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1. 過去
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「殿下!? なぜ嘘なんて……!!」
「だってあなたは止めるでしょう?」
私は微笑む。じゃないときっとあなたは諦めないから。
「当たり前でしょう!? なぜあなたが生贄にっ……」
「私が王女だから。この国を守る義務があるから」
遮る。じゃないと思わず縋りついてしまいそうだから。
彼の金色の瞳に映る私は泣きそうな顔をしていた。
ごめんなさい。でも私が止まるわけにはいかないの。
「あの者をここから連れ出せ!」
『はっ!』
「殿下!?」
私の命令に周りにいた護衛の者たちが動く。いくら最高位の魔法使いである彼といえどもこの部屋では魔法は使えない。王族しか魔法が使えない特別な部屋だから。
彼は、剣を持った私の護衛たちに為す術もない。
「殿下! 殿下ぁ!!!」
連れていかれる彼を見て目から涙が溢れた。
心の底から愛してる。
だから、あなたに今から始まることを見せるわけにはいかない。
涙を拭って前を見た。私はこの国の王女。役目を果たすのみ。
「儀式を再開する!」
私の声にフードをかぶって並んだ魔法使いたちが頭をさげた。
私は聖水の泉の中に身を沈めていく。特別な水、一度入れば出ることはできないだろう。
だが、もう迷ってはいなかった。
胸元にある彼の名前入りのペンダントを握りしめる。
「せめて来世、もう一度巡り会うことができますように……」
水底に沈みながら私は呟いた。
効果があるのかもわからない、祈りのような魔法を。
***
「はっ」
真っ暗な部屋で目が覚める。数瞬の間、自分がどこにいるかわからずに混乱したが、やがて暗闇に慣れてきた目が鏡の中に、銀髪に銀の瞳の少女を見つけて思い出す。
「あぁ、夢か」
懐かしい夢を見た。私ーーティアラ・ド・ルマージェの前世。遥か昔、千年前の人生の最後。
立ち上がってカーテンを開けると、陽の光が部屋の中を満たす。
「せっかくあの時の夢を見るなら彼の顔を見たかったな」
最愛のあの人。しっかり私と向き合っていたはずなのに、夢の中ではなぜか顔がぼんやりとしていて見えなかった。
私はすでに彼の顔も名前も覚えていない。神様の手違いか、千年後の時代にこうして転生した私は、その影響のせいなのか前世のことはあまり覚えていなかった。
「それでも、あの最期だけは忘れられないのだけどね」
苦笑する。水底に沈み苦しかった記憶だけは今も記憶の奥底にこびりついて離れない。せっかくなら彼と過ごした時間を大切にしまっておきたかったのに。
「まぁ、もう私には関係ない話ね。同じ王女という身分だけれど、以前は聖女と呼ばれていたのに今は『厄介者』だもの」
なんの因縁か、私は今世もまた前世と同じルマージュ王国の王女として生まれていた。
しかも、以前は聖女と呼ばれて災いに呑まれていた国を救おうと奔走したのに、今世は現国王と侍女の間に生まれて疎まれ半ば幽閉されている。
同じ身分でありながらすごい違いだ。
「のんびり過ごすのが一番よね、今は災いが降りかかっているわけでもないみたいだし」
と割り切っているからなんともないが、でなければきっとこの人生に耐えられなかっただろうと思う。それくらい、望まれぬ王女、という身分は厄介だったのだ。
「だってあなたは止めるでしょう?」
私は微笑む。じゃないときっとあなたは諦めないから。
「当たり前でしょう!? なぜあなたが生贄にっ……」
「私が王女だから。この国を守る義務があるから」
遮る。じゃないと思わず縋りついてしまいそうだから。
彼の金色の瞳に映る私は泣きそうな顔をしていた。
ごめんなさい。でも私が止まるわけにはいかないの。
「あの者をここから連れ出せ!」
『はっ!』
「殿下!?」
私の命令に周りにいた護衛の者たちが動く。いくら最高位の魔法使いである彼といえどもこの部屋では魔法は使えない。王族しか魔法が使えない特別な部屋だから。
彼は、剣を持った私の護衛たちに為す術もない。
「殿下! 殿下ぁ!!!」
連れていかれる彼を見て目から涙が溢れた。
心の底から愛してる。
だから、あなたに今から始まることを見せるわけにはいかない。
涙を拭って前を見た。私はこの国の王女。役目を果たすのみ。
「儀式を再開する!」
私の声にフードをかぶって並んだ魔法使いたちが頭をさげた。
私は聖水の泉の中に身を沈めていく。特別な水、一度入れば出ることはできないだろう。
だが、もう迷ってはいなかった。
胸元にある彼の名前入りのペンダントを握りしめる。
「せめて来世、もう一度巡り会うことができますように……」
水底に沈みながら私は呟いた。
効果があるのかもわからない、祈りのような魔法を。
***
「はっ」
真っ暗な部屋で目が覚める。数瞬の間、自分がどこにいるかわからずに混乱したが、やがて暗闇に慣れてきた目が鏡の中に、銀髪に銀の瞳の少女を見つけて思い出す。
「あぁ、夢か」
懐かしい夢を見た。私ーーティアラ・ド・ルマージェの前世。遥か昔、千年前の人生の最後。
立ち上がってカーテンを開けると、陽の光が部屋の中を満たす。
「せっかくあの時の夢を見るなら彼の顔を見たかったな」
最愛のあの人。しっかり私と向き合っていたはずなのに、夢の中ではなぜか顔がぼんやりとしていて見えなかった。
私はすでに彼の顔も名前も覚えていない。神様の手違いか、千年後の時代にこうして転生した私は、その影響のせいなのか前世のことはあまり覚えていなかった。
「それでも、あの最期だけは忘れられないのだけどね」
苦笑する。水底に沈み苦しかった記憶だけは今も記憶の奥底にこびりついて離れない。せっかくなら彼と過ごした時間を大切にしまっておきたかったのに。
「まぁ、もう私には関係ない話ね。同じ王女という身分だけれど、以前は聖女と呼ばれていたのに今は『厄介者』だもの」
なんの因縁か、私は今世もまた前世と同じルマージュ王国の王女として生まれていた。
しかも、以前は聖女と呼ばれて災いに呑まれていた国を救おうと奔走したのに、今世は現国王と侍女の間に生まれて疎まれ半ば幽閉されている。
同じ身分でありながらすごい違いだ。
「のんびり過ごすのが一番よね、今は災いが降りかかっているわけでもないみたいだし」
と割り切っているからなんともないが、でなければきっとこの人生に耐えられなかっただろうと思う。それくらい、望まれぬ王女、という身分は厄介だったのだ。
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