵あの場のようなことになる。しかし、セシーリア嬢は何ともなさそうだったな。何か感じなかったか?」
「何か、ですか?……そういえば何か通り過ぎた感覚がありました。触れた感覚はあっても水のように掴めず、そして風のように通り過ぎていくようなものを感じたような気が致します。しかし、恐ろしいものは感じませんでした」
そう正直に答えると、皇帝陛下が嬉しそうに「そうか」と微笑んだ。何と言うか前世のイケメン海外スターにファンサされた気分である。美形の微笑みは心臓に悪い。
「ふむ。セシーリア嬢とは別の件でこの婚約を進めていたが、まさかノア相手に怯みもしないとは魔力が多いのか、もとの性質なのか。……しかし、これは僥倖だ。ノア、このご縁を大事にしなさい」
「はい、父上」
皇帝陛下が皇太子殿下の肩に手を添えてそう言うと、皇太子殿下も微笑んで頷いた。王室や皇室はドロドロと恐ろしいくらい殺伐としていることもあるらしいが、彼らは何と言うかとても暖かく互いを大切にしていることが伝わってくる。
「セシーリア嬢」
「はい」
「体調が宜しいようならノアと2人で話す機会を今から作りたいのだが、どうだろうか?」
体調というのは私の体質のことだろう。ここに来るまでの馬車で随分と休息をとったし、魔力のコントロールに力を入れていたお陰か眠気は全然ないため、陛下のご配慮をありがたく受けることにした。
◇◆◇
「セシーリア嬢こちらです」
「はい」
両親と両陛下はまだ話をするらしいので、私は皇太子殿下に直々に案内されて城の庭園へと来ていた。そこはとても美しい世界で思わず目を見開く。
立派な噴水に切り揃えられた木々、美しい色をした花。奥の方には緑が更に生い茂っていて、そこに小さな滝まであるし、その下は割と大きめな池がある。一日居ても飽きないかもしれないそれらに感動していると隣からクスクスと笑い声が降ってきた。
「セシーリア嬢はとても可愛らしいですね」
「……え、あ、あの皇太子殿下」
つい美しさに心を奪われ、皇太子殿下のことなど頭からすっぽり抜けて感動してしまっていた。それをバッチリ見られていたらしく、あまりの恥ずかしさに思わず頬をおさえる。
「セシーリア嬢、皇太子殿下ではなくノアと呼んで頂けませんか?」
「では、ノア殿下と」
「……今はそれで良いでしょう。俺はセシーリアと呼んでも良いでしょうか?」
「へ?は、はい!もちろんでございます」
急に一人称が"俺"になったことや呼び捨てにドギマギしつつ数回頷く。だめだ、この人と一緒にいたら心臓が早々に爆散する。そんな予感がした。
「これから末永く一緒にいるので、口調も互いに崩しましょうか?」
「えっと、それは……」
殿下が崩すのは一向に構わないが、私にはちょっと難しいかもしれない。と言う旨を小さな声で呟く。
「セシーリア」
「ひゃい」
何だこの甘い拷問の時間は、とビクビクしつつ皇太子殿下……、いや、ノア殿下を見上げる。陽の光に照らされた美しい金色の髪が風にゆったりと吹かれている。
「駄目かな?」
「……うう、分かりました。努力致します」
「ふふ、ゆっくりでいいからね」
「……はい」
何だか出会ってほんの少ししか経っていないのが不思議なくらいに私は今落ち着いている。どうしてだろう?皇太子殿下のお陰だろうか?
皇帝陛下が言っていたような威圧のようなものがなければ、もしかしたら噂なんか1mmも掠っていないような素敵な方なのだろうか?それとも相手によっては腹黒になるとか?……いや、それはまだ気付きたくないかも。
皇太子殿下にエスコートされながら暫く庭園を行くとガゼボに辿り着く。そこにはお茶とお菓子が用意されていて、促されるまま頂くこととなった。
「セシーリア嬢は本当に怖がらないね。何だか新鮮だ」
「ノア殿下の隣をここまで歩いてきて、時々先程と同じようなものを感じましたが、恐ろしいどころか妙に安心しました」
「……っ、そうなのか。母が昔、父に言っていたのはこれか」
「え?」
「いや、なんでもない。時々このような俺の性質にも動じない貴女のような方が現れるらしいと聞いていたから、本当に驚いているんだ」
そう言ってノア殿下は悲しそうな、でも嬉しそうな複雑な表情を浮かべている。きっと今まで威圧だの噂だので色々な目にあってきたのだろう。私の体質もだが、生まれつきのものに振り回されるのは本当に大変なのだ。
「ノア殿下。お聞きしたいことがあります」
「なんだい?」
「どうして私と婚約をすることになったのでしょう?そして皇帝陛下が言われていた"別の件"とは?」
「……あー、それは」
なんなら明らかに婚約から結婚までの期間が短すぎることも気になる。今回の婚姻に関して不思議に思うところが割とあるのでどうしても婚約式の前に聞いておきたかったのだ。
すると途端に皇太子殿下の顔が暗くなる。
「あ、あの無理にお聞きしたいわけではないので……」
「いや、言っておくべきだろう。君は当事者であるし、いつか言わないといけないのだから」
「……」
そう言うとノア殿下は小さく息を吐いて、それから私を見た。
「__セシーリアとの婚姻を望んだのは、俺の体に"毒"があるからなんだ」
「……__え?」
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
【R18/TL】息子の結婚相手がいやらしくてかわいい~義父からの求愛種付け脱出不可避~
宵蜜しずく
恋愛
今日は三回目の結婚記念日。
愛する夫から渡されたいやらしい下着を身に着け、
ホテルで待っていた主人公。
だが部屋に現れたのは、愛する夫ではなく彼の父親だった。
初めは困惑していた主人公も、
義父の献身的な愛撫で身も心も開放的になる……。
あまあまいちゃラブHへと変わり果てた二人の行く末とは……。
────────────
※成人女性向けの小説です。
この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
拙い部分が多々ありますが、
フィクションとして楽しんでいただければ幸いです😊
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。
でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
腹黒伯爵の甘く淫らな策謀
茂栖 もす
恋愛
私、アスティア・オースティンは夢を見た。
幼い頃過ごした男の子───レイディックと過ごした在りし日の甘い出来事を。
けれど夢から覚めた私の眼前には、見知らぬ男性が居て───そのまま私は、純潔を奪われてしまった。
それからすぐ、私はレイディックと再会する。
美しい青年に成長したレイディックは、もう病弱だった薄幸の少年ではなかった。
『アスティア、大丈夫、僕が全部上書きしてあげる』
そう言って強姦された私に、レイディックは手を伸ばす。甘く優しいその声は、まるで媚薬のようで、私は抗うことができず…………。
※R−18部分には、♪が付きます。
※他サイトにも重複投稿しています。
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる