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2章 迷宮都市リヴィルド
2. 元執事、尋問する
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「私のことをなんで殺そうとしたのか教えてくれませんかね?」
「わんっ」
部屋に戻るとすぐに襲撃者の男は目を覚ました。急に後ろから意識を刈り取ったことで戦意を喪失しているそいつは、恐怖の目で俺のことを見上げている。
「喋れないわけじゃないでしょう? それとも無理やり吐き出させ……」
「しゃ、喋ります!!」
俺の言葉を遮るように叫んだそいつはポツポツと話し始めた。
闇ギルドの手の者であること。
俺を殺すよう上から命令されたこと。
殺したら荷物を全て奪うよう指示があったこと。
話を聞き終わった時、俺は思わずため息をついてしまった。
「はぁ、めんどくさいことになったな……」
「くぅーん?」
「ん? 大丈夫だぞー、心配することじゃないさ」
心配そうなハクの頭を撫でながら、俺は物思いに耽る。
闇ギルドとは裏社会のまとめ役。犯罪者集団だ。
彼らに狙われるようなことをした記憶はない。もちろん、執事の時は色々なことをしたが、今の俺がその執事であるとわかってはいないだろう。わかっていたらこんな半端なやつを一人よこしたりはしないはず。
「殺されるようなことをした覚えないんだが」
執事を辞めてから俺は迷宮に潜っている時間の方が多かったし、誰かに恨みを買われるようなこともしていない。それなのに……
「おい」
「は、はいっ」
声をかけると男はビクッとする。
……俺はそんなに怖いか?
そんなに怖がられるようなことをしたつもりもないため、モヤモヤしていたら余計に顔が怖くなっていたらしい。
「ヒイッ」
男がガクガクと体を震わせる。
えぇ……
「もしかしてあなた尋問に向いてない?」
「ヒィ!?」
「そんなつもりはなかったんだが。そもそもお前はなんでここにいるんだよ」
「同じパーティーの仲間だから? そもそも驚かせようと思ったのに驚かないあなたも大概じゃない」
「気づいてたからな」
「今回こそはって思ったのに……」
なぜか転移でここに来た時から物陰に潜んでいたリリアナ。やっと出て来たと思ったら俺の言葉に口を尖らせた。
せっかくこいつと別れてから行動に移したというのにこれでは台無しだ。
目の前の襲撃者は襲撃者で、こいつの存在に気づいていなかったようだし。さすがSランク冒険者というか、それとも襲撃者がお粗末すぎるというのか。
俺はため息をつくしかない。
「ま、いいわ。で、こいつの尋問ね……」
リリアナが男の目を覗き込むと、自然に魅了魔法が発動されて相手の目が怯えから好意の色に変わる。
「あなた、名前は?」
「クラックだ」
「闇ギルドに入ってどのくらい?」
「一年」
「入った理由は?」
「借金がかさんでしょうがなく……」
「下っ端か」
予想はしていたが、たかが一年の下っ端ではこれ以上の情報なんて得られるわけがない。
てか魅了魔法こんな使い方もできるのか。誰からも好感が持たれるというのはこんなにも楽なんだな……本人は辛いかもしれないが。
誰からも好かれることがいいこととは限らない。特にこうやって魔法で半ば強制的に好意を向けさせるということは、相手の本心が一生わからないということでもある。
だから、リリアナは魅了魔法が効かない俺に執着しているのだろう。唯一、本心がちゃんとわかる人間だから。
「とりあえずこいつを衛兵に引き渡して寝るか」
「寝るの!? 何か対策とか……」
「明日の朝にバルドに会いに行く。あとはそれからだ」
「はぁ……闇ギルドに狙われたのに何も変わらないあなたってほんと規格外ね」
「わふっ」
驚くことはないだろうに。そもそもなんで狙われたのかわからないのだから今はもうどうしようもない。
「で? お前がここにきた本当の理由はなんだ?」
「あなたの様子がおかしかったから」
「様子がおかしい?」
首をかしげると、リリアナがちょっと俯く。
「魔法を使ったのにごまかしたり、夕食食べに行かなかったり……」
「……気づいてたのか、魔法のこと」
「当たり前じゃない。最初は勘違いかと思ったけど、考えてみればあの時店主の様子もおかしかったし。フェールがなんともないことに驚いているような感じだったから」
「まぁ確かに、表情の隠し方も下手だったな」
リリアナに気づかれていたことに驚くしかない。夕食だってホテルで食べようとしているだけと思えばそれまでのはずだったのに、気にかけるなんて。
思ったより勘が鋭いのか。
「これでもSランク冒険者だもの。これくらい気づいて当たり前よ」
「さすがだな」
少しだけ見直した。絶対本人には言わないけど。
「じゃあ私は衛兵を呼んでくるわ。あなたはその間に残りのを処理しておいてくれない?」
リリアナも気づいていたらしい。窓の外に二人ほど別の人間が潜んでいることに。部屋の中は見えないように結界で囲んでいるから、今頃混乱していることだろう。
転移で戻ってきた時には既にいたことを考えると、元からこっちにいたようだ。
俺が襲われている間に部屋に忍び込んで物色しようとしたのだろうが、戻ってきてしまったから慌てて外に出たというところだろうか。
「ほっといてもよくないか? どうせただの見張りだし」
「闇ギルドの戦力を割くいい機会なのだし、あなたなら問題ないでしょ?」
「はぁ、わかったよ。じゃーそいつを頼んだ」
「えぇ!」
俺はさっさと片付けるべく窓の外に転移したのだった。
「わんっ」
部屋に戻るとすぐに襲撃者の男は目を覚ました。急に後ろから意識を刈り取ったことで戦意を喪失しているそいつは、恐怖の目で俺のことを見上げている。
「喋れないわけじゃないでしょう? それとも無理やり吐き出させ……」
「しゃ、喋ります!!」
俺の言葉を遮るように叫んだそいつはポツポツと話し始めた。
闇ギルドの手の者であること。
俺を殺すよう上から命令されたこと。
殺したら荷物を全て奪うよう指示があったこと。
話を聞き終わった時、俺は思わずため息をついてしまった。
「はぁ、めんどくさいことになったな……」
「くぅーん?」
「ん? 大丈夫だぞー、心配することじゃないさ」
心配そうなハクの頭を撫でながら、俺は物思いに耽る。
闇ギルドとは裏社会のまとめ役。犯罪者集団だ。
彼らに狙われるようなことをした記憶はない。もちろん、執事の時は色々なことをしたが、今の俺がその執事であるとわかってはいないだろう。わかっていたらこんな半端なやつを一人よこしたりはしないはず。
「殺されるようなことをした覚えないんだが」
執事を辞めてから俺は迷宮に潜っている時間の方が多かったし、誰かに恨みを買われるようなこともしていない。それなのに……
「おい」
「は、はいっ」
声をかけると男はビクッとする。
……俺はそんなに怖いか?
そんなに怖がられるようなことをしたつもりもないため、モヤモヤしていたら余計に顔が怖くなっていたらしい。
「ヒイッ」
男がガクガクと体を震わせる。
えぇ……
「もしかしてあなた尋問に向いてない?」
「ヒィ!?」
「そんなつもりはなかったんだが。そもそもお前はなんでここにいるんだよ」
「同じパーティーの仲間だから? そもそも驚かせようと思ったのに驚かないあなたも大概じゃない」
「気づいてたからな」
「今回こそはって思ったのに……」
なぜか転移でここに来た時から物陰に潜んでいたリリアナ。やっと出て来たと思ったら俺の言葉に口を尖らせた。
せっかくこいつと別れてから行動に移したというのにこれでは台無しだ。
目の前の襲撃者は襲撃者で、こいつの存在に気づいていなかったようだし。さすがSランク冒険者というか、それとも襲撃者がお粗末すぎるというのか。
俺はため息をつくしかない。
「ま、いいわ。で、こいつの尋問ね……」
リリアナが男の目を覗き込むと、自然に魅了魔法が発動されて相手の目が怯えから好意の色に変わる。
「あなた、名前は?」
「クラックだ」
「闇ギルドに入ってどのくらい?」
「一年」
「入った理由は?」
「借金がかさんでしょうがなく……」
「下っ端か」
予想はしていたが、たかが一年の下っ端ではこれ以上の情報なんて得られるわけがない。
てか魅了魔法こんな使い方もできるのか。誰からも好感が持たれるというのはこんなにも楽なんだな……本人は辛いかもしれないが。
誰からも好かれることがいいこととは限らない。特にこうやって魔法で半ば強制的に好意を向けさせるということは、相手の本心が一生わからないということでもある。
だから、リリアナは魅了魔法が効かない俺に執着しているのだろう。唯一、本心がちゃんとわかる人間だから。
「とりあえずこいつを衛兵に引き渡して寝るか」
「寝るの!? 何か対策とか……」
「明日の朝にバルドに会いに行く。あとはそれからだ」
「はぁ……闇ギルドに狙われたのに何も変わらないあなたってほんと規格外ね」
「わふっ」
驚くことはないだろうに。そもそもなんで狙われたのかわからないのだから今はもうどうしようもない。
「で? お前がここにきた本当の理由はなんだ?」
「あなたの様子がおかしかったから」
「様子がおかしい?」
首をかしげると、リリアナがちょっと俯く。
「魔法を使ったのにごまかしたり、夕食食べに行かなかったり……」
「……気づいてたのか、魔法のこと」
「当たり前じゃない。最初は勘違いかと思ったけど、考えてみればあの時店主の様子もおかしかったし。フェールがなんともないことに驚いているような感じだったから」
「まぁ確かに、表情の隠し方も下手だったな」
リリアナに気づかれていたことに驚くしかない。夕食だってホテルで食べようとしているだけと思えばそれまでのはずだったのに、気にかけるなんて。
思ったより勘が鋭いのか。
「これでもSランク冒険者だもの。これくらい気づいて当たり前よ」
「さすがだな」
少しだけ見直した。絶対本人には言わないけど。
「じゃあ私は衛兵を呼んでくるわ。あなたはその間に残りのを処理しておいてくれない?」
リリアナも気づいていたらしい。窓の外に二人ほど別の人間が潜んでいることに。部屋の中は見えないように結界で囲んでいるから、今頃混乱していることだろう。
転移で戻ってきた時には既にいたことを考えると、元からこっちにいたようだ。
俺が襲われている間に部屋に忍び込んで物色しようとしたのだろうが、戻ってきてしまったから慌てて外に出たというところだろうか。
「ほっといてもよくないか? どうせただの見張りだし」
「闇ギルドの戦力を割くいい機会なのだし、あなたなら問題ないでしょ?」
「はぁ、わかったよ。じゃーそいつを頼んだ」
「えぇ!」
俺はさっさと片付けるべく窓の外に転移したのだった。
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