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8. 孤独な二人
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皇帝陛下の少し後ろを歩きながら私はまだ混乱していた。聞きたいことがいっぱいあるが、身分が下の者から上のものに話しかけることはご法度である。私は黙ってついていくことしかできなかった。
「入ってくれ」
「し、失礼いたします」
ついたのは陛下の執務室のようだった。豪華な調度品が並ぶ部屋は私には不釣り合いで、落ち着かない。
「そっちにかけてくれ。今紅茶を淹れる」
「あ、私が……」
「大丈夫だ。いつも自分でやっているからな」
陛下が手早く紅茶を淹れる。口をつけるといい香りがした。
「美味しい……」
「俺が淹れられることに驚いたみたいだな」
「そ、そんなことはっ……」
「いや、いいんだ。だが、皇帝をしていると人から恨まれることも多い。口に入れるものは自分で用意したほうが安全なんだ」
「そうなのですね……」
私には想像もつかない世界。
もしかしたら、陛下と私は似ているのかもしれない。私は忌み子として生まれ、誰からも愛されずに一人で生きてきた。
陛下はどうかわからないが、周りの人間が信用できない生活、それはやはり孤独なのではないだろうか。
そんなことを考えていると、陛下が私を見つめていることに気がついた。首をかしげると、苦笑される。
「何か、聞きたいことがあったんじゃないか?」
「あっ……」
陛下のことを考えて忘れてましたなんて言えない。顔が熱くなる。と、陛下がわざわざ私の隣に来た。そして、何気ない仕草で右手が頬に添えられる。
「お前はすぐ顔が赤くなるな」
「あ、えと、あの……」
急なことに驚き、口ごもる。彼の手は昨日とは違い少し温かかった。彼の体温にドキドキする。鼓動が早い。
「神の子について知りたいんだろう?」
「は、はい……」
「この世界を作りたもう女神の姿が白髪で青い瞳なのだそうだ。その姿に酷似した子供ということで神の子と言われている。この国の民であれば多くの者が知っている話ではあるが、不興を買うのを恐れて近づかない奴も多いからな。だからお前に神の子の話が伝わらなかったのだろう」
「で、でも、実際私が生まれてから国は災いに見舞われてっ……!」
「それはさっきも言っただろう? お前を苦しめたからだと。
大昔にその姿の子供を嬲り殺した皇帝がいたらしくてな、何年もの間国を大きな災いが襲ったらしい。それ以来、神の子は丁重に扱われるようになった」
初めて聞く話に呆然とする。気がつけば涙が溢れていた。彼の指が私の涙を優しく拭う。
「もうお前を傷つける奴はいない。俺が守ってやる」
「そ、それは神の子だから……?」
なぜ、こんなことを言ったのかわからない。だが、口をついて出てきたのはそんな言葉だった。
私の言葉に彼は驚いた表情を浮かべたのち、ふんわりと微笑む。初めて見る優しい笑みに思わず息を呑んだ。
「違う。俺がお前を気に入ったからだ」
「な、なぜ……?」
「昨日、バルコニーに立ってるお前はまるで月から降り立ったかのように美しかった。まずその姿に目を奪われたんだ」
思わぬ告白に涙が引っ込む。気がつけば彼の目には熱がこもっていた。
「そして、泣いてる姿を見て守ってやりたいと思った。この気持ちが何か俺にはわからない。だが……とにかくお前を守りたいと思ったんだ。だから……」
ーーずっとそばにいてくれないか。
彼の瞳を見ればその言葉が嘘ではないとわかる。私の心が温かくなるのがわかった。
今朝も抱いたこの感情はなんなのだろう……?
甘くて。
少し切なくて。
ふわふわしている。
この気持ちの名前を私はまだ知らない。だが、一つだけわかったことがある。
それは、彼と一緒にいることが私にとっての幸せであるということ。
「もちろんです。ずっとお側にいますね」
その瞬間、彼は固まった。どうしたのかと首を傾げると、彼が満面の笑みを浮かべる。
「綺麗に笑うじゃないか」
「えっ……」
彼の瞳に映る私は、確かに心の底から笑っていた。
「きっと、陛下のおかげですわ」
「当たり前だろう」
私たちはお互いに笑い合った。
窓から差し込む日の光が、私たちのこれからの人生を明るく照らしているようだった。
(完)
~~~~~~~~~
この物語はこれにて完結です! ここまで読んで下さりありがとうございました!
この後、この二人がどうなっていくのか。どちらも幸せになってほしいと、作者も切に願っています。
また、会える日まで。皆様が元気に過ごされることを願っております。
「入ってくれ」
「し、失礼いたします」
ついたのは陛下の執務室のようだった。豪華な調度品が並ぶ部屋は私には不釣り合いで、落ち着かない。
「そっちにかけてくれ。今紅茶を淹れる」
「あ、私が……」
「大丈夫だ。いつも自分でやっているからな」
陛下が手早く紅茶を淹れる。口をつけるといい香りがした。
「美味しい……」
「俺が淹れられることに驚いたみたいだな」
「そ、そんなことはっ……」
「いや、いいんだ。だが、皇帝をしていると人から恨まれることも多い。口に入れるものは自分で用意したほうが安全なんだ」
「そうなのですね……」
私には想像もつかない世界。
もしかしたら、陛下と私は似ているのかもしれない。私は忌み子として生まれ、誰からも愛されずに一人で生きてきた。
陛下はどうかわからないが、周りの人間が信用できない生活、それはやはり孤独なのではないだろうか。
そんなことを考えていると、陛下が私を見つめていることに気がついた。首をかしげると、苦笑される。
「何か、聞きたいことがあったんじゃないか?」
「あっ……」
陛下のことを考えて忘れてましたなんて言えない。顔が熱くなる。と、陛下がわざわざ私の隣に来た。そして、何気ない仕草で右手が頬に添えられる。
「お前はすぐ顔が赤くなるな」
「あ、えと、あの……」
急なことに驚き、口ごもる。彼の手は昨日とは違い少し温かかった。彼の体温にドキドキする。鼓動が早い。
「神の子について知りたいんだろう?」
「は、はい……」
「この世界を作りたもう女神の姿が白髪で青い瞳なのだそうだ。その姿に酷似した子供ということで神の子と言われている。この国の民であれば多くの者が知っている話ではあるが、不興を買うのを恐れて近づかない奴も多いからな。だからお前に神の子の話が伝わらなかったのだろう」
「で、でも、実際私が生まれてから国は災いに見舞われてっ……!」
「それはさっきも言っただろう? お前を苦しめたからだと。
大昔にその姿の子供を嬲り殺した皇帝がいたらしくてな、何年もの間国を大きな災いが襲ったらしい。それ以来、神の子は丁重に扱われるようになった」
初めて聞く話に呆然とする。気がつけば涙が溢れていた。彼の指が私の涙を優しく拭う。
「もうお前を傷つける奴はいない。俺が守ってやる」
「そ、それは神の子だから……?」
なぜ、こんなことを言ったのかわからない。だが、口をついて出てきたのはそんな言葉だった。
私の言葉に彼は驚いた表情を浮かべたのち、ふんわりと微笑む。初めて見る優しい笑みに思わず息を呑んだ。
「違う。俺がお前を気に入ったからだ」
「な、なぜ……?」
「昨日、バルコニーに立ってるお前はまるで月から降り立ったかのように美しかった。まずその姿に目を奪われたんだ」
思わぬ告白に涙が引っ込む。気がつけば彼の目には熱がこもっていた。
「そして、泣いてる姿を見て守ってやりたいと思った。この気持ちが何か俺にはわからない。だが……とにかくお前を守りたいと思ったんだ。だから……」
ーーずっとそばにいてくれないか。
彼の瞳を見ればその言葉が嘘ではないとわかる。私の心が温かくなるのがわかった。
今朝も抱いたこの感情はなんなのだろう……?
甘くて。
少し切なくて。
ふわふわしている。
この気持ちの名前を私はまだ知らない。だが、一つだけわかったことがある。
それは、彼と一緒にいることが私にとっての幸せであるということ。
「もちろんです。ずっとお側にいますね」
その瞬間、彼は固まった。どうしたのかと首を傾げると、彼が満面の笑みを浮かべる。
「綺麗に笑うじゃないか」
「えっ……」
彼の瞳に映る私は、確かに心の底から笑っていた。
「きっと、陛下のおかげですわ」
「当たり前だろう」
私たちはお互いに笑い合った。
窓から差し込む日の光が、私たちのこれからの人生を明るく照らしているようだった。
(完)
~~~~~~~~~
この物語はこれにて完結です! ここまで読んで下さりありがとうございました!
この後、この二人がどうなっていくのか。どちらも幸せになってほしいと、作者も切に願っています。
また、会える日まで。皆様が元気に過ごされることを願っております。
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