記憶と約束を探して〜千年の時を超えて『今』結ばれる〜

美原風香

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⒍ フレアの過去

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「ティアラ頼む!」
「はい!〈防護プロテクト〉!」

フレアを銀色の光が包みます。黒髪と相まって神秘的な雰囲気を出して...いませんでした。剣を片手に軽々と赤熊レッドベアーの首を切り裂き大量に返り血を浴びた彼は、誰が見ても恐ろしさしか感じないでしょう。温度を感じさせない黒い瞳が彼の冷徹な雰囲気を引き立てます。

「ふぅ。終わったぞ」
「お疲れ様です」

赤熊を倒し終えると、フレアはまたいつも通りのガサツだけれど優しい表情に落ち着きました。

「じゃあいつもの頼むわ」
「はい。〈洗浄クリーン〉」

返り血が消え、ようやく素顔が露わになります。切れ長の眼。20歳にしては童顔な顔。高い鼻。まあイケメンという部類なのではないでしょうか。私と一緒に旅をしてくれるお人好しでもあります。

「そんじゃ今日の夕食はこいつだな」
「解体しちゃいますね〈解体ディスメンタル〉」

野営の準備をします。私が野営用のテントを取り出すとフレアがさっと取り上げて組み立ててくれました。

「ありがとう」
「別にお礼を言われるほどのことでもねえよ。俺がやった方が早かったからやっただけだ」
「ふふっ」
「何気持ち悪い笑み浮かべてやがる」

不器用な優しさに笑みが溢れました。なのに気持ち悪いというのです!これだから男は...!まあ、本心じゃないのは分かっているので文句は言いませんが。
テントは空間拡張付きで、きっちりベッドもあるとても便利なものです。きっちり2部屋あるので、2人で分けて使っています。最初にこのテントを見たフレアはとても驚いて頬をつねっていました。今日は私が料理をします。

「できましたよ」
「おおーありがと」

簡単に焼いたものを差し出します。

「フレアさんはなぜ旅をしているのですか?」

聞きたかった事を聞いてみました。

「そうだな...俺のことを話すか。ただその前に」

フレアは私をじっと見つめました。

「な、なんでしょう」
「敬語は無しだ。呼び方も呼び捨てにしてくれ。なんかくすぐったい」

真剣な表情をして何をいうかと思えば、まさかの一言でした。

「でも、私より年上ですし、連れて行ってもらうのですから敬語は当たり前では?」
「いいんだよ。俺はただの一般人だ。丁寧に喋られる方が困る」

心底嫌そうに言われました。まあいいと言ってくれているのですから、そうしましょう。

「分かったわ。フレア、これでいいかしら?」
「あ、ああ、構わない。...破壊力強すぎねえか...」
「何か言った?」
「い、いや何でもない」

最後の方が聞こえなくて聞き返すと、顔を真っ赤にして首を振られました。

「ま、まあこれからはそれで頼む。で、俺の話だが」

慌てて話を戻しました。何をそんなに慌てているのでしょうか?

「俺は孤児なんだよ。物心ついた時から裏路地にいてさ腕もその時から無くてな、仲間もできなかったんだ」
「...」
「それでもどうにか犯罪だけはせずに生きてこれて、10歳になった時に冒険者登録したんだ。最初は片腕っつう事で舐められたけど、それを見返すように訓練しているうちにAランクになってた」

フレアの表情は穏やかだった。悲惨な過去だったはずなのにまるで懐かしむよう。

「でも俺の中の何かが俺の居場所はここじゃないってどこに行っても呟くんだ。結局俺は居場所を求めて彷徨ってるんだろうな」
「大変だったのね」
「まあ、な」

月並みな言葉しかかけられない自分に嫌気がさします。思わずフレアの手を握ってしまいました。

「ちょ、おい...」
「...きっと見つかると思うわ」

私はいつか別れる事になります。私の目的はフェニックに会う事なのですから。だから私が居場所になってあげることはできないけれど、彼の居場所が見つかったらいいなと心から思いました。

「そうだな」

彼は出会ってから初めて心からの笑みを見せてくれました。
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