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5. 青年

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 どうやって部屋に戻ったのか覚えていない。気がついた時、私は自室のベッドの上で寝ていた。

 テーブルの上には冷めた夕食が置かれている。
 無意識に部屋に戻り、眠っていたのだろう。カーテンも開きっぱなしで、窓から見える空は真夜中だった。

 不意に昼間のことを思い出し、涙が溢れる。

「会いたい……」

 前世で生贄になったことが意味がなかったことも辛い。今世でまた生贄になりそうなことにも受け入れ難い。

 だが、それ以上に彼が処刑された事実を、私はまだ受け止めきれていなかった。

「なんで、なんでよっ……!」

 民の幸福が私の幸福だった。王女として生まれた自分は生贄になり民を救うことこそが正しいことだと思っていた。

 だが、それでも……

「私の中で一番大事なのはあなたの笑顔だったのにっ……!」

 自分勝手なことだとわかっている。置いていった自分に言う資格がないこともわかっている。

 しかし、言わずにはいられなかった。

「私のために、あなたが処刑される必要なんてなかった! あなたには生きて欲しかった! 私の分までこの王国を見守って欲しかった!」

 何より……

「あなたには幸せになってもらいたかったのにっ……!」

 これでは私が彼の人生を壊したみたいだ。いや、みたいではなくきっと私が壊してしまったのだろう。

 あまりの事実だった。
 心が壊れていく、そんな音が聞こえてくる。

「う、うぐっ……あぁぁぁぁぁぁあ!」

 やばい、そう思う間もなかった。感情の高ぶりとともに溢れ出てきた大量の魔力が暴走し始める。

『魔法を扱う上で大切なのは感情をいかに制御できるかだ。もし感情を制御できなくなれば体の中にある魔力が暴走して飲み込まれる可能性がある』

 彼の言葉が聞こえてくる。前世で魔法を教えてくれた彼の言葉。
 しかし、感情を抑えることができない。

 暴走した魔力は部屋全体を揺らし始める。

 だからだろうか、幻聴が聞こえた気がした。

「まったく、あなたって人は……」

 若い男の声。すでに視界を奪われている私にはそれが生身の人間が発した声なのか、それとも死に際に聞いた幻の声なのか判別できない。

 だが、なぜか、懐かしいような気がした。
 と同時に魔力暴走がおさまっていく。

「これで大丈夫か?」

 完全に魔力暴走が治まった時、真っ先に視界に入ったのはさっきから聞こえていた声の主であろう、金髪の青年だった。
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