8 / 30
1章 迷宮攻略はじめます
7. 元執事、迷宮攻略へ
しおりを挟む 無抵抗に体を差し出したバフォールにアランが持つブラッディソードが腹部を貫いた。ドクドクと剣が血を吸い取っていることを感じるほど剣が脈打つ。
「契約者の死は我の自由……。さあ、あいつが来る前に我を求めよ――――」
耳元でバフォールが囁くがアランは目を閉じ、剣がソルブの血を飲み込んでいくのをただ感じていた。全てを吸いつくすとバフォールの力が抜け、アランの胸からずり落ちるように倒れた。
「お前は簡単に契約者を捨てるんだな」
干からびたバフォールに向かってアランは吐き捨てるように言う。汚いものを見るかのようにバフォールを睨んでいるとモワっと黒い煙が上がる。アランは思わず後ずさり、剣を構えてその様子を注意深く見つめた。
煙は影となり、大きな二つの角、山羊のような耳、背中には大きなコウモリのような翼があるような形を形成していった。しかしその姿もまた苦しそうに立っている。
「それがお前の本来の姿か……哀れだな」
"……あのままいても本体と共に朽ちていた……お前の体をよこせ……さすればここから逃げることもできよう……さあ、望みを言え……手に入れたいものがあるのだろう……?"
「俺はお前と契約などしない」
アランははっきりとバフォールを拒絶をし、目の前の大きな黒い塊に剣を横から切り込んだ。しかし、影が散りじりとなるだけで当たることはなかった。
"くっくっく……お前はまだその剣を使いこなせてはいないようだ……"
身体の無くなったバフォールは、しつこくアランを誘う。黒い影がアランにまとわりついてくる。
"素直になるがいい。お前の心は何を求めている……? 本当は――――"
「いい加減にしろ!」
「アラン!」
アランが声を張り上げたその時、セイン王子が背後から走ってくる。
"一番知られたくはないやつが来たな……俺があいつに教えてやろうか? くっくっく……その体を差し出せば秘密を守ろう……"
アランの耳元で小さく囁く。アランの剣を持つ手が震える。手の中のブラッディソードが相変わらず禍々しい色で鈍い光を放っていた。
「アラン、退いて!」
セイン王子は影となったバフォールに光の剣を両手で振り上げ、飛び掛かる。しかしバフォールはアランの背後へ素早く移動をしたため、アランはセイン王子の振るう剣を受け止めた。後ろからバフォールの声が囁く。
"セイン王子よ……お前はこの者の想いを知らない……これ程までに苦しんでいる原因は――――"
「いい加減黙れ! 根拠がない!」
アランは怒鳴り声をあげ、セイン王子の剣を弾いた後、背後のバフォールに斬りかかる。バフォールはセイン王子に何かを伝えようとしているようだった。アランの苛立ちがセイン王子に伝わり、二人を交互に見る。
俺たちの仲を引き裂こうとしているのか?
「アラン! こんなやつの言葉に耳を傾けちゃダメだ!」
「分かってる! お前は、真実ではないことを言って俺たちの動揺を誘っているだけだ!」
しかし、アランは実際には動揺をしていた。ただ、たとえセイン王子にバフォールの言う真実というものが知られたとしても魂を売るつもりはなかった。アランには信念がある。
――アトラスを守る!
アランは再度剣を振るう。肉体のないバフォールは、今までと同様に剣で切り裂こうとしてもすぐにすり抜けてしまった。しかし今回は、すり抜けた瞬間にアランの持つ剣がドクンと脈打つ。剣を見ると、すり抜けたはずの剣から赤い無数の蜘蛛の糸ようなものがバフォールにまとわりついていた。その糸は蛇のようにうねうねと這い回る。
これなら煙のように散り散りにならない。
"っ! これがお前が引き出した力か……!"
「レイ! 早く!」
「言われなくても! バフォール、人の気持ちを弄ぶのも大概にしろ!」
バフォールの背後にまわったセイン王子は、すべての魔力を剣に注ぎ込む。今まで囲っていた光の壁までをも吸収していく。
その光が全て剣に集まると、セイン王子は勢いをつけるために剣を後ろに引いた。
赤い糸が張り巡らされた身動きの取れないバフォールもまた最後の足掻きをする。
"この者はおまえの―――"
「もう煩いんだよっ!!!!」
セイン王子が力を込めて背中の翼と翼の間に剣を突き刺す。
"ぐ、ぐはぁあああああっっ!!"
手ごたえはある。刺し込んだ手元、バフォールの内側から光が次々と侵食していく。
「俺とアランの間にもし何かあったとしても俺はアランを信じる! 俺たちの仲を裂こうとしたって無駄だ!」
さらに剣に魔力を込めるとバフォールの体全体が輝き、一気に弾け飛んだ。光の雨が降り注ぎ、その場にいた全員が息をするのも忘れて見入った。何が起きたのか頭の整理が出来ていなかったのだろう。誰もが声を発しなかった。
「終わった……?」
最初にその沈黙を破ったのはセイン王子だった。
「……」
「終わったの?」
「……ああ、終わったみたいだな……」
もう一度問いかける。目の前に立つアランも放心状態だった。お互いの目が合うと、じわじわと実感が込み上げてくる。
二人は片手を上げ、思いっきり手を振り、高い音を響かせた。
そんな二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
「契約者の死は我の自由……。さあ、あいつが来る前に我を求めよ――――」
耳元でバフォールが囁くがアランは目を閉じ、剣がソルブの血を飲み込んでいくのをただ感じていた。全てを吸いつくすとバフォールの力が抜け、アランの胸からずり落ちるように倒れた。
「お前は簡単に契約者を捨てるんだな」
干からびたバフォールに向かってアランは吐き捨てるように言う。汚いものを見るかのようにバフォールを睨んでいるとモワっと黒い煙が上がる。アランは思わず後ずさり、剣を構えてその様子を注意深く見つめた。
煙は影となり、大きな二つの角、山羊のような耳、背中には大きなコウモリのような翼があるような形を形成していった。しかしその姿もまた苦しそうに立っている。
「それがお前の本来の姿か……哀れだな」
"……あのままいても本体と共に朽ちていた……お前の体をよこせ……さすればここから逃げることもできよう……さあ、望みを言え……手に入れたいものがあるのだろう……?"
「俺はお前と契約などしない」
アランははっきりとバフォールを拒絶をし、目の前の大きな黒い塊に剣を横から切り込んだ。しかし、影が散りじりとなるだけで当たることはなかった。
"くっくっく……お前はまだその剣を使いこなせてはいないようだ……"
身体の無くなったバフォールは、しつこくアランを誘う。黒い影がアランにまとわりついてくる。
"素直になるがいい。お前の心は何を求めている……? 本当は――――"
「いい加減にしろ!」
「アラン!」
アランが声を張り上げたその時、セイン王子が背後から走ってくる。
"一番知られたくはないやつが来たな……俺があいつに教えてやろうか? くっくっく……その体を差し出せば秘密を守ろう……"
アランの耳元で小さく囁く。アランの剣を持つ手が震える。手の中のブラッディソードが相変わらず禍々しい色で鈍い光を放っていた。
「アラン、退いて!」
セイン王子は影となったバフォールに光の剣を両手で振り上げ、飛び掛かる。しかしバフォールはアランの背後へ素早く移動をしたため、アランはセイン王子の振るう剣を受け止めた。後ろからバフォールの声が囁く。
"セイン王子よ……お前はこの者の想いを知らない……これ程までに苦しんでいる原因は――――"
「いい加減黙れ! 根拠がない!」
アランは怒鳴り声をあげ、セイン王子の剣を弾いた後、背後のバフォールに斬りかかる。バフォールはセイン王子に何かを伝えようとしているようだった。アランの苛立ちがセイン王子に伝わり、二人を交互に見る。
俺たちの仲を引き裂こうとしているのか?
「アラン! こんなやつの言葉に耳を傾けちゃダメだ!」
「分かってる! お前は、真実ではないことを言って俺たちの動揺を誘っているだけだ!」
しかし、アランは実際には動揺をしていた。ただ、たとえセイン王子にバフォールの言う真実というものが知られたとしても魂を売るつもりはなかった。アランには信念がある。
――アトラスを守る!
アランは再度剣を振るう。肉体のないバフォールは、今までと同様に剣で切り裂こうとしてもすぐにすり抜けてしまった。しかし今回は、すり抜けた瞬間にアランの持つ剣がドクンと脈打つ。剣を見ると、すり抜けたはずの剣から赤い無数の蜘蛛の糸ようなものがバフォールにまとわりついていた。その糸は蛇のようにうねうねと這い回る。
これなら煙のように散り散りにならない。
"っ! これがお前が引き出した力か……!"
「レイ! 早く!」
「言われなくても! バフォール、人の気持ちを弄ぶのも大概にしろ!」
バフォールの背後にまわったセイン王子は、すべての魔力を剣に注ぎ込む。今まで囲っていた光の壁までをも吸収していく。
その光が全て剣に集まると、セイン王子は勢いをつけるために剣を後ろに引いた。
赤い糸が張り巡らされた身動きの取れないバフォールもまた最後の足掻きをする。
"この者はおまえの―――"
「もう煩いんだよっ!!!!」
セイン王子が力を込めて背中の翼と翼の間に剣を突き刺す。
"ぐ、ぐはぁあああああっっ!!"
手ごたえはある。刺し込んだ手元、バフォールの内側から光が次々と侵食していく。
「俺とアランの間にもし何かあったとしても俺はアランを信じる! 俺たちの仲を裂こうとしたって無駄だ!」
さらに剣に魔力を込めるとバフォールの体全体が輝き、一気に弾け飛んだ。光の雨が降り注ぎ、その場にいた全員が息をするのも忘れて見入った。何が起きたのか頭の整理が出来ていなかったのだろう。誰もが声を発しなかった。
「終わった……?」
最初にその沈黙を破ったのはセイン王子だった。
「……」
「終わったの?」
「……ああ、終わったみたいだな……」
もう一度問いかける。目の前に立つアランも放心状態だった。お互いの目が合うと、じわじわと実感が込み上げてくる。
二人は片手を上げ、思いっきり手を振り、高い音を響かせた。
そんな二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
12
お気に入りに追加
1,765
あなたにおすすめの小説

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる