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最終話. 千年ぶりの魔法をあなたに
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「ティーナ様、お久しぶりですね」
彼が、何よりも大切な彼が笑みを浮かべてそこにいた。
「ど、どういうこと……?」
「私もこの時代に転生したのです。そしてあなたが生まれてから今日までの十五年間、陰ながら見守っておりました。すぐにお迎えに上がれず、申し訳ございません」
深々と頭をさげる彼に呆然とする。見た目のみならず、口調までヴァールとは大違いだった。それは、彼ーーヴァンと全く同じだった。
そのことが、私に彼が本物のヴァンであると信じさせる。
「本当に、本当にヴァンなのね……」
「はい、ティーナ様」
以前の名を呼ばれて涙が溢れる。もう会うことはないと思っていた彼に会うことができた。それがどうしようもなく嬉しくて、私は泣きながら笑みを浮かべる。
彼が、そっと抱きしめてくれる。その胸に顔を押し付けた。
彼は前世のこと、転生してからのことをポツポツと語った。
儀式が嘘のものであることに気づいて国王に詰め寄ったが、国王が儀式によって得た力に負け、投獄され、処刑されてしまったこと。
転生してから、この儀式がまだ行われると聞いて止められるよう準備してきたことなど。
「前世は力不足であなたが生贄になるのを止められなかった。先にこの儀式の本当の姿を知っていれば、あなたを守ることができたのに……だから、この儀式を止めるまであなたには会えないと思ったのです。主を守れなかった護衛が主の前に姿を表すわけにはいきませんから。
でも、それで長い間辛い思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」
聞きながら涙が溢れてきて止まらなかった。彼が私のために戦ってきたことを知って、形容しがたい感情が溢れてくる。
「ありがとう……本当にありがとう……ヴァン」
「私はっ……あなたにこうやってもう一度会えて、今までの全てが報われました」
声を震わす彼が愛おしくてしょうがない。
「そういえば、なぜさっき姿が変わったの? それに、なぜ私がこの国に生まれたことに気づいたの?」
疑問に持っていたことを聞く。いくらヴァンが優秀な魔法使いといえど、幽閉されていた私のことなどどこで知り得たのだろうか。
その疑問に彼は、あぁ、と頷いて笑みを見せた。
「千年前、私は二つの魔法をかけたのです、魔法ともいえないような、稚拙なものですが。それが効果を発揮したのでしょう」
「魔法?」
「一つ目は、処刑される前に私が自分自身にかけたもので、この儀式を止めるまでこの姿に戻れなくする魔法です。さっきも言いましたがこの儀式を止めない限り、あなたに顔向けできないと思ったので。二度目の人生がありますように、と願って」
だから、儀式を止めた瞬間姿が戻ったのね。真面目すぎる彼に思わず苦笑する。
「二つ目は?」
「それは……」
彼が私の目を見つめる。金色の瞳は涙で濡れていた。
「あなたが生贄になる直前に、あなたにかけたのです。もし私に次の生があるなら、あなたがこの世に生を受けたときに気づく魔法です。魔法といっても効果が発揮するかわからない、祈りのようなものですが」
私は言葉を失った。千年前から、彼が私との再会を願ってくれていたことに胸が熱くなる。
「千年の時を超えて、私の祈りがあなたに届いてよかった」
彼が眩しいほどの笑みを浮かべる。私は思わずその笑顔に見惚れる。
もしかしたら、私の魔法も効果を発揮したのかもしれない。水底に沈みながら祈ったことを思い出す。
『せめて来世、もう一度巡り会うことができますように……』
「ねぇ、ヴァン」
「なんでしょう?」
彼を強く抱きしめる。
「もう、離さないわ」
「それは私のセリフですよ、ティーナ様」
私たちはどちらからともなくキスをした。
『千年ぶりの魔法を、あなたに』
(完)
ーーーーー
ここまで読んでくださりありがとうございました!
千年の時を超えて二人が幸せを掴んで良かったと作者本人、書きながら泣いてしまいました。
「面白かった」「続きは!?」など、感想お待ちしております。
また、以前より連載していました「呪われた王子様の花嫁になりました」も同時に完結しております。こちらも異世界恋愛短編になりますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
それでは、また会える日まで、お元気で過ごされますようお祈りしております。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
彼が、何よりも大切な彼が笑みを浮かべてそこにいた。
「ど、どういうこと……?」
「私もこの時代に転生したのです。そしてあなたが生まれてから今日までの十五年間、陰ながら見守っておりました。すぐにお迎えに上がれず、申し訳ございません」
深々と頭をさげる彼に呆然とする。見た目のみならず、口調までヴァールとは大違いだった。それは、彼ーーヴァンと全く同じだった。
そのことが、私に彼が本物のヴァンであると信じさせる。
「本当に、本当にヴァンなのね……」
「はい、ティーナ様」
以前の名を呼ばれて涙が溢れる。もう会うことはないと思っていた彼に会うことができた。それがどうしようもなく嬉しくて、私は泣きながら笑みを浮かべる。
彼が、そっと抱きしめてくれる。その胸に顔を押し付けた。
彼は前世のこと、転生してからのことをポツポツと語った。
儀式が嘘のものであることに気づいて国王に詰め寄ったが、国王が儀式によって得た力に負け、投獄され、処刑されてしまったこと。
転生してから、この儀式がまだ行われると聞いて止められるよう準備してきたことなど。
「前世は力不足であなたが生贄になるのを止められなかった。先にこの儀式の本当の姿を知っていれば、あなたを守ることができたのに……だから、この儀式を止めるまであなたには会えないと思ったのです。主を守れなかった護衛が主の前に姿を表すわけにはいきませんから。
でも、それで長い間辛い思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」
聞きながら涙が溢れてきて止まらなかった。彼が私のために戦ってきたことを知って、形容しがたい感情が溢れてくる。
「ありがとう……本当にありがとう……ヴァン」
「私はっ……あなたにこうやってもう一度会えて、今までの全てが報われました」
声を震わす彼が愛おしくてしょうがない。
「そういえば、なぜさっき姿が変わったの? それに、なぜ私がこの国に生まれたことに気づいたの?」
疑問に持っていたことを聞く。いくらヴァンが優秀な魔法使いといえど、幽閉されていた私のことなどどこで知り得たのだろうか。
その疑問に彼は、あぁ、と頷いて笑みを見せた。
「千年前、私は二つの魔法をかけたのです、魔法ともいえないような、稚拙なものですが。それが効果を発揮したのでしょう」
「魔法?」
「一つ目は、処刑される前に私が自分自身にかけたもので、この儀式を止めるまでこの姿に戻れなくする魔法です。さっきも言いましたがこの儀式を止めない限り、あなたに顔向けできないと思ったので。二度目の人生がありますように、と願って」
だから、儀式を止めた瞬間姿が戻ったのね。真面目すぎる彼に思わず苦笑する。
「二つ目は?」
「それは……」
彼が私の目を見つめる。金色の瞳は涙で濡れていた。
「あなたが生贄になる直前に、あなたにかけたのです。もし私に次の生があるなら、あなたがこの世に生を受けたときに気づく魔法です。魔法といっても効果が発揮するかわからない、祈りのようなものですが」
私は言葉を失った。千年前から、彼が私との再会を願ってくれていたことに胸が熱くなる。
「千年の時を超えて、私の祈りがあなたに届いてよかった」
彼が眩しいほどの笑みを浮かべる。私は思わずその笑顔に見惚れる。
もしかしたら、私の魔法も効果を発揮したのかもしれない。水底に沈みながら祈ったことを思い出す。
『せめて来世、もう一度巡り会うことができますように……』
「ねぇ、ヴァン」
「なんでしょう?」
彼を強く抱きしめる。
「もう、離さないわ」
「それは私のセリフですよ、ティーナ様」
私たちはどちらからともなくキスをした。
『千年ぶりの魔法を、あなたに』
(完)
ーーーーー
ここまで読んでくださりありがとうございました!
千年の時を超えて二人が幸せを掴んで良かったと作者本人、書きながら泣いてしまいました。
「面白かった」「続きは!?」など、感想お待ちしております。
また、以前より連載していました「呪われた王子様の花嫁になりました」も同時に完結しております。こちらも異世界恋愛短編になりますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
それでは、また会える日まで、お元気で過ごされますようお祈りしております。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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