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⒏ フォルトの街

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「ついたー!」

山を数日にわたって超えた私たちはミスティ教国の南端、フォルトの街に着きました。ここからまた教都に向かうのですが、その前に教都の情報をここで集める事になったのです。

「さっさと冒険者ギルドに行くぞ」

フレアが不機嫌そうな顔で私の腕を引っ張ります。街に入るときに身分証がないことに気がつき、入るのに手間取ったため怒っているのでした。
フレアに引っ張られながら街並みを観察します。
田舎特有ののんびりとした雰囲気が漂っていて落ち着きます。

「美味しそう...」

焼きたてのパンに目が釘付けになります。自然と足が止まってしまいました。

「お前な...しょうがないな。買ってやるからそれで我慢しろ」
「い、いいわよ、自分で買うから」
「これでも一応Aランクの冒険者なんだ、小娘1人にパンを奢るくらいどうってことない」

14歳の私に向かって小娘呼ばわりは少しカチンときましたが、買ってくれると言うのでグッと堪えます。
ーー実際はただ美味しそうなパンから目が離せなかっただけですが。

「おや、カップルかい?」
「ぶほっ」
「な、何言っているんですか?」

店から出てきたふっくらした体型の女性がいきなり爆弾発言を落としました。

「違うのかい?美男美女だからてっきりカップルかと思ったよ」
「誰がこんな非常識な奴と!」
「フレア、それは酷くない?」

フレアを思いっきり睨みます。誰が非常識ですか!

「あ、すみませんでした」

フレアが私の迫力に押されたのか顔を引き攣らせて謝りました。まあ、お世話になっているし許してあげましょう。

「若いっていいねぇ。はい、これおまけ。2人で食べな」
「ありがとうございます!」
「いいよいいよ、また来てくれればいいからさ」
「はい!また来ます!」

おまけにもう1つくれました。気のいい女性で心からまた来たいと思いました。

「ほれ。さっさと食べていくぞ」
「ありがとう」

丸い白パンはもちもちとしていてほんのり甘く、絶品でした。そうして歩いていると、ある事に気がつきます。

「なんか冒険者が多くない?」
「ああ、それはこの街の端に冬鬼ふゆきの森っていう、魔物がいる森があるからだな。田舎だが冒険者にとっては活躍できる街なんだよ」
「そうなのね」

フレアのこういう知識はどこで培われたのでしょうか。口は悪いしガサツなのに色々なことを知っています。

「森に勝手に入るんじゃねえよ。大して強い魔物はいないが、奥に行けば冬鬼っていうSランク指定の魔物がいる。あの森から出ることは無いらしいが、森の中で出会えばひとたまりも無いからな」
「分かった」

ぶっきらぼうですが心配してくれているのがわかるので、素直に頷きます。

「ここがギルドだ」

2階建ての立派な建物です。久しぶりのギルドに少し緊張してしまいました。
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