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⒎王宮のその後
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「レティア様、朝ですよ」
朝、レイナはなかなか起きてこないレティアを心配してレティアの部屋の扉を何度もノックしていた。
「レティア様、入りますね」
ノックしても反応がないことを不審に思い、レイナは中に入った。その瞬間、いつもと違う雰囲気を感じとる。
ーーそう、何かは分からないが、確実にいつもと違う空気が漂っていたのだ。
嫌な予感がしたレイナはベッドに駆け寄る。
そこには....誰もいなかった。
「レティア様?どこにいらっしゃるんですか?レティア様?」
部屋中に何度呼びかけても返事はない。そして、テーブルの上に置かれているメモに気がついた。
しかし、それを取ろうと手を伸ばして、レイナは自分の手が震えていることに気がついた。必死に震えを抑えながらメモを手に取る。
『しばらく旅に出ます。お元気で』
たった一言、短い、本当に短い手紙とも言えないメモだった。しかし、レイナには不思議とそのメモがレティアのものであると断言できた。
「レティア様、なんで...」
フェシルに辛く当たられても笑顔で、いつも国民を思っていた彼女がいなくなるなんて考えられなかった。
ーーいや。心の奥底ではいつか彼女がいなくなるかもしれないと思っていたのかもしれない。
言葉とは、想いとは裏腹にレイナは落ち着いていた。
「とにかく、陛下に報告に行かなければ」
レイナは国王であるローランドが、母親を亡くしたレティアのことを思って自ら付けた、国王直属の部下である。メイドの中でも特別な地位に付いているレイナは唯一、国王に直接会って話すことができた。
「陛下、レイナです。今少々お時間よろしいでしょうか?」
「入れ」
ローランドはすぐにレイナの異変に気がついた。
「何があった?」
レイナはぐっと歯を食いしばって言った。
「レティア様が出奔なされました」
「...まさか」
ローランドはその一言に大きく目を見開き呆然とした。ローランドは賢くて、才能があり、国民を思える優しい心を持つレティアのことを心の底から愛していた。フェシルのことも娘として愛してはいたが、レティアは別格だったのだ。
「何故分かる?ただ王宮を抜け出しただけではないのか?」
「こちらをご覧ください」
レイナはメモを差し出す。ローランドはそれをじっくりと何度も読んだ。読む度に手に力がこもっていくのがわかる。
「何かあったのか?」
「わかりません。確かに2日前にフェシル様にミティア様の形見のペンダントを壊された後、体調を崩され丸一日寝込んでおられましたが、それくらいしかありませんね」
「形見のペンダントを壊されたのはショックだっただろうが、それだけで出奔するとは思えんな」
「私もそう思います」
2人は頭を抱える。何故彼女はいなくなったのか?その疑問が2人の中を巡っていた。
「宰相を呼んでくれ!」
悩んでも仕方ないと思い、ローランドはベルを鳴らしてメイドに宰相を呼ぶように言った。
「すぐに騎士団に捜索させるべきです」
話を聞いた宰相ーフレデリック・フォン・ベライド侯爵はすぐに言った。
「国王としてはダメなのだろうが、あの子が望む人生を歩ませてあげたいのだよ。ここにいても幸せになれないのであればこのままあの子を好きにさせてあげてもいいと思っておる」
悲痛な面持ちローランドは言う。最愛の娘が王宮にいても幸せになれないことは彼が1番分かっているのだろう。
「いけません!もし何かきちんと目的があり北か南に進んでいれば山を移動しているのですぞ!いくらレティア様が強かろうが、1人では危険な事に違いないのです!」
ローランドとレイナはハッとする。確かに一人で出奔したのであれば、相当危険だ。特に南の山に向かっていたとしたら?
「早急に騎士団に捜索させよ!」
「はっ!」
フレデリックは急ぎ足で出ていった。
「陛下、私も行きます!」
「それは許可できない」
「何故!?」
レイナは居てもたってもいられなかった。早くレティアの無事を確認したくてたまらない。
「君に何かあったらレティアが帰ってきた時、あの子に顔向けできない」
「私はこれでもA級冒険者です!」
「元、であろう?君が行くことは禁じる。レティアが帰ってくるのを待っていなさい」
レイナはぐっと歯を食いしばった。しかし、ローランドが言うことはもっともである。結果、彼女にできたことは頷くことだけだった。
「...はい」
「よろしい。もう退出して構わない」
執務室から出たレイナは街を眺めた。レティアが守りたいと思った街を。
彼女が何故出奔したのかはわからない。でもきっととても大事な理由があるのだろう。
「絶対、無事で帰ってきてくださいね」
風に向かって呟く。返ってこない返事をいつまでも待っていた。
その日、レティアの出奔は国中に大きな驚愕と共に広まった。
朝、レイナはなかなか起きてこないレティアを心配してレティアの部屋の扉を何度もノックしていた。
「レティア様、入りますね」
ノックしても反応がないことを不審に思い、レイナは中に入った。その瞬間、いつもと違う雰囲気を感じとる。
ーーそう、何かは分からないが、確実にいつもと違う空気が漂っていたのだ。
嫌な予感がしたレイナはベッドに駆け寄る。
そこには....誰もいなかった。
「レティア様?どこにいらっしゃるんですか?レティア様?」
部屋中に何度呼びかけても返事はない。そして、テーブルの上に置かれているメモに気がついた。
しかし、それを取ろうと手を伸ばして、レイナは自分の手が震えていることに気がついた。必死に震えを抑えながらメモを手に取る。
『しばらく旅に出ます。お元気で』
たった一言、短い、本当に短い手紙とも言えないメモだった。しかし、レイナには不思議とそのメモがレティアのものであると断言できた。
「レティア様、なんで...」
フェシルに辛く当たられても笑顔で、いつも国民を思っていた彼女がいなくなるなんて考えられなかった。
ーーいや。心の奥底ではいつか彼女がいなくなるかもしれないと思っていたのかもしれない。
言葉とは、想いとは裏腹にレイナは落ち着いていた。
「とにかく、陛下に報告に行かなければ」
レイナは国王であるローランドが、母親を亡くしたレティアのことを思って自ら付けた、国王直属の部下である。メイドの中でも特別な地位に付いているレイナは唯一、国王に直接会って話すことができた。
「陛下、レイナです。今少々お時間よろしいでしょうか?」
「入れ」
ローランドはすぐにレイナの異変に気がついた。
「何があった?」
レイナはぐっと歯を食いしばって言った。
「レティア様が出奔なされました」
「...まさか」
ローランドはその一言に大きく目を見開き呆然とした。ローランドは賢くて、才能があり、国民を思える優しい心を持つレティアのことを心の底から愛していた。フェシルのことも娘として愛してはいたが、レティアは別格だったのだ。
「何故分かる?ただ王宮を抜け出しただけではないのか?」
「こちらをご覧ください」
レイナはメモを差し出す。ローランドはそれをじっくりと何度も読んだ。読む度に手に力がこもっていくのがわかる。
「何かあったのか?」
「わかりません。確かに2日前にフェシル様にミティア様の形見のペンダントを壊された後、体調を崩され丸一日寝込んでおられましたが、それくらいしかありませんね」
「形見のペンダントを壊されたのはショックだっただろうが、それだけで出奔するとは思えんな」
「私もそう思います」
2人は頭を抱える。何故彼女はいなくなったのか?その疑問が2人の中を巡っていた。
「宰相を呼んでくれ!」
悩んでも仕方ないと思い、ローランドはベルを鳴らしてメイドに宰相を呼ぶように言った。
「すぐに騎士団に捜索させるべきです」
話を聞いた宰相ーフレデリック・フォン・ベライド侯爵はすぐに言った。
「国王としてはダメなのだろうが、あの子が望む人生を歩ませてあげたいのだよ。ここにいても幸せになれないのであればこのままあの子を好きにさせてあげてもいいと思っておる」
悲痛な面持ちローランドは言う。最愛の娘が王宮にいても幸せになれないことは彼が1番分かっているのだろう。
「いけません!もし何かきちんと目的があり北か南に進んでいれば山を移動しているのですぞ!いくらレティア様が強かろうが、1人では危険な事に違いないのです!」
ローランドとレイナはハッとする。確かに一人で出奔したのであれば、相当危険だ。特に南の山に向かっていたとしたら?
「早急に騎士団に捜索させよ!」
「はっ!」
フレデリックは急ぎ足で出ていった。
「陛下、私も行きます!」
「それは許可できない」
「何故!?」
レイナは居てもたってもいられなかった。早くレティアの無事を確認したくてたまらない。
「君に何かあったらレティアが帰ってきた時、あの子に顔向けできない」
「私はこれでもA級冒険者です!」
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レイナはぐっと歯を食いしばった。しかし、ローランドが言うことはもっともである。結果、彼女にできたことは頷くことだけだった。
「...はい」
「よろしい。もう退出して構わない」
執務室から出たレイナは街を眺めた。レティアが守りたいと思った街を。
彼女が何故出奔したのかはわからない。でもきっととても大事な理由があるのだろう。
「絶対、無事で帰ってきてくださいね」
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