敵国に潜入した執事、第二王女を溺愛する〜皇太子殿下『可愛いは正義』なのでございますよ〜

美原風香

文字の大きさ
上 下
8 / 9

8.第二王女殿下はプレゼントします

しおりを挟む
「おはようございます、殿下」
「おはようなのだ!」

朝、いつも通り挨拶をした...つもりだったが殿下は首を傾げた。

「なんかあったのだ?」

殿下の鋭さに驚く。未だに昨日の手紙のことを引きずっているのは確かだが、そんなにわかりやすいだろうか。
しかしここは執事。執事としての正答は...

「いえ、特にございませんが?」

とぼける!仕えている主に心配させるわけにはいかない!

「そう...」

殿下は少し眉を下げると困ったように笑う。いつもと違う殿下の様子に戸惑うが、殿下はすぐにいつも通りの笑顔を浮かべた。

「アラン、お庭の花畑に行きたいのだ!」
「ご一緒いたします」

この城の庭は広大で、1時間程度歩いたところに花畑があるのだ。流石に1時間歩くのは現在的ではないので、馬車を使うが。

「お嬢様お手を」
「あ、ありがとうなのだ!」

用意した馬車に乗る時に手を差し出すと、殿下は少し顔を赤くしてそっと右手をおく。その手はとても小さくて、温かい。
馬車は庭をゆっくり進んでいく。

「アランは帝国でどんなことをしていたのだ?」

唐突な質問に驚く。帝国に留学していたこと(実際はしてないが)は城の者なら誰でも知っているが、まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかった。しかし、興味を持ってくれたことが嬉しくて、少し考えてから答える。

「主に勉強ですね。魔法やそれこそ執事としての仕事を学びました」
「それはアランがやりたかったことなのだ?」
「そう、ですね。私は孤児で養子として引き取られたので、帝国に留学するのも魔法や執事の勉強をするのも自分の意思ではありませんでした」
「そんな...」

少し悲しそうな表情を浮かべる殿下に軽く微笑む。

「ですが、今は良かったと思っています。魔法を学ぶことで自分を、そして大切な人を守れますし、執事として自分の存在意義を見つけられましたから」
「そんざいいぎ?」

殿下には難しい言葉だったようだ。こてんと首を傾げる様子はとても可愛らしい。

「そうですね...生きる理由です。自分がどうして生きるのか、その理由を見つけられたということですよ」
「アランの存在意義はなに?」
「私の存在意義は誰かのために、ですね。今であれば、殿下が幸せに過ごせるようサポートすることが私の存在意義です」

そう、孤児だった私には身内がいない。だからだろうか、自分の存在意義が見つけられなかった。でも、オズワルト殿下に仕えて、オズワルト殿下のために生きることが自分の存在意義であると気づいたのだ。
残念ながらそれも今では怪しいが。

「ふふ、ありがとうなのだ!」

殿下は私の言葉に笑顔を浮かべるがその笑顔には少しの悲しみも混じっているような気がした。

「着きましたね」

ちょうど花畑についてその話は終わりになった。少し居心地悪くなっていたからちょうど良かったかもしれない。

「わぁ綺麗なのだ!」

殿下は感嘆の声を上げた。今の時期は様々な色の薔薇が咲き乱れていて、薔薇の絨毯が広がっていた。

「アラン、こっちなのだ!」
「走ったら危ないですよ!」
「大丈夫なのだ!」

ドレスをたくし上げて走る殿下に慌てて声をかけて追いかける。怪我なんてさせたら私が怒られる!

「?どうなさいました?」

追いつくと殿下は立ち止まって薔薇を眺めていた。

「ベルは花冠を作るのだ!」
「作れるのですか?」
「もちろんなのだ!」

急に花冠を作り出した殿下はにこにこと笑顔を浮かべていて、とても楽しそうだ。
流石に花冠は作れないので、側で見守る。殿下は器用に花を織り込んでいた。

「器用なんですね」
「ねーさまが教えてくれたのだ!」

隣国に嫁いで王妃となった方が1人いらっしゃるからその方から教わったのだろう。仲がよろしいようだ。

「できたのだ!」
「もうですか!?」
「これくらい楽勝なのだ!」

ふふん、と自慢げに花冠を見せる殿下。白色の薔薇の花冠は華やかだけれど上品で、とても上手に作られていた。

「お上手です」
「これをアランにあげるのだ!」
「え?よろしいのですか?」

急なことにびっくりする。もらっていいのだろうか?

「いいのだ!ほら、早く屈むのだ」
「か、屈む?は、はい、これでよろしいですか?」
「いいのだ!」

殿下に言われて屈むとちょっとで背伸びして頭の上にその花冠を載せてくれた。

「似合っているのだ!」
「ありがとうございます。大切にしますね」

殿下の笑顔が少しくすぐったい。

「アラン、ベルは誰かのために生きるんじゃなくて、自分のために生きて欲しいのだ!もっと自分を大切にしてほしいのだ!」

急に真剣な表情になって殿下が言った言葉にドキッとする。

「ですが、私にはそれしか...」
「アランが自分のために生きる理由を見つけるまで、ベルはずっと一緒にいるのだ!だから、だから....!」

声を震わせて言う殿下に心を打たれる。今まで自分には価値がないと思ってきたけれど、そんなことはなかったのかもしれない。
なんて優しい王女様なのだろうと思った。

「ありがとうございます、殿下。自分のために生きる理由を探してみようと思います」
「そうするといいのだ!」

頑張って笑顔を浮かべる殿下を見て心に誓った。
この方のためにも、自分の生きる理由を見つけようと。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...