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1章 迷宮攻略はじめます
1. 元執事、冒険者になる
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「ここが冒険者ギルドか」
見上げる先には大きな建物がそびえ立っている。無骨で冷たい印象を持つこの場所は、しかし夕方ごろになると多くの人で賑わう。
俺が王宮から転移した先は、大都市ミリティウス。
ここを選んだ理由は王都から遠く離れていること、そして……
「冒険者が多くいて、別名冒険者の街と呼ばれているんだよな」
そう、俺は冒険者になりにきたのだ。
小さい頃から憧れていた冒険者。だが、安定を求めて執事になった。しかし、やっぱり男はロマンを追い求めるものっ……!!
今なら多少稼げなくても生活できるだけの貯金があるし、この機会に心機一転挑戦してみることにしたのだ。
年甲斐もなくワクワクしてきた。仕事で忙殺された五年間だったからだろうか。二十歳、年甲斐もなく興奮している。
「さて、入るか」
パチン、と両手を合わせる。俺は少し緊張しながらギルドの敷居を跨いだ。
中に入ると、いくつもの瞳がこちらを向く。そしてすぐに興味を失ったように逸らされるのだが、興味深くこちらを観察している者もいるようだ。
そして……
「強者が何人かいるな」
目線こそこっちに向いていないが、全神経をこちらの警戒に当ててる人間が数名いることに気づく。
警戒しない奴は三流、警戒する奴は二流、警戒していることを気づかせない奴は一流と言われる冒険者の世界。こちとら元執事、危険を排除すべく常に全神経を研ぎ澄ましていたから気づけたが、大抵のやつは気づかないだろうな。
「やっぱり冒険者の世界は貴族の世界よりずっと面白そうだな……」
さらにワクワクしてきてしまった。ダメだ、俺のテンションよ鎮まれ。
深呼吸してなんとか落ち着かせる。よしっ、受付行くか。
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
受付に行くと金髪の若い女性が笑顔で迎えてくれた。
「冒険者登録をしたい」
「かしこまりました。こちらの規約をお読みの上、納得いただけましたら必要事項の記入をお願いします」
差し出された紙とペンを受け取る。ランクはGからSSSまで。基本何があっても自己責任、冒険者同士のいざこざにもギルドは介入しない。
ペラペラとめくって問題ないことを確認してペンを取る。
えっと、名前フェール、家名無し、性別男……
フェールって名前は珍しくないから、偽名使う必要はないだろう。もし追っ手出されても転移で逃げればいいだけだ。それに孤児で平民だから家名なんて持ってないし。
書き終わって差し出すと受付嬢が驚いた表情を浮かべていて、思わず首をかしげる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、なんでもありません! フェール様ですね。少々お待ちください!」
「え、あ、はい」
慌てたように奥に向かう受付嬢。
何か驚かれるような行動しただろうか……? 不安に駆られて耳をすます、と。
「え、お貴族様じゃないの!?」
「家名無しって……」
「てっきり貴族の子息が功績上げるために登録しに来たのかと思ったけど、家名無しで登録するんじゃ違うわよね……」
「でも、あの立ち居振る舞い、しかも冒険者やるっていうのにスーツよ? 貴族以外考えられない気が……」
「でも、読む速度も異常に早かったし仕事できそうだから功績上げるためってこともないんじゃない?」
「「……」」
……なるほど。やらかした。
ワクワクしていたせいであんまり考えていなかったのと、王宮から直行したのとでスーツのままなの忘れていた。
まぁ、スーツの方が動きやすいから変えるつもりはないが。一種の職業病だな。
読む速度だって仕事で鍛え上げられただけだ。なぜか回ってくる他人(主に陛下)の書類仕事まで片付けるには速読が必須だった。
そんなことを考えているうちに受付嬢が戻ってくる。
「お待たせしました。こちらギルドカードになります。カードはランクごとに色または素材が分かれていて、Gは赤、Fは青、Eは緑、Dは黄色、Cは青銅、Bは銅、Aは銀、Sは金、SSはプラチナ、SSSは黒となります」
「ありがとう」
さすが冒険者ギルドの受付嬢、奥であんな話をしていたのにもう落ち着いている。これくらい切り替えが早くないとやってられないということか。
「申し遅れました。私はフィルナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく」
優雅にお辞儀をする様子にギルドの受付嬢はちゃんと教育がなされていることがわかる。王宮の人間よりよっぽど仕事ができるんじゃなかろうか。
そんなことを考えていると、フィルナがまた言葉を発する。
「フェール様は迷宮に入る予定などはございますか?」
思わずピクッとする。そう、俺の目的は……
「ああ、むしろ迷宮攻略を主な活動にするつもりだ」
「かしこまりました。よろしければ迷宮の説明をいたしますが必要でしょうか?」
「頼む」
フィルナによると。
この街には「ロミウス」と呼ばれる中規模の迷宮がある。六階層までで、すでに攻略済みではあるものの、最後に出てくるボスがいつも違う上に希少種ということで重宝されている。
ちなみにだが、迷宮内の魔物はいくら殺しても湧いて出てくるため『迷宮が意思を持っている』という説もある。
「と、これくらいですね。あとは、迷宮攻略に必要なものはこのパンフレットをご覧ください。質問はありますか?」
「大丈夫だ。丁寧にありがとう」
「いえ、それでは本日は依頼を……」
「おい、にいちゃんよぉ、そんな格好で迷宮攻略しようなんぞ、迷宮を甘く見過ぎじゃねーかぁ?」
その時、フィルナの言葉を遮った人物がいた。
見上げる先には大きな建物がそびえ立っている。無骨で冷たい印象を持つこの場所は、しかし夕方ごろになると多くの人で賑わう。
俺が王宮から転移した先は、大都市ミリティウス。
ここを選んだ理由は王都から遠く離れていること、そして……
「冒険者が多くいて、別名冒険者の街と呼ばれているんだよな」
そう、俺は冒険者になりにきたのだ。
小さい頃から憧れていた冒険者。だが、安定を求めて執事になった。しかし、やっぱり男はロマンを追い求めるものっ……!!
今なら多少稼げなくても生活できるだけの貯金があるし、この機会に心機一転挑戦してみることにしたのだ。
年甲斐もなくワクワクしてきた。仕事で忙殺された五年間だったからだろうか。二十歳、年甲斐もなく興奮している。
「さて、入るか」
パチン、と両手を合わせる。俺は少し緊張しながらギルドの敷居を跨いだ。
中に入ると、いくつもの瞳がこちらを向く。そしてすぐに興味を失ったように逸らされるのだが、興味深くこちらを観察している者もいるようだ。
そして……
「強者が何人かいるな」
目線こそこっちに向いていないが、全神経をこちらの警戒に当ててる人間が数名いることに気づく。
警戒しない奴は三流、警戒する奴は二流、警戒していることを気づかせない奴は一流と言われる冒険者の世界。こちとら元執事、危険を排除すべく常に全神経を研ぎ澄ましていたから気づけたが、大抵のやつは気づかないだろうな。
「やっぱり冒険者の世界は貴族の世界よりずっと面白そうだな……」
さらにワクワクしてきてしまった。ダメだ、俺のテンションよ鎮まれ。
深呼吸してなんとか落ち着かせる。よしっ、受付行くか。
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
受付に行くと金髪の若い女性が笑顔で迎えてくれた。
「冒険者登録をしたい」
「かしこまりました。こちらの規約をお読みの上、納得いただけましたら必要事項の記入をお願いします」
差し出された紙とペンを受け取る。ランクはGからSSSまで。基本何があっても自己責任、冒険者同士のいざこざにもギルドは介入しない。
ペラペラとめくって問題ないことを確認してペンを取る。
えっと、名前フェール、家名無し、性別男……
フェールって名前は珍しくないから、偽名使う必要はないだろう。もし追っ手出されても転移で逃げればいいだけだ。それに孤児で平民だから家名なんて持ってないし。
書き終わって差し出すと受付嬢が驚いた表情を浮かべていて、思わず首をかしげる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、なんでもありません! フェール様ですね。少々お待ちください!」
「え、あ、はい」
慌てたように奥に向かう受付嬢。
何か驚かれるような行動しただろうか……? 不安に駆られて耳をすます、と。
「え、お貴族様じゃないの!?」
「家名無しって……」
「てっきり貴族の子息が功績上げるために登録しに来たのかと思ったけど、家名無しで登録するんじゃ違うわよね……」
「でも、あの立ち居振る舞い、しかも冒険者やるっていうのにスーツよ? 貴族以外考えられない気が……」
「でも、読む速度も異常に早かったし仕事できそうだから功績上げるためってこともないんじゃない?」
「「……」」
……なるほど。やらかした。
ワクワクしていたせいであんまり考えていなかったのと、王宮から直行したのとでスーツのままなの忘れていた。
まぁ、スーツの方が動きやすいから変えるつもりはないが。一種の職業病だな。
読む速度だって仕事で鍛え上げられただけだ。なぜか回ってくる他人(主に陛下)の書類仕事まで片付けるには速読が必須だった。
そんなことを考えているうちに受付嬢が戻ってくる。
「お待たせしました。こちらギルドカードになります。カードはランクごとに色または素材が分かれていて、Gは赤、Fは青、Eは緑、Dは黄色、Cは青銅、Bは銅、Aは銀、Sは金、SSはプラチナ、SSSは黒となります」
「ありがとう」
さすが冒険者ギルドの受付嬢、奥であんな話をしていたのにもう落ち着いている。これくらい切り替えが早くないとやってられないということか。
「申し遅れました。私はフィルナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく」
優雅にお辞儀をする様子にギルドの受付嬢はちゃんと教育がなされていることがわかる。王宮の人間よりよっぽど仕事ができるんじゃなかろうか。
そんなことを考えていると、フィルナがまた言葉を発する。
「フェール様は迷宮に入る予定などはございますか?」
思わずピクッとする。そう、俺の目的は……
「ああ、むしろ迷宮攻略を主な活動にするつもりだ」
「かしこまりました。よろしければ迷宮の説明をいたしますが必要でしょうか?」
「頼む」
フィルナによると。
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ちなみにだが、迷宮内の魔物はいくら殺しても湧いて出てくるため『迷宮が意思を持っている』という説もある。
「と、これくらいですね。あとは、迷宮攻略に必要なものはこのパンフレットをご覧ください。質問はありますか?」
「大丈夫だ。丁寧にありがとう」
「いえ、それでは本日は依頼を……」
「おい、にいちゃんよぉ、そんな格好で迷宮攻略しようなんぞ、迷宮を甘く見過ぎじゃねーかぁ?」
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