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4. もう一度
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「私が生贄になる必要はなかった……?」
呆然とする。
「私は……国のことを、民のことを思って……」
全てが無意味だった?
「わからない……どういう、こと……?」
拾い上げて必死にページをめくる。文字を拾う度に、私は絶望を覚えるしかない。
しかし、ある一文を見て手が止まった。
「『私は……陛下に詰め寄ったが……気がついたら牢獄の中……これが生贄を差し出した国王の力……私にできることは……』 詰め寄った……? もしかして……」
ハッとする。そこに書かれている文字は確かに見覚えがあった。細くて几帳面な、少し斜めった字。
「あなた、なの……?」
手の甲に冷たいものが落ちる。
私はそこでようやく自分が泣いていることに気づいた。
「私がいなくなったあと、必死に戦ってくれたのね……」
名前も思い出せない彼がこの本を書いたのだと、私はなぜか断言できた。
最愛の人。
かけがえのない人。
人が千年も生きれるわけはないから、会えるわけがないと諦めていた。
けれど……
「こんな、こんなことってっ……!」
『私は明日処刑され……やっと彼女の元に……彼女が守ろうした国を守れなかった……許してくれるだろうか……』
続きの一文は私をさらなる絶望に突き落とすのに十分だった。
「なんであなたがっ……!」
処刑されなければいけなかったの?
その言葉が出ることはなかった。
なぜなら、誰かが入ってきたからだ。
コツン。
「あっ……」
慌てて本を戻そうとして音がなる。入ってきた男が足を止めた雰囲気がした。
「おいっ、誰かいるのか!?」
大きな怒鳴り声に必死に息をひそめる。いくら姿が見えないからって音は聞こえてしまうから、静かに本棚の間で固まっているしかない。
見つかったら一巻の終わり。心臓がバクバク言っていてその音が聞こえないか心配になるほど。
「陛下? どうされましたか?」
最初の声とは別の男の声がした。陛下……最初の声は父である国王のものだったようだ。私は国王に会ったことはない。初めて聞く声だった。
低い声。なぜか私の肌を泡立たせた。
「誰かいた気がするのだが……気のせいか」
「お疲れなのでは?」
「いや、大丈夫だ」
少し安心する。とりあえず彼らがここから出るまで私は出るわけにいかないから、少しでもリスクを減らすために彼らから離れようとした、その時だった。
「儀式の件、どうなっている?」
「はい、着々と進んでおります」
儀式、という言葉に私はピタリと足を止めた。
「あやつには知らせたのか?」
「まだ、知らせていません。数日以内には知らせる予定ですが、事実をそのまま伝えれば抵抗されるかと……」
「ふむ……」
儀式。あの本が本当なら災いを治めるのに儀式は意味がないということだ。儀式……それは国王が力を手に入れるためのもの。
力を手に入れるためだけに、また誰かを生贄に捧げようとしている……?
「嘘を言えばいい。あやつに王女として王宮で暮らすためには儀式を行わなければならないと伝えろ。どうせあやつは聖水のことを知らない。しかも一人で寂しく過ごしていただろうから、こっちで暮らせるとなれば喜んで儀式をするだろう」
王女……そんな……。
「なるほど。さすがでございます」
「私が力を手に入れるためには王族の誰かを生贄にしなければならないからな。せっかく厄介な存在がいるのだ。ちょうどいいだろう」
儀式には王族の血が必要……。そして厄介者といえば私しかいない……。
顔から血の気がサーっと引いていく。
今世もまた生贄にされるのだろうか。
「名目はどうされますか?」
「近々災いが訪れる予兆があり、それを防ぐため、で良いだろう。民は災いを恐れる。戦争や大雨、干ばつは飢えにつながるからな。誰もが納得するだろう」
「さすがでございます。その名目で準備を進めます」
「あぁ、頼んだぞ」
男が出ていく。一人になった国王が呟いた。
「あやつの存在はずっと疎ましかったからな。せめて最後くらい役に立ってもらわねば……」
私の目の前は真っ暗になった。
呆然とする。
「私は……国のことを、民のことを思って……」
全てが無意味だった?
「わからない……どういう、こと……?」
拾い上げて必死にページをめくる。文字を拾う度に、私は絶望を覚えるしかない。
しかし、ある一文を見て手が止まった。
「『私は……陛下に詰め寄ったが……気がついたら牢獄の中……これが生贄を差し出した国王の力……私にできることは……』 詰め寄った……? もしかして……」
ハッとする。そこに書かれている文字は確かに見覚えがあった。細くて几帳面な、少し斜めった字。
「あなた、なの……?」
手の甲に冷たいものが落ちる。
私はそこでようやく自分が泣いていることに気づいた。
「私がいなくなったあと、必死に戦ってくれたのね……」
名前も思い出せない彼がこの本を書いたのだと、私はなぜか断言できた。
最愛の人。
かけがえのない人。
人が千年も生きれるわけはないから、会えるわけがないと諦めていた。
けれど……
「こんな、こんなことってっ……!」
『私は明日処刑され……やっと彼女の元に……彼女が守ろうした国を守れなかった……許してくれるだろうか……』
続きの一文は私をさらなる絶望に突き落とすのに十分だった。
「なんであなたがっ……!」
処刑されなければいけなかったの?
その言葉が出ることはなかった。
なぜなら、誰かが入ってきたからだ。
コツン。
「あっ……」
慌てて本を戻そうとして音がなる。入ってきた男が足を止めた雰囲気がした。
「おいっ、誰かいるのか!?」
大きな怒鳴り声に必死に息をひそめる。いくら姿が見えないからって音は聞こえてしまうから、静かに本棚の間で固まっているしかない。
見つかったら一巻の終わり。心臓がバクバク言っていてその音が聞こえないか心配になるほど。
「陛下? どうされましたか?」
最初の声とは別の男の声がした。陛下……最初の声は父である国王のものだったようだ。私は国王に会ったことはない。初めて聞く声だった。
低い声。なぜか私の肌を泡立たせた。
「誰かいた気がするのだが……気のせいか」
「お疲れなのでは?」
「いや、大丈夫だ」
少し安心する。とりあえず彼らがここから出るまで私は出るわけにいかないから、少しでもリスクを減らすために彼らから離れようとした、その時だった。
「儀式の件、どうなっている?」
「はい、着々と進んでおります」
儀式、という言葉に私はピタリと足を止めた。
「あやつには知らせたのか?」
「まだ、知らせていません。数日以内には知らせる予定ですが、事実をそのまま伝えれば抵抗されるかと……」
「ふむ……」
儀式。あの本が本当なら災いを治めるのに儀式は意味がないということだ。儀式……それは国王が力を手に入れるためのもの。
力を手に入れるためだけに、また誰かを生贄に捧げようとしている……?
「嘘を言えばいい。あやつに王女として王宮で暮らすためには儀式を行わなければならないと伝えろ。どうせあやつは聖水のことを知らない。しかも一人で寂しく過ごしていただろうから、こっちで暮らせるとなれば喜んで儀式をするだろう」
王女……そんな……。
「なるほど。さすがでございます」
「私が力を手に入れるためには王族の誰かを生贄にしなければならないからな。せっかく厄介な存在がいるのだ。ちょうどいいだろう」
儀式には王族の血が必要……。そして厄介者といえば私しかいない……。
顔から血の気がサーっと引いていく。
今世もまた生贄にされるのだろうか。
「名目はどうされますか?」
「近々災いが訪れる予兆があり、それを防ぐため、で良いだろう。民は災いを恐れる。戦争や大雨、干ばつは飢えにつながるからな。誰もが納得するだろう」
「さすがでございます。その名目で準備を進めます」
「あぁ、頼んだぞ」
男が出ていく。一人になった国王が呟いた。
「あやつの存在はずっと疎ましかったからな。せめて最後くらい役に立ってもらわねば……」
私の目の前は真っ暗になった。
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