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8. あなたは
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「それでは、王女殿下。こちらの聖水の泉にお入りください」
その時だった。
「待て!」
扉が破られる大きな音とともに、大量の人が部屋の中になだれ込んで来た。
私の目の前に青年が立ちはだかる。
「遅くなってすまない」
「いいえ。早かったですね」
ヴァールだった。思った以上に早い到着に驚く。だが、それ以上に私は混乱していた。
ヴァールが入って来たタイミングが、前世で彼が入って来たタイミングと全く同じだったからだ。
入って来た瞬間、彼が来たのかと思った。
だが、そんなわけないと首を振る。
「貴様ら……何者だ!」
国王が喚く。国王は剣を持ったクワロン王国の騎士たちに囲まれていた。
「私の名前は、ヴァール・ファン・クワロン。クワロン王国の国王だ」
「なっ……なぜクワロン王国の国王がここにいる!?」
国王が驚愕の声を上げる。それは私も同じだった。
「なぜか? そんなのこの儀式を止めるために決まっているだろう?」
「どういうことだ」
「災いを鎮めるためと言って行なっているこの儀式、これは貴様が力を得るためだろう?」
「っ!?」
「そのために王女を生贄にするという非人道的なこと、見過ごすわけにはいかない」
国王は歯を食いしばって黙っている。ここまでバレてしまっている以上、言い返せないのだろう。
「この国はクワロン王国がしばらく面倒を見る。儀式の件を公表すれば他国も私が治めることを認めるだろう」
「く、くそっ。あと少しで力を手に入れられたのにっ……」
国王が悔しそうな声を上げる。
「連れて行け!」
『はっ!』
国王が連れていかれる。私は黙ってその様子を見ているしかなかった。
「この国は私の大切な人の場所だから」
ヴァールが呟く。私は首をかしげた。
「大丈夫か?」
国王が連れていかれると、ヴァールがようやく振り返った。
「えっ……」
私は固まった。彼が振り返った時、そこにいたのはヴァールではなかった。
彼だった。真っ黒な髪、金色に輝く瞳、優しげな眼差し。
唐突に名前を思い出す。
「ヴァン……? ヴァン・ドゥール……?」
「ティーナ様、お久しぶりですね」
彼が、何よりも大切な彼が笑みを浮かべてそこにいた。
その時だった。
「待て!」
扉が破られる大きな音とともに、大量の人が部屋の中になだれ込んで来た。
私の目の前に青年が立ちはだかる。
「遅くなってすまない」
「いいえ。早かったですね」
ヴァールだった。思った以上に早い到着に驚く。だが、それ以上に私は混乱していた。
ヴァールが入って来たタイミングが、前世で彼が入って来たタイミングと全く同じだったからだ。
入って来た瞬間、彼が来たのかと思った。
だが、そんなわけないと首を振る。
「貴様ら……何者だ!」
国王が喚く。国王は剣を持ったクワロン王国の騎士たちに囲まれていた。
「私の名前は、ヴァール・ファン・クワロン。クワロン王国の国王だ」
「なっ……なぜクワロン王国の国王がここにいる!?」
国王が驚愕の声を上げる。それは私も同じだった。
「なぜか? そんなのこの儀式を止めるために決まっているだろう?」
「どういうことだ」
「災いを鎮めるためと言って行なっているこの儀式、これは貴様が力を得るためだろう?」
「っ!?」
「そのために王女を生贄にするという非人道的なこと、見過ごすわけにはいかない」
国王は歯を食いしばって黙っている。ここまでバレてしまっている以上、言い返せないのだろう。
「この国はクワロン王国がしばらく面倒を見る。儀式の件を公表すれば他国も私が治めることを認めるだろう」
「く、くそっ。あと少しで力を手に入れられたのにっ……」
国王が悔しそうな声を上げる。
「連れて行け!」
『はっ!』
国王が連れていかれる。私は黙ってその様子を見ているしかなかった。
「この国は私の大切な人の場所だから」
ヴァールが呟く。私は首をかしげた。
「大丈夫か?」
国王が連れていかれると、ヴァールがようやく振り返った。
「えっ……」
私は固まった。彼が振り返った時、そこにいたのはヴァールではなかった。
彼だった。真っ黒な髪、金色に輝く瞳、優しげな眼差し。
唐突に名前を思い出す。
「ヴァン……? ヴァン・ドゥール……?」
「ティーナ様、お久しぶりですね」
彼が、何よりも大切な彼が笑みを浮かべてそこにいた。
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