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3.第二王女殿下の先生になりました
しおりを挟む(んー……何だか温かい)
とても、優しい温もりに私の身体が包まれている───幸せ!
(これが……本当の幸せ)
───ずっとずっと私の心はどこか満たされないままだった。
お母さんの顔色と機嫌だけを窺って生きていたあの頃。
伯爵家に引き取られてからは「使えない」「ダメな子」「役立たず」散々、罵られた。
少しでも褒めて貰えるようにと頑張ったけど、なかなか思うようにはいかなかった。
全ての記憶が繋がってから、私にとっての幸せだった時を思い出そうとすると、そこにはあの男の子───カイザルがいる。
(初めてのお友達……)
愛とか恋とかはよく分からなかった。
それでも、私はカイザルと会っていたあの短い日々が楽しくて大好きだった。
(ありがとう、カイザル───)
「……眩し…………朝?」
そんな幸せな気持ちで私は目を開ける。
陽の光がかなり眩しい。
もしかしてこれは結構いい時間なのでは?
(今、何時かしら? どうして誰も起こしてくれな───)
「ん?」
そこで自分の身体に巻きついている腕が目に入った。
「ひっ! 腕……人間の腕、よね?」
最初に私は自分の腕の確認をした。間違いなく私の腕──はここにある。
「これは…………ハッ!」
そこで、ようやく昨夜のことを思い出した。
初夜が延期になったはずなのに、カイザルは部屋に戻らず私をベッドに押し倒して──
(たくさんキスをされた気がする! それで、私……頭の中がトロンとして……)
「え……まさかの寝落ち?」
そうとしか思えなかった。だってそこから先の記憶が無い。
そうなるとこの腕、それとこの温もりは───
(一晩中、抱きしめてくれていたのかしら?)
私を包むカイザルの温もりが、とにかく“私のことを大好き”と言ってくれているみたいで幸せな気持ちになれた。
「うっ……ん…………」
「は! カイザルもお目覚めかしら?」
私は慌てて後ろを振り向きカイザルの顔を見ようとした。
「…………コ、レット…………シェイ、ラ……」
「…………」
すごいわ。ベッドの上で私を抱きしめながら、二人の女性の名前を寝言で呼んでいる。
とっても不誠実な発言のはずなのに、ただの一途になっているという……
私はそっとカイザルの頬に手を触れる。
そしてそこに自分の顔を近づけてチュッと彼の頬にキスをした。
「カイザル───ありがとう」
シェイラを強く想ってくれて。
そして、コレットを見つけてくれて───
────
「……ん? コレット?」
「───おはよう、カイザル」
どうやらカイザルの目も覚めたらしい。
だけど、少し寝ぼけているのかどこか焦点の合わない目で私をじっと見る。
「可愛い可愛い俺のコレットがいる……」
「カイザル?」
「夢の中でもコレットが俺の腕の中にいたのに、目が覚めてもコレット……」
「……コレットです」
私がそう答えると、カイザルがへにゃっと笑った。
「──!?」
これまで見たことのないその笑顔? に私は大きく戸惑った。
(……もう! 本当にカイザルがわけ分からないわ!)
小説では、愛してもいない私を娶りお飾りの妻として冷遇するはずのカイザル……
今はこんなにヘニャヘニャの笑顔を見せている。
小説と現実は違うのだと、すでにたくさん実感させられてきたけれど……
(……あの妙に無口な日々はなんだったの?)
そのことも聞きたいと思っていたのに、まだ聞けていなかったことを思い出した。
「ねぇ、カイザル!」
「ん~? コレット?」
「……っ」
カイザルがへにゃっとした笑顔のまま私の名前を呼ぶ。
ちょっと今聞いても大丈夫かな? と思ったけれどやはり忘れないうちに聞いておこうと思った。
「……どうしてあなたずっと無愛想で無口だったの?」
「……無口?」
「私の記憶の中のカイザルも、それに昨夜のあなたもよく喋る人だったわ」
「……よく喋る?」
「なのに、結婚してから……いいえ、顔合わせの時もね? あなたはびっくりするくらい無口だった。どうして!?」
私が勢いよく訊ねると、カイザルはしばらく考え込んでから、ボンっと顔を赤くした。
「え……」
何故ここで顔が赤くなる?
「そ、そ、そそそれは……」
「それは?」
躊躇うカイザルに私はグイッと迫る。
「……」
「カイザル!」
「う! ………………から」
ようやくカイザルは観念したのか、ポソッと言った。
「シェイラが……」
「シェイラ? どうして私?」
「────シェイラが言ったじゃないか!」
「ん?」
私は首を傾げてカイザルの次の言葉を待った。
「しつこい男や口うるさい人は嫌われる……」
「え!」
「男の人は少し無口でミステリアスな人がカッコイイと!」
「…………あ!」
そう言われてカイザルとの会話を思い出した。
あの頃は“ミステリアス”がよく分からなかったけど確かにその話をしていた。
───よく分からないが、男は無口な方がカッコイイ……というわけか
───そうみたい
───ふーん……
(も、もしかして、あの時のカイザルの「ふーん……」は……興味のないふーんではなく……)
「え! そ、それで……?」
「……」
私がびっくりしてカイザルの顔を見たら茹でダコになったカイザルが頷く。
そして必死な顔で私に言った。
「───す、好きな人にはカッコイイと思って貰いたいじゃないか!」
「!」
「シェイラ……いや、コレットに少しでも俺をカッコイイと思って、それで俺を好きになってもらいたかったんだ!!!!」
(────やだ、可愛い!)
そんなカイザルの言葉に私の胸が盛大にキュンとした。
カイザルが望んだカッコイイではなく可愛い……でだけれど。
「それであんな態度を?」
「…………ミステリアスだっただろ?」
「……」
いや、ただのコミュ障だったわよ……とは言えない。
だけど、なんて不器用な人なの……そんな無理しなくても私は───
「……カイザルのことが好き」
「え?」
「無口だろうとお喋りだろうと関係ないわ? 私はあなたが好きよ」
「コレット……」
カイザルの目が大きく見開かれる。
「シェイラも…………あなたが好きだったわ、カイザル」
「シェイラ……も?」
「ええ! 毎日毎日あなたに会えるのが楽しみだったわ───」
と、そこまで言ったらカイザルがギュッと私を抱きしめ、あっという間に唇が塞がれた。
「んっ……」
(カイザルは可愛いけれど、手が早い……)
なんて思った。
───
そんな熱いキスをこれでもかとたくさん贈られた後にカイザルは私の耳元で言った。
「いいか、コレット。医者の許可がおりたら覚悟しておいてくれ。俺を煽ったのは君だ!」
────と。
今度は私が茹でダコになって頷く番だった。そして───
「ちょっ……カイザル……擽ったい」
「だめ?」
「んん……ダメじゃない、けどぉ……!」
何故かとっくに朝のはずなのに誰も部屋に起こしに来ない。
なので、カイザルからのキス攻撃が止まらない。
お互いの気持ちを確認しあえたことから、カイザルの中に遠慮という物が無くなった気がする。
(は、話を変えるのよ……)
イチャイチャな雰囲気じゃない話に! そうすれば……
と、そこで私はもう一つ浮かんだ疑問を訊ねることにした。
「そ、そうよ! カイザル」
「んー……?」
「あ、あなたがシェイラにくれようとしていた、た、誕生日プレゼントって何!?」
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