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5.第二王女殿下は執事の心を温めます

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「殿下、今日は実際に魔法を使ってみましょう」
「わかったのだ!」

魔力操作ができるようになった翌日、王城の庭にて実際に魔法の使い方を教えることにした。殿下は楽しみでしょうがなかったらしく、今もソワソワしている。

「ですが、先に属性検査をしましょう」
「ぞくせいけんさ?」

こてん、と首を傾げる殿下。聞き慣れない言葉だったようだ。

「魔法には火、水、土、風、雷、聖、闇の7つの属性があります。どれも訓練次第で使えるようになりますが、人それぞれ得意不得意があるのです」
「先生の得意な属性はなんなのだ?」
「私は水と雷ですが、特に水ですね」

水と雷は相性がいい、いや逆に悪いとも言える。まあそれは使う時があれば追々わかることではあるから今ここでは言わないでおこう。

「じゃあ今日はその得意な属性を調べるのだ?」
「流石です、殿下」

まだきっちり説明していないのにわかるとは、やはり殿下は天才だ。

「どうやって検査するのだー?」

興味津々なご様子。これは早くやらないといけないな。

「こちらの石を使います」

一つの石を差し出す。なんの変哲もないただの大きな丸い石だ。

「こちらに魔力を込めるのです。見ててください」

石に手を添えて魔力を注ぎ込む。そうすると石が光を帯び始めた。

「綺麗なのだ...ふえっ!?」

殿下が驚いた声を上げる。色が水色に変わっていたのだ。

「これにて完了です。その人により適している属性の色に変化するのですよ。水は水色、火は赤色、土は茶色、風は緑色、雷は黄色、聖は白、闇は紫になります。殿下もやってみてください」
「はーいなのだ!」

殿下にもう一つ石を渡すと手で包み込むようにして持って目を瞑った。
そして...

「ま、まさか!?」

私はあまりのことに驚愕の声をあげてしまった。なぜならその石は虹色に輝いていたからだ。

「先生、できたー!これはなんなのだ?」

満面の笑みの殿下を見て少し冷静になる。

(殿下が規格外のことをやらかすのは最近学んだばかりじゃないか)

「殿下は全ての属性に適性があるということですよ。そんな人は今まで聞いたことがございません。殿下はすごいですね」
「やったーなのだ!」

飛び跳ねて喜ぶ殿下。うん、眼福だ。

「では、殿下がやってみたい属性の訓練をしましょうか」
「うーん...先生と同じ水属性がいいのだ!」
「わかりました。では水属性からお教えしましょう」

さて、せっかく庭に出たのだから庭にあるものを使おう。

「では殿下、魔法を使って花壇に水やりをしましょうか」
「水やりするのだ?」

不思議そうな顔。確かに花壇の水やりなどメイドが魔法を使わずにやっていることを魔法でやる必要はない。だが、今の殿下に魔法制御を教えるのに水やりは丁度いいのだ。

「殿下、水やりは難しいと思いますよ」

ますますわからないという顔になる。

「まあとにかくやってみましょうか」
「はいなのだ!」
「殿下、見ててくださいね」

片手を手の平を下に向けて前に差し出す。そして霧吹きのように水を撒いていく。

「ベルもやるのだ!」

殿下が同じように手を突き出した。しかし次の瞬間...。

「きゃっ!」
「殿下!?」

魔力を込めすぎたのだろう。大量の水が噴き出て、それにびっくりした殿下が悲鳴をあげる。慌てすぎているのか手から出る水はどんどん多くなっていた。
慌てて水に向かって飛び込み、殿下の手を濡れるのにも構わず包み込む。

「失礼します!」

水圧が痛いが今はそんなことを気にしている場合ではない。殿下が怪我したら大変だ。
包み込んだ手からゆっくり魔力を流して、水を押さえ込む。

「殿下、私が押さえておりますので、魔力をゆっくり操作してください」
「う、うん」

殿下は泣きそうになりながら必死に魔力を操作して完全に水を止めた。

「よくできました」

濡れているだけで殿下に怪我はないようだ。ほっとする。

「ご、ごめんなさい!アラン怪我は!?」

声を震わせる殿下に驚く。口調もいつもと違くて先生も付け忘れていた。

「大丈夫ですよ。私はこれくらいでは怪我しません。それより、じっとしていてくださいね」

お互いびしょ濡れだったので、温風を使ってさっと乾かす。

「ありがとう」

お礼を言う殿下の顔色はまだ悪い。それほどまでに心配させてしまったようだ。

(これは私が悪いな。いくら殿下が天才だからといって実際に魔法を使うには早すぎることに変わりなかったのに、忘れてしまっていたのだから)

しばらく考えてから、殿下の前に膝をついて目線を合わせる。

「ア、アラン?」
「殿下、失敗なんて誰にでもあるものですよ。私も殿下くらいの歳の時はよく失敗しました。私に怪我はありませんし、もう心配なさることはありませんよ」
「で、でも」
「それとも殿下は魔法がお嫌いにましたか?」
「そ、そんなことはない!けど...」

俯いて小さい声で言う。

「ベルが失敗することでアランが怪我するのが怖い...」

手をぎゅっと握り震えながら言うをそっと抱きしめる。

「ア、アラン!?こんな...」
「殿下、心配してくださってありがとうございます。じゃあもっと練習しましょう」
「だから!」
「殿下が失敗した時にいるのが私とは限りません。殿下の大切な方が側にいた時に傷つけてしまわないように、練習しましょう。心配いりません。私は殿下が失敗したくらいで怪我なんてしませんよ、鍛えてますから」

いつもは動かさない顔の筋肉を無理矢理動かして微笑む。心配しないでというように。
すると、顔を上げた殿下が目を大きく見開いた。

「笑ってる?」

頬に添えられた小さな手は暖かくて、私の心まで温める。

「ア、アランが笑った!」
「殿下もやっと笑ってくれましたね」

2人で顔を見合わせて笑い合う。
ベルはアランのちょっとぎこちない笑顔に心配が薄れていくのを感じた。

「アランは笑ってた方がいいのだ」

忘れてたように戻る口調に苦笑してしまう。

「善処します」

暖かなそよ風が2人を包み込んでいた。
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