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⒈ 王からの打診
しおりを挟む「...ア、..ティア、レティア様!」
「レイナ?どうしたのですか?」
呼び掛けられて魔導書から目をあげると、メイドのレイナが呆れた目で私のことを見ていた。
「レティア様、陛下がお呼びです」
「お父様が?どうかされたのかしら?」
「私は特に聞いておりませんが...。レティア様、集中なさることはいいことですが呼び掛けても気がつかないのは如何なものかと存じます。もう何度も申し上げているではありませんか」
「ごめんなさい、魔導書を読んでいると周りのことが見えなくなってしまうのよ」
レイナの言っていることは正しいから素直に謝る。いつも何度も呼ばせてしまうから申し訳ないわ。
「それで、今回は20分呼び掛け続けました」
「えっ...?」
20分ということは...。
「陛下は相当待たれていらっしゃるかと」
「!?急ぎます!レイナいつもごめんなさい!」
流石にお父様に失礼すぎるわ!
「次から気をつけて下さればいいのですよ」
レイナに見送られて足早に書庫を出る。これじゃあ遅いわ...!
しょうがないので、風を起こしてスピードを上げる。周囲の風景が飛ぶように流れていった。
***
「お父様、レティアです」
「入りなさい」
重い豪奢な扉を開けて中に入ると、奥の椅子に金髪で優しそうな面差しの男性が座っています。言わずもがな、この国の国王であり実の父でもあるローランド・フォン・ルーシェその人です。
「遅れてごめんなさい」
「大丈夫だよ。また、魔導書に夢中になっていたのだろう?」
行動が読まれていたことが恥ずかしく、顔がさっと熱くなってしまい、思わず俯いてしまいました。その様子を微笑ましそうに見ていたローランドは真剣な表情になると、こほん、と咳払いをした。本題に入るようです。
「さて、今日お前を呼んだのは他でもない、王位継承権に関してだ」
「王位継承権に関して、ですか?お姉様が継ぐのでは?」
この国では女王も認められています。そして、現在の王位継承権一位は姉のフェシルですから、私にはあまり関係のない話のはずですが...。
「もちろん今のままだとフェシルが女王になるだろう。しかし、お前はそれでいいのか?」
「構いませんが、なぜ急にそのような話を?」
私は第二王女。しかも、お姉様と違って母は第2王妃ですから、すでに亡くなっているとはいえお姉様がいる以上王位を継ぐことはあり得ないと言えます。
「お前は優秀だ。それこそ魔法も得意だし、民にも好かれている。対して、フェシルはお前のことを嫌い、嫌がらせをしているとも聞く。そんな者に王位を継がせていいのか心配でな。お前ならば、民とともに歩んでいけると思うのだ。だから今一度聞く。王位を継いではみないか?」
お父様がそのようなことを考えていたなんて...。しかし私の答えは決まっています。
「お父様のお考えは理解しました。ですが、断らせていただきます」
「何故だ?」
きっぱりと断った私が余程意外だったのでしょうか。興味深そうにお聞きになります。
「確かに私は才能に恵まれたのでしょう。しかしながら、私を女王にすることは争いの種になります。私はお姉様と争いたくはないのです。確かに多少の嫌がらせはありますが、それはお姉様の不安の表れでしょう。女王になれば、このようなこともなくなるはずです」
才能を否定することはしません。実際、私には類稀な才能がありますし、才能には責任が付きまとうこともまた知っているからです。しかし、女王になることはまた別の話になってしまいます。私が女王になればほぼ確実に争いが起こります。民を守るためにも争いは避けなければなりません。
「そうか...。確かに争いは避けねばならないな。お前の考えはよくわかった。私はお前の思いを汲もう」
「ありがとうございます」
「下がって構わない。何かあれば相談しに来なさい」
「はい、お父様。失礼いたします」
お父様の執務室を後にし部屋に戻りながら、ドレスの内側に入れていたペンダントを取り出してぎゅっと握りしめました。お母様の形見のペンダントで伝説の霊鳥、不死鳥をモチーフにしたこの小さなペンダントは肌身離さず毎日つけている私のお守りです。
「...お母様、見守っていてね」
小さく呟くとまたドレスの内側にしまいました。あまり人の目に触れさせたくないのです。
ちょうどその時、お姉様が前からやってきました。でも、私は嫌われているのですれ違う時に頭を下げるだけで話しかけたりはしません。
『ドンッ』
しかし、お姉様はわざとぶつかってきて、私はよろけてしまいました。その衝撃の所為でしょうか、ペンダントが外れて床に落ちてしまいました。
カチャン。
「ああ、ごめんなさいね。あなたの気配が小さすぎて全然気づいていなかったわ。あら、これは何かしら」
「だめっ!」
バカにするように謝罪を口にした後、目ざとくペンダントを見つけると、乱暴に拾い上げました。何故か猛烈に嫌な予感がして、思わず声をあげましたが、私の様子を見たお姉様はニヤリ、と笑いました。
「なんて幼稚なペンダントなの!こんなのを着けているなんて、あなたがいかにセンスがないか分かるわね。こんなもの、ルーシェ王家の恥よ、私が処分してあげるわ」
「やめて!」
慌てて取り返そうと手を伸ばしましたが、間に合いません。
パキン。
お姉様の手によって不死鳥の両の羽が付け根から折られてしまいました。
その時。
『待ってるよ、たとえ千年の時が経とうとも』
頭の中に赤髪の青年の言葉が鳴り響いたのです。
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