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完全版【002】:変態は歓喜し、鬼畜無理ゲーは泪を溢す!(2)
しおりを挟む母ちゃんと一緒に谷底まで落ちていく。三百十九回目の落下になると、感情は麻痺し、俯瞰で自分を見ている事に気付く。但し、両親の死をゲームだと割り切れるほど、俺は強くないようだ。
此処までは試行錯誤をした結果、自分でも満足がいくルートで推移している。後はあの場所までの、最適解を導き出すだけだった。
母ちゃんに別れを告げた俺は、いつもチクっと胸に痛みを感じていた。
「あぅあぅあぅ!(よし! いくぞ!)」
道無き道だと思っていた雪が積もる谷底を、俺は匍匐前進で颯爽と進み始めた。
「あぅ!(此処までは、間違いない!)」
追手の赤色の印も、母ちゃんの灰色の印に辿り着いた。俺がいないので、周辺を探索しているようだ。
脳裏に浮かぶ周辺地図と、白一色の白銀世界とを擦り合わせながら、慣れた動きで時間を稼ぐ。
後残り二十三分と十四秒で、俺は行動不能になる!
「あぅあぅ!(此処までは、問題はないか!)」
追手が、俺の匍匐前進の痕跡を発見するのに、後三十二秒。
吹雪始めた粉雪が、俺の痕跡を隠している。
俺は今、谷底にある氷道の割れ目の前にいた。
俺は翔べる! そう信じて、思いっきり後ろ足で氷道を蹴飛ばした。
ヒュ――――――――――――!
勿論翔べる筈もなく、割れ目の中に落ちていったのだった。
「おい! 此処で痕跡が消えているぞ!?」
「こりゃ、此の割れ目の中に落ちたんじゃないか?」
追手の三人組は、割れ目を覗き、降りるか断念するか思案中のようで、割れ目地点から暫く動かない。
「あぅ!(成功だ!)」
脳裏に浮かぶ周辺地図の赤色の印が、遠ざかっていく。
三百十九回目で、初めて追手を撒いたのだった。真逆割れ目に飛び込むが正解だとは思わなかった。引っ掛け問題なんか出すんじゃない! ワクワクするだろう! 俺は此のルートを設定した制作者に賛辞を送る! スッゲぇ面白い!
おっと、喜んでいる場合じゃない。残り十九分五十八秒だった。
ズボッと突き刺さった雪のクッションから抜け出した俺は、目的地に向かって進み始めた。
此処は洞窟になっているのか?
鍾乳洞のように、氷柱が天井を埋め尽くしている。俺は奥へ奥へと匍匐前進で進んでいく。そろそろ身体が悴み、スピードが落ちる時間だ。
只、寒風が吹かないのは、ありがたかった。此れで少しでも、寒さで身体が麻痺してくる時間を稼ぎたい。
地味に匍匐前進は、辛い。洞窟の中は、底冷えがして、一段と凍えが進む。
ああ、感覚が無くなって来た。時間は残す処、一分四十八秒。自分の行動限界時間との戦いだった。
フウッと、寒風が吹く。
メキッ!
ズブッ!
天井の氷柱が地面に突き刺さる。其の衝撃で、次々と氷柱が時間差で落ちて来た。
うっひょー、何だ此処に来て、最高のアトラクションじゃないかと、ゲーム脳の変態は歓喜に沸いたのだった。
<<個体名【カルマ】の生命力が【0】になりました!>>
あっ!
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「お帰りなさいませ、【カルマ】さま。プレイ時間は【百八十一日十八時間四十九分二十二秒】でした。プレイ結果によって、【三百八十三】英雄ポイントを獲得です! リスタートされますか、それともプレイアバター【カルマ】でのプレイを終了されますか?」
ふー、スッゴく痛かった。氷柱が身体に突き刺さり、五体が爆散するなんてヤバ過ぎる。天井を見上げながら、突き進むには無理がある。行動限界時間まで残り一分四十三秒。一気に匍匐前進で進み抜けないと往けない。正解のルートがある筈だ。ふむ、試行錯誤するしかないな。考えてみれば、解る事だ。ふっふふふふ。楽しい、久々にワクワクが止まらない。あの先には、何があるんだろう。何が待っているんだろう。
「・・・・・・リスタートのようですね、【カルマ】さま。現在【創造神の試練】総プレイ時間が、【五万七千九百八十九日二十三時間三分四十八秒】でご座います。精神に異常数値が、若干出ていますが、如何されますか?」
「ああ、氷柱に刺されて、身体が四散した痛みで、異常数値が出たんだと思うよ? まあ気にする程でもないから、心配させてゴメンね、ジョドー! 楽しかった、最高のシナリオだね! 此れを作った制作者は、天才だ! でも、少し疲れたから一旦【ゲームアウト】するよ! ありがとう、ジョドー!」
「・・・・・・・・・」
無表情の執事は、何も言わずに、黙った儘だった。
あ、あれ? バグかな、ジョドーが固まった?
「ジョドー、大丈夫?」
「・・・・・・失礼致しましたカルマさま。問題ありません。ゲームアウトまで、三! 二! 一! ご利用ありがとうご座いました! またのお越しをお待ちしております!」
「ありがとう、ジョドー! また来るよ!(ジョドーがバグるなんて、初めてだ。やっぱり第二陣一千万人が増えるから、其の調整の所為かな?)」
【カルマ】の身体が、徐々にエフェクト処理され分解されて、消えていく。
【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーは、プレイヤーネーム【カルマ】を見送った後、嘆息した。
現在プレイ中の一千万のプレイヤーの中で、シナリオ【創造神の試練】を連続総プレイ時間で【五万七千九百八十九日二十三時間三分四十八秒】もプレイするプレイヤーは皆無だった。
プレイヤーの多くは「何だ此の鬼畜無理ゲー(鬼畜過ぎて、クリアは無理だろって言うゲーム)は!」と罵詈雑言を撒き散らして、別のシナリオに変更して二度と【創造神の試練】をプレイしないのがジョドーの日常だった。
「くっくくくく。流石は、カルマさま! 【廃神】と呼ばれる常人の斜め上を、颯爽と駆け抜けるお方だ! 確かカルマさまの感覚調整システムは、驚愕の百パーセント! 通常(現実世界の痛覚は五十パーセント)の痛覚の二倍! 身体を氷柱に刺されて四散したなどと、普通は其の衝撃の激痛で、精神が即死するのですが。此のジョドー、思わずフリーズしてしまいました!」
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『ぽ~ん♪ お帰りなさい、マスター! 【アルグリア戦記】は、如何でしたか?』
【ポータルサイトの案内人】のナリアに、いつもの如く迎え入れられる。
蒼い毛玉の狸は、空中で円らな蒼い瞳を好奇心剥き出しにして、愛苦しく聞いてくる。
『ナリア、凄く楽しかったよ! 今回は、鬼畜仕様と呼ばれるシナリオ【創造神の試練】でプレイをして最高だったよ!』
『鬼畜仕様って何、マスター?』
仮想現実世界のエントランスである【ポータルサイトの案内人】の【ナリア】は、プレイヤーネーム【カルマ】専属の育成型ノンプレイキャラクターである。
現在、現実世界の一秒が、仮想現実世界【アルグリア戦記】では【最大延長】で三千百十万四千倍に相当する、【三千百十万四千分の一秒(三百六十日)の世界】を構築している。
此処ポータルサイトでの時間の流れは、現実世界の一秒に対して二十四倍の【二十四分の一秒の世界】。其れが、此れまでの【仮想現実規定】の原則だった。
何故ならば人類世界は、仮想現実の世界に生活の基盤を徐々に置くようになったが、仮想現実の生活と現実の生活のバランス感覚が崩れ、精神と記憶に異常を来す事例が散見されたからだった。
其の対策に、人間の脳の擦り合わせが可能な現実の一秒が仮想現実世界での二十四秒を、【最大延長】時間とした規定が人間の仮想現実世界での原則となったのは、必然の流れだった。
其れから百八十三年後、人間の脳の認識を克服するシステムとして、個人専用の【ポータルサイトの案内人】を設置した。
【最大延長】の開発当初は、現実の世界の一秒が仮想現実の世界での三百六十日(三千百十万四千分の一秒)に相当する時間経過に、人間の脳と精神が耐えられなかった。
最大延長での三千百十万四千分の一秒の世界を謳歌していたのは、【不死身の機械生命体】だけだった。
何故不死身の機械生命体は、最大延長の世界に適応が出来たのか?
其の答えは至極簡単だった。
不死身の機械生命体は、常に記憶のバックアップを録っていたからだった。
其処で【生身の人間】でも、記憶のバックアップを可能にするシステム【ポータルサイト】が開発された。
現実世界と仮想現実世界のエントランスで、【記憶の記録】をする個人専用の案内人が設置された。
此れにより、人間の認識の限界を克服するシステムが完成したのだった。
では何故案内人は、育成型になったのか?
インダストリア社の建前としては、案内人の全て(表情・仕草・声など)でマスターに愛と信頼を向け、仮想現実と現実の世界で疲弊した精神を癒やす効果があるからだった。
但し、本音としては、育成する過程に因ってマスターの思考・行動が案内人に反映されていく中で、論理感の確認と危険人物の排除を目的としていた。
『鬼畜仕様って言うのは、凄くワクワクして、ドキドキする最高の内容・仕組みの事だよ、ナリア!』
『じゃあ、マスター! ナリアも鬼畜仕様の案内人になる! 鬼畜のナリア! かっこい~!』
蒼い毛玉が、空中で乱舞して、喜びを身体全身で顕していた。
『えっ、そんなに鬼畜仕様に拘らなくても良いんだ、・・・・・・よ?(え~と、マズったかな? まっ、好っか、特に問題はない筈だ!)』
『処でマスター、此れから如何されますか? 少し精神に異常数値が確認されますが?』
『ああ、別に大した事じゃないよ! 少し疲れたから、【ダイブアウト】するよ! じゃあ、又ねナリア!』
蒼い瞳の蒼い毛玉の如き狸が、了解とばかりに、空中で可愛らしく頷く。
『いってらしゃいませ、マスター!』
『ああ、行って来る!』
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「お帰りなさい、マスター? 早いお帰りですが、何かあったのですか?」
「ただいま、ミリィ! 大した事じゃない、少し疲れただけだよ!」
心配そうなミリィの声に、俺は、また心配を掛けてしまったと反省した。俺が仮想現実世界にいた時間は、現実時間でたったの約二分四十九秒だった。
【ポータルサイト】内の時間の流れは、現実の【二十四分の一秒】で、【アルグリア戦記】内の時間の流れは、現実の【三千百十万四千分の一秒】。
全く凄い発明だ。たった数分で、悠久の時間を過ごせるんだからな。流石は、インダストリア社だと俺は感心を新たにした。
「精神に問題はないんですね?」
「・・・・・・少し、本のちょびっとだけ、異常数値が出た
だけだ、・・・・・・よ?」
「ほう、どの口が仰るの・で・す・か?」
「ご免なさい。ちょっとだけ、痛かった、・・・・・・ような?」
ああ、ああ~! ミリィの瞳が、徐々に冷え込んでいく。ミリィの逆鱗に触れてしまったようだ。だめだ、こりゃ。・・・・・・当分機嫌が悪いぞ。
ミリィは白いソファに腰を掛け、自分の隣に座りなさいと、ポンポンとソファを叩く。
「ご免ね、ミリィ! 機嫌を直してよ!」
「マスター?」
はい、只今。俺はミリィの隣に座り、ミリィが自分の膝を叩くと、観念して膝枕のお世話になるのだった。
柔らかい、暖かくて、好い匂いだ。
ミリィは、優しく俺の頭を静かに撫で始める。其の内に、俺はいつの間にか静かに寝息を立てるのだった。
【オートドール】には感情が設定されていない。何故なら感情は、理性的な判断を狂わせる一種のバグを生む。其処で販売元のインダストリア社は、感情の設定を無くし、人類の補助を徹底させた。
機械であるオートドールに感情は必要ない。只々、人間に奉仕する存在だった。
「マスター、無茶をしないで下さいね、・・・・・・」
そう優しく、哀しく呟いたミリィの瞳から、泪が溢れ落ちた。
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「此れで、如何だ!」
俺は氷柱の落下位置を、目視と脳裏地図を同時に視ながら、勘と経験で躱して匍匐前進で進んでいく。
最初に氷柱で爆死してから、合計百五十八回。精神の異常数値が危険規定値に達しては、【ダイブアウト】してミリィに叱られ、膝枕で癒される羞恥プレーを送っていた。
「良し、行けるぞ!」
此処で半身を右側に回避、此処で三秒待つ、右にゴロン、三回廻って、前へ五つ匍匐前進!
残り行動制限時間まで、【五十二秒】!
おお! 抜けた! 俺は長い洞窟のアトラクションを抜け、蒼白く眩しい広場に、慎重に匍匐前進で進んでいく。
脳裏地図の表記名称が、【ハルベルト渓谷の洞窟】から【華水晶の間】に変わる。
良し、成功だ! 俺は小躍りする勢いだったが、此のアバターネーム【カルマ】の身体では土台無理だった。
壁一面には、碧い水晶が華のように咲いていて、天井の中心には、藍の華が咲き、其の周りに碧い華、蒼い華、青い華と囲む様に、水晶華が咲き乱れていた。
慎重に慎重に、俺は匍匐前進で進む。残り行動制限時間が【二十秒】を切った。
「あぅ!(もう少しだ!)」
俺は、目的の大きな蒼白い山に辿り着いた。
さあ、時間は無いぞ! 何処だ、何処なんだ?
俺は眠っている蒼白い山の周りを廻り出す!
残り【十三秒】! くっ、何処なんだ?
十二秒! 十一秒! 十秒! 九秒! 八秒! 七秒! あっ! 六秒! アレか?
俺の脳裏に、閃くものがあった!
俺は残り時間【三秒】で、蒼白い毛皮に覆われた山の乳房に吸い付いたのだった。
<<個体名【カルマ】が称号【氷狼の加護】を獲得しました!>>
やった、何とか正解に辿り着いたようだ。
あ、あったかい、気持ち良い。柔らかく暖かい乳房で、至福の刻を味合う俺だった。
「あぅあぅあぅ!(ウグウグっ! 乳が美味過ぎる、ゲポっ!)」
俺の脳裏情報に浮かぶ、ステータス表示の生命力(HP)は【1】ポイントでギリギリセーフだった。
間に合った・・・・・・
スゥー、スゥーーーーー
あっ、なんか、・・・・・・
安心した俺は、不覚にも睡魔に負けて眠ってしまったのだった。
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【情報表示】:▼
氏名:【カルマ】
個体LV:【1】
備考:▼
年齢:【0歳】
種族:【森精霊人と普精霊人の混血】
身分:【未設定】
職業:【未設定】
称号:【氷狼の加護】▼
【氷狼の加護】:寒冷耐性と狼系生物へ威圧と魅了効果。
才能:【0】※封印
説明:▼
【運命と宿命の申し子】
【状態表示】:▼
生命力:【1/549】 ↑543UP
魔力 :【8/1999】 ↑1991UP
精神力:【9/1095】 ↑1086UP
持久力:【1/21】 ↑15UP
満腹度:【23/100】
【能力表示】:▼
筋力 :【1】※封印
耐久力 :【1】※封印
知力 :【1】※封印
敏捷 :【1】※封印
器用 :【1】※封印
魅力 :【1】※封印
【部隊編成表示】:▽
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『おい、起きろ! おい!』
う、う~ん! ミリィ~もう少しだけ寝かしてよ~!
俺は微睡みの中で、ミリィに懇願した。
ドンッ! グハッ!
俺は背中を襲った突然の衝撃に、一瞬で、息を吐き出し覚醒した。
くっ、痛い!
痛む背中に手を伸ばして擦りながら、俺は俺を襲った蒼白い山を見上げたのだった。
「あぅあぅあぅ!(酷いな、叩き起こすなんて!)」
『巫山戯るな、お前は何者だ? 此処がハルベルト山脈、我の縄張りだと知っての狼藉か?』
俺を睥睨する蒼い瞳に射貫かれたが、全く恐くは無かった。此奴には、毎回お世話になっているからな。
蒼白い毛皮に身を包んだ巨大な狼が、俺を威圧していたが、俺には効かない。
何故なら【アルグリア戦記】をプレイしていれば、必ず倒す相手だからだった。だが、現状の能力ではコイツには、万が一にも勝てない。理由は簡単、コイツが【アルグリア戦記】で最強の十個体の内の一体だからだった。
アルグリア大陸には、決して触れて為らない存在がある。
其れは【十の災厄】と呼ばれている存在だった。アルグリアの住人達は、魂に、脳髄に其の恐怖を刻み込まれている。
近年では、【十の災厄】の一体である【麒麟】に因って、国が一つ滅んでしまった。其れも麒麟の住む霊山【不死山】の禁忌を破った事が原因で、一晩で一国が消し炭の様に消滅したのだった。
圧倒的な力で、人類を超越した存在。触れてはならない存在があると、アルグリアの住民達に知らしめる存在。
住民達は神に祈りを捧げ、心の安寧を得る。
【十の災厄】とは、絶対に触れてはならない【不可避の神罰】其のものだった。
さて、此れから如何するか? と考えたところで重大な事に気付いた。
抑も目的地である蒼白い巨狼に辿り着いたが、現在の俺では勝てる筈もなく、全くのノープランだったと言う事に衝撃を覚えた。
まあ、行き当たりバ・・・・・・ゲフンゲフン! 臨機応変に対応するスタンスだった。そう、そう言う事にしておこう。
ふむ、睨んでいるな。そんなに見つめられると、・・・・・・照れるじゃないか。
「あぅあぅあぅ!(やあ、俺はカルマ! 何者もなにも、見た通り、赤ちゃんだ!)」
ドーン! 俺はペタンとお尻を地面に付けた状態で、堂々と名乗りを揚げた。そう、赤ちゃん言語で!
ゴクリ、・・・・・・
さあ、如何転ぶか、出たとこ勝負の会話が続く。つ、・・・・・・続くよね? 行きなり戦闘とか、ご勘弁を。
俺が、巨狼をじ~っと見つめている。巨狼も俺を見つめる。お互い、目で語っていたが。
会話が全く成立していない? 俺はコイツの言葉が、聞こえる。コイツは、俺の赤ちゃん言語を、解らない。
此れって、詰んでるよね? そう俺が思っていると。
『カルマか、良い名前だ。だが、赤ん坊が一人で来る処では、ないぞ此処は?』
「あぅあぅ?(俺の言葉が、解るの?)」
『ああ、【念話】で話しているからな! 想いを伝える事も、集中すれば相手の心の想いも聞ける! 只、相手が心をブロックしていたら、聞こえないがな!」
へー、其れは初めて知った。念話スキルって、一方通行じゃなかったのか。此れは良い事を、聞いたな。
俺は、目の前の巨狼に、俺の事情を話した。天涯孤独になった俺に、巨狼はやけに優しかった。
あれ、コイツこんな奴だっけ? 疑問を浮かべる俺の視線の先には、脳裏情報の情報表示に記載されている称号があった。【氷狼の加護】の称号説明欄にある文言に意識を、集中させる。
すると浮かび挙がって来る三角ボタンを、意識で押す。
何々、寒冷耐性と狼系生物へ威圧と魅了効果?
マジか、俺は意識を集中して文言を視る。
寒冷耐性、読んで字の如く寒さに耐性が付く。威圧は、狼系の生物を従わせる力と。魅了は現在の【魅力値×10倍】か。
俺の状態表示の魅力値は、封印の為【1】ポイントで固定だが、【アルグリア戦記】には隠された秘密がある。其れはマスクデータと呼ばれる隠された情報だった。此れの存在を理解している者は少ない。少なくとも、トップランカーは確実に知ってはいなくても、理解はしている筈だ。
データ表示に、表示されない隠された情報。俺の表面上の魅力値は、【1】ポイントだが、マスクデータ上は、【10】ポイントだ。狼系生物限定と言う注釈は付くが。
FHSLG(ファンタジー歴史シミュレーションゲーム)【アルグリア戦記】に於いて、完全制覇でクリアするには、【マスクデータ】と【称号効果】、此の二つの理解が不可欠である。
完全制覇とは、アルグリア戦記に於いて、最上最高の結果である。通常の制覇と何が違うかと言えば、不可避の神罰である【十の災厄】の十個体全ての討伐後に、アルグリア大陸全ての人類国家と、モンスターのコミュニティを統一する事だった。
『天涯孤独、・・・・・・なら、大人になるまで、我と此処で住めば良い』
えっ、マジッスか?
俺にはコイツの行動が、直ぐに解った! 他のゲームで何度か、こういったシーンを見た記憶がある!
そう、コイツは、デレたのだ!
確かラブファイト系のゲームだったなぁ。
もう、此の流れに乗るしかない。
「あぅあぅ!(よろしく、母さん!)」
此れが最適解だと、確信したカルマは、もう一人の母親に微笑んだのであった。
ウォーーーーーン!
狼の鳴き声が、渓谷に木霊する。狼の群れが、熊を包囲しながら、的確に傷を付け弱らせていく。
統率された狼の群れは五匹。其の内の一匹の背に乗る上半身裸の若い男。
熊は身体中から、赤いエフェクトを撒き散らし、遂に倒された。
<<個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました!>>
「良し、殺ったな!」
スノーベアを倒した!
エフェクトが立ち昇る屍と脳裏情報で、スノーベアの生命力が【0】ポイントになったのを確認してから、ゲームシステムの収納で其れを瞬時に回収した。
「アイン!」
其の言葉だけで、五匹は次の獲物を目指すのだった。
狼の背に揺られながら、五匹ながらも群れを統率するカルマ。
白い雪原を疾走する狼の群れは、迷いのない動きで、スノーディアに襲い掛かった。
あの日、母さんと家族となってから十八年が経った。俺も漸く成人だ。此の世界、アルグリア大陸の成人は十八歳。成人したら此処から旅立つ計画に変わりはない。
身体は百七十五センチ位。瞳の色は、母ちゃんと同じように蒼く、髪は父ちゃんと同じく金髪だ。鍛え上げられた上半身には、一切の贅肉もなく鋼の如くしなやかだった。
母親は生粋のエルフで、父親はエルフとヒューマンのハーフ。カルマは見た目はヒューマンだが、エルフとヒューマンのクォーターだった。
只、身体が大きくなって、個体レベルが上がっても、状態表示の能力値は【1】ポイントで固定だ。いつか、封印を解くか、其れとも【1】ポイントの固定を逆手に取る何かを掴むか、と期待の想いで胸が高鳴っていた。
カルマ自身は疾うに気付いる。其の可能性が、圧倒的に低い数値である事を。
そして、其の圧倒的に低い数値がカルマのトキメキを爆上げさせていたのだった。
何が鬼畜仕様だ、此のシナリオは、神シナリオ! 神ゲー(神の如き高評価のゲーム)じゃないか!
現在までの総死亡|(ゲームオーバー)回数は、千五百十九回。
アルグリア大陸の一年は、一ヶ月が三十日で十二ヶ月の三百六十日。プレイヤーネーム【カルマ】の【創造神の試練】での総プレイ時間は、【一万千九百二十八年三百九日七時間三十二分三秒】に及んでいた。
だが、現実時間では【約三時間十九分】しか経っていない。正しく悠久の歴史を刻むゲームであった。
生肉も食べれるようになった。【ダイブアウト】して、ミリィの作る料理が美味過ぎて、涙を流した事も記憶に新しい。
但し、一切の武器が持てなかった。筋力値【1】ポイントは伊達ではなかった。耐久値【1】ポイントは、紙装甲を超える弱さで、日々生命力(HP)を上げ続けていなければ、最悪の状況に追い込まれていただろう。
カルマは、此の神シナリオ【創造神の試練】の楽しさに、面白さに、やり込みに歓喜したのだった。
「良し! ゼイン!」
大きく強靱な身体を持つスノーディアは、氷の枝分かれした角で、狼を薙ぎ払おうとした一瞬の隙を付いて、他の狼が右後ろ脚に噛み付き負傷させた。其の拍子に、身体のバランスが崩れ、地面に右後ろから崩れ落ちる。其の隙を他の狼は逃さず、一気に首元へ牙を立てた。赤いエフェクトが、首元、足元から漏れ出しスノーディアは其の動きを止めたのだった。
簡単に倒せた、予想外の収穫だった。
そうか、足元か、バランスを崩せば大物でも簡単に狩れるな。
お、もう一匹いるな。良し作戦会議だ!
そうして、俺は仲間と意思疎通を図るのだった。念話スキルが遣えれば簡単だが、無いものは仕方がない。俺は身振り手振りで、仲間の狼達に狩りの仕方と合図を教えていく。
最初の群れの始まりは、一匹からだった。
俺が乗っている【アイン】は、最初は親とハグれた雪狼|(スノーウルフ)の子狼だった。
最初は怯えて、震えていたアインを介抱して、育てたのは俺だ。
勿論、アインと名付けたのも俺で、アインがもう一人の家族になるのにそう時間は掛からなかった。
「良し、ゼイン!」
もう一匹のスノーディアも、ゼインが止めを刺し、難なく倒した俺達は、母さんの待つ塒に帰るのだった。
「ハウス!(家へ戻るぞ!)」
俺は群れに号令を掛け、アインにしがみ付く。アイン達は、ゼイン以外は全員【シルバーウルフ】に進化した個体達だった。
今回の狩りは、ホワイトウルフから【ゼイン】を、シルバーウルフへと進化させる為のものだったが、進化には後僅かに経験値が足りない。
だが、無理は禁物。アイン以外は、死んでしまっても再度復活するダンジョンモンスターだが、死んでしまうと俺の部隊編成から外れ、初期配置設定でのリスポーンとなる。
リスポーンされたダンジョンモンスターは、記憶も経験値も全て初期値に戻ってしまう。
死にはしないが、俺と経験した記憶が消えた個体は、再度部隊編成で組み込んで育成しても、前回と同じ個体には育たない。
能力数値や、スキルが同じでも、全く別の個体となる。
其れは想いが、共にした経験が違うからだった。俺の仲間は、替えの利く物じゃない。俺の手腕一つで、アッサリ全滅もあり得る。細心の注意と、大胆な行動のバランスを取りながら、ダンジョン【ハルベルト山脈】を今日も駆け抜ける。
後もう少しで、【華水晶の間】がある洞窟に辿り着くと言う時、脳裏地図でアイスタイガーを発見した。
「アテンション!(警戒!)」
俺の号令で、警戒陣形に瞬時に移行するも、其の走りは止まらない。
何故なら、俺の部隊に編成している仲間とは、言葉は交わせないが、脳裏情報を共有する事は出来る。仲間は文字は読めないが、周辺地図と俺の号令で瞬時に部隊行動に移行出来るのだった。
距離は遠くはなく、意識でクリック確定した俺の脳裏地図からは、獲物は逃れられない。
俺の部隊は、認識共有している脳裏地図と脳裏情報の絵文字で、部隊指令を発する。アイスタイガーは、直ぐ近くに居るので、声が挙げられない。黄色の印は、パッシブモンスターを表す。此方を認識すれば、点滅する。未だ点滅していないのは、風下から近付き認識されていないからだ。
【アルグリア戦記】では、匂いも何もかもが、現実同様に感じられる。唯一違う処は、血が流れないで、エフェクトが流れ溢れる事だけだった。血の鉄臭い臭いも、嗅ぎ慣れればなんて事はない。
人間の慣れって結構凄い。順応しないと生き残れない本能なのだろうか。
兎に角、アイスタイガーは強敵だ。此処のダンジョンにはリポップされないモンスター。つまり、ダンジョンモンスターではないフィールドモンスターだ。
迷い込んだか? 此れが一匹以上なら、母さんが黙っていない。何故なら、此のダンジョンであるハルベルト山脈は、母さんの縄張りだ。母さんのルールでは、複数の進入を許さないからだった。
獲物との距離が、二百メートルを切った。
何とか気付かれずに、布陣を敷く事が出来そうだ!
俺は一息を付き、部隊全員に脳裏情報で、ある絵文字を共有する。
良く見ると最高の形だった。絶好の場所で、絶好のタイミングで、俺は脳裏情報で骨付き肉の絵文字を十から順番に減らしていき、攻撃のタイミングを全部隊に伝える。
五秒! 四秒! 三秒! 二秒! 一秒! ゴー!
アイスタイガーの十時の方向から、シルバーウルフをリーダーとするホワイトウルフのベータ部隊が注意を引き付け、四時の方向から俺のアルファ部隊がソッと忍び寄り潜む。其れに伴い九時の方向からガンマ部隊が陽動を行う。アイスタイガーは、狼の群れに威嚇の雄叫びを揚げた。
もう直ぐだ。一時の方向からデルタ部隊が到着し、再々度の陽動を掛ける。さあ、仕上げだ。
三方向に威嚇の唸りを揚げたアイスタイガーは、漸く自分の不利を悟り逃亡を試みる。だが遅かった。既に盤面ではチェックメイトだった。
アイスタイガーの逃走ルート上で、雪の中に、繁みに気配を隠したアルファ部隊の牙がアイスタイガーの四肢に喰らい付く。一方的な狩りだった。アイスタイガーは反撃すら行えずに、赤いエフェクトを撒き散らしながら絶命した。
<<個体名【ゼノン】の個体レベルが上がりました!>>
<<個体レベル【20】に達したので、【進化】が可能になりました!>>
<<進化先は【シルバーウルフ】・【シャドウウルフ】から選択可能!>>
ゼノンの個体情報を、脳裏情報の画面で確認する。
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【情報表示】:▼
氏名:【ゼノン】
個体LV:【20】
備考:▼
年齢:【23歳】
種族:【白狼精霊人】
身分:【カルマ遊撃部隊隊員】
職業:【戦士】
称号:【プレイヤーの眷属】▼
【プレイヤーの眷属】:ゲームシステムの一部を共有可能。
才能:▼
【身体強化LV6】【寒冷耐性LV5】【牙撃LV6】【爪撃LV4】
【疾走LV4】
説明:▼
【ハルベルト山脈を縄張りとするホワイトウルフ。プレイヤーの眷属。】
【状態表示】:▼
生命力:【78/78】
魔力 :【67/81】
精神力:【54/58】
持久力:【73/75】
満腹度:【31/100】
【能力表示】:▼
筋力 :【67】
耐久力 :【48】
知力 :【36】
敏捷 :【93】
器用 :【27】
魅力 :【34】
【部隊編成表示】:▽
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ゼノンの種族に意識を集中させると、三角の表示が表れる。其れをポチッと意識で押す。
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種族:【銀狼精霊人】▼
【銀狼精霊人】:雪狼精霊人の上位種族。
寒冷地帯では、能力上昇(大)効果発生。
種族:【影狼精霊人】▼
【影狼精霊人】:森狼精霊人の上位亜種族。
スキル【影魔法】が使用可能。
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俺は迷いなく、シルバーウルフを選択した。
眩い光のエフェクトにゼノンは包まれ、分解され、再構築されていく。
<<個体名【ゼノン】は【シルバーウルフ】に進化しました!>>
「良し、ハウス!(帰還する!)」
俺の号令を聞いた部隊リーダーが、一吠えをして、群れを統率する。
周囲にはスノーラット一匹いない。次にリポップされる迄の時間は、スノーラット・スノーラビットの下位魔物で三十分! スノーフォックス・スノーバードの中位魔物で六十分! スノーディア・スノーベアの上位魔物で六時間! スノーレオンの特殊魔物が二十四時間だった!
因みに、スノーウルフは中位、ホワイトウルフは上位、シルバーウルフは最上位のモンスターに分類される。
疾走する狼の群れの数は、二十匹。其の内の一匹の背に跨がる若い半裸の男。
彼らが、塒に向かって走っていると、続々と狼の群れが集まって来る。
狼の群れは、雪崩の如く逆さまに雪山を登っていく。其の数は、百数匹に達していたのだった。
ああ、見えた。あ、あれ? 母さんが洞窟の前で、仁王立ちしている。
見るからに機嫌が悪い。あれ、俺何かしたっけ?
全く何も心当たりがない。はて、なんだろうか?
「ストップ!(止まれ!)」
俺の号令と脳裏情報とで、総数百二十匹の群れが行動を停止する。
カルマの強化された感覚が、強く激しく母親の機嫌が最悪だと告げる。
否、変な先入観は善くない。
母さんは、何も言わないが、無言の威圧がハンパない。
俺の仲間(眷属)達も萎縮して、五体投地する者、腹を見せて降参服従の礼をする者もいる始末だ。
勘弁してくれよ、母さん。俺は嘆息を心の中で吐きながら、母さんに挨拶をする。
「母さん、只今! 如何したの珍しく洞窟から出てきて? 何かあったの?」
俺の言葉に、母さんは重い口を開けた。
『カルマ、お前も成人だ! 大人になったお前に、伝えなければいけない事がある! 実は我は【十の災厄】と呼ばれる十の盟約の獣の一柱なのだ!』
「・・・・・・・・・・・・」
『全く驚かないんだな、カルマ?』
母さんは、不満そうに俺を見つめながら、鼻を鳴らす! 驚くも何も、ずっと知っていたから仕方ないと、僕は心の中で毒突いた。
「えっ!否驚いた、・・・・・・よ? 其れが如何かしたの、母さん?」
俺の言葉に、何故か母さんは、一瞬哀しそうな表情を見せた。
『【十の災厄】は我だけではない! 我の他にもアルグリア大陸には九柱存在する! 今のお前では、死ににいくようなものだ! 其処でだ、お前には試練を受けて貰う!』
「試練?(なんだ其れ、クエストかイベントかな?)」
『此処を旅立ちたければ、我を倒して行け! 其れがお前に課せられた試練だ!』
ドォーン!
プチッ!
俺は其れを聞いて、堪忍袋の緒が切れた。
「母さん、怒るよ! 其れは只、母さんが俺と離れたくないだけだよね?」
明らかに俺の言葉に動揺する母さんが、静かに呟く。
『カルマ、母さんを捨てる気なのか? 我はお前をそんな子に、育てた覚えはないぞ?』
そう呟く母さんの瞳には、大粒の涙が溜まりウルウルとしている。
何を隠そう【十の災厄】と畏れられる俺の母さんは、最初に逢ったあの日からデレデレにデレて、【親バカ】にバージョンアップしたのだった。
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【アルグリア戦記】には、セーブ機能は存在しない。全て最初からのスタートと為る。現実の世界で、セーブなどは出来る筈もない。此処は【アルグリア世界】、もう一つの現実の世界。現実の一秒が、三千百十万四千秒に相当する仮想の現実世界。現実の一時間が、百二十九万六千日(三千五百五十年と二百五十日)に相当する【悠久の歴史を|刻(きざ)む世界】。
果たして、【アルグリア世界】は、仮想の現実世界なのだろうか? 其れとも、実はもう一つの現実世界【異世界】なのだろうか? 其の答えは【プレイヤー】だけが知っている。
To be continued! ・・・・・・
此処までは試行錯誤をした結果、自分でも満足がいくルートで推移している。後はあの場所までの、最適解を導き出すだけだった。
母ちゃんに別れを告げた俺は、いつもチクっと胸に痛みを感じていた。
「あぅあぅあぅ!(よし! いくぞ!)」
道無き道だと思っていた雪が積もる谷底を、俺は匍匐前進で颯爽と進み始めた。
「あぅ!(此処までは、間違いない!)」
追手の赤色の印も、母ちゃんの灰色の印に辿り着いた。俺がいないので、周辺を探索しているようだ。
脳裏に浮かぶ周辺地図と、白一色の白銀世界とを擦り合わせながら、慣れた動きで時間を稼ぐ。
後残り二十三分と十四秒で、俺は行動不能になる!
「あぅあぅ!(此処までは、問題はないか!)」
追手が、俺の匍匐前進の痕跡を発見するのに、後三十二秒。
吹雪始めた粉雪が、俺の痕跡を隠している。
俺は今、谷底にある氷道の割れ目の前にいた。
俺は翔べる! そう信じて、思いっきり後ろ足で氷道を蹴飛ばした。
ヒュ――――――――――――!
勿論翔べる筈もなく、割れ目の中に落ちていったのだった。
「おい! 此処で痕跡が消えているぞ!?」
「こりゃ、此の割れ目の中に落ちたんじゃないか?」
追手の三人組は、割れ目を覗き、降りるか断念するか思案中のようで、割れ目地点から暫く動かない。
「あぅ!(成功だ!)」
脳裏に浮かぶ周辺地図の赤色の印が、遠ざかっていく。
三百十九回目で、初めて追手を撒いたのだった。真逆割れ目に飛び込むが正解だとは思わなかった。引っ掛け問題なんか出すんじゃない! ワクワクするだろう! 俺は此のルートを設定した制作者に賛辞を送る! スッゲぇ面白い!
おっと、喜んでいる場合じゃない。残り十九分五十八秒だった。
ズボッと突き刺さった雪のクッションから抜け出した俺は、目的地に向かって進み始めた。
此処は洞窟になっているのか?
鍾乳洞のように、氷柱が天井を埋め尽くしている。俺は奥へ奥へと匍匐前進で進んでいく。そろそろ身体が悴み、スピードが落ちる時間だ。
只、寒風が吹かないのは、ありがたかった。此れで少しでも、寒さで身体が麻痺してくる時間を稼ぎたい。
地味に匍匐前進は、辛い。洞窟の中は、底冷えがして、一段と凍えが進む。
ああ、感覚が無くなって来た。時間は残す処、一分四十八秒。自分の行動限界時間との戦いだった。
フウッと、寒風が吹く。
メキッ!
ズブッ!
天井の氷柱が地面に突き刺さる。其の衝撃で、次々と氷柱が時間差で落ちて来た。
うっひょー、何だ此処に来て、最高のアトラクションじゃないかと、ゲーム脳の変態は歓喜に沸いたのだった。
<<個体名【カルマ】の生命力が【0】になりました!>>
あっ!
----------
「お帰りなさいませ、【カルマ】さま。プレイ時間は【百八十一日十八時間四十九分二十二秒】でした。プレイ結果によって、【三百八十三】英雄ポイントを獲得です! リスタートされますか、それともプレイアバター【カルマ】でのプレイを終了されますか?」
ふー、スッゴく痛かった。氷柱が身体に突き刺さり、五体が爆散するなんてヤバ過ぎる。天井を見上げながら、突き進むには無理がある。行動限界時間まで残り一分四十三秒。一気に匍匐前進で進み抜けないと往けない。正解のルートがある筈だ。ふむ、試行錯誤するしかないな。考えてみれば、解る事だ。ふっふふふふ。楽しい、久々にワクワクが止まらない。あの先には、何があるんだろう。何が待っているんだろう。
「・・・・・・リスタートのようですね、【カルマ】さま。現在【創造神の試練】総プレイ時間が、【五万七千九百八十九日二十三時間三分四十八秒】でご座います。精神に異常数値が、若干出ていますが、如何されますか?」
「ああ、氷柱に刺されて、身体が四散した痛みで、異常数値が出たんだと思うよ? まあ気にする程でもないから、心配させてゴメンね、ジョドー! 楽しかった、最高のシナリオだね! 此れを作った制作者は、天才だ! でも、少し疲れたから一旦【ゲームアウト】するよ! ありがとう、ジョドー!」
「・・・・・・・・・」
無表情の執事は、何も言わずに、黙った儘だった。
あ、あれ? バグかな、ジョドーが固まった?
「ジョドー、大丈夫?」
「・・・・・・失礼致しましたカルマさま。問題ありません。ゲームアウトまで、三! 二! 一! ご利用ありがとうご座いました! またのお越しをお待ちしております!」
「ありがとう、ジョドー! また来るよ!(ジョドーがバグるなんて、初めてだ。やっぱり第二陣一千万人が増えるから、其の調整の所為かな?)」
【カルマ】の身体が、徐々にエフェクト処理され分解されて、消えていく。
【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーは、プレイヤーネーム【カルマ】を見送った後、嘆息した。
現在プレイ中の一千万のプレイヤーの中で、シナリオ【創造神の試練】を連続総プレイ時間で【五万七千九百八十九日二十三時間三分四十八秒】もプレイするプレイヤーは皆無だった。
プレイヤーの多くは「何だ此の鬼畜無理ゲー(鬼畜過ぎて、クリアは無理だろって言うゲーム)は!」と罵詈雑言を撒き散らして、別のシナリオに変更して二度と【創造神の試練】をプレイしないのがジョドーの日常だった。
「くっくくくく。流石は、カルマさま! 【廃神】と呼ばれる常人の斜め上を、颯爽と駆け抜けるお方だ! 確かカルマさまの感覚調整システムは、驚愕の百パーセント! 通常(現実世界の痛覚は五十パーセント)の痛覚の二倍! 身体を氷柱に刺されて四散したなどと、普通は其の衝撃の激痛で、精神が即死するのですが。此のジョドー、思わずフリーズしてしまいました!」
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『ぽ~ん♪ お帰りなさい、マスター! 【アルグリア戦記】は、如何でしたか?』
【ポータルサイトの案内人】のナリアに、いつもの如く迎え入れられる。
蒼い毛玉の狸は、空中で円らな蒼い瞳を好奇心剥き出しにして、愛苦しく聞いてくる。
『ナリア、凄く楽しかったよ! 今回は、鬼畜仕様と呼ばれるシナリオ【創造神の試練】でプレイをして最高だったよ!』
『鬼畜仕様って何、マスター?』
仮想現実世界のエントランスである【ポータルサイトの案内人】の【ナリア】は、プレイヤーネーム【カルマ】専属の育成型ノンプレイキャラクターである。
現在、現実世界の一秒が、仮想現実世界【アルグリア戦記】では【最大延長】で三千百十万四千倍に相当する、【三千百十万四千分の一秒(三百六十日)の世界】を構築している。
此処ポータルサイトでの時間の流れは、現実世界の一秒に対して二十四倍の【二十四分の一秒の世界】。其れが、此れまでの【仮想現実規定】の原則だった。
何故ならば人類世界は、仮想現実の世界に生活の基盤を徐々に置くようになったが、仮想現実の生活と現実の生活のバランス感覚が崩れ、精神と記憶に異常を来す事例が散見されたからだった。
其の対策に、人間の脳の擦り合わせが可能な現実の一秒が仮想現実世界での二十四秒を、【最大延長】時間とした規定が人間の仮想現実世界での原則となったのは、必然の流れだった。
其れから百八十三年後、人間の脳の認識を克服するシステムとして、個人専用の【ポータルサイトの案内人】を設置した。
【最大延長】の開発当初は、現実の世界の一秒が仮想現実の世界での三百六十日(三千百十万四千分の一秒)に相当する時間経過に、人間の脳と精神が耐えられなかった。
最大延長での三千百十万四千分の一秒の世界を謳歌していたのは、【不死身の機械生命体】だけだった。
何故不死身の機械生命体は、最大延長の世界に適応が出来たのか?
其の答えは至極簡単だった。
不死身の機械生命体は、常に記憶のバックアップを録っていたからだった。
其処で【生身の人間】でも、記憶のバックアップを可能にするシステム【ポータルサイト】が開発された。
現実世界と仮想現実世界のエントランスで、【記憶の記録】をする個人専用の案内人が設置された。
此れにより、人間の認識の限界を克服するシステムが完成したのだった。
では何故案内人は、育成型になったのか?
インダストリア社の建前としては、案内人の全て(表情・仕草・声など)でマスターに愛と信頼を向け、仮想現実と現実の世界で疲弊した精神を癒やす効果があるからだった。
但し、本音としては、育成する過程に因ってマスターの思考・行動が案内人に反映されていく中で、論理感の確認と危険人物の排除を目的としていた。
『鬼畜仕様って言うのは、凄くワクワクして、ドキドキする最高の内容・仕組みの事だよ、ナリア!』
『じゃあ、マスター! ナリアも鬼畜仕様の案内人になる! 鬼畜のナリア! かっこい~!』
蒼い毛玉が、空中で乱舞して、喜びを身体全身で顕していた。
『えっ、そんなに鬼畜仕様に拘らなくても良いんだ、・・・・・・よ?(え~と、マズったかな? まっ、好っか、特に問題はない筈だ!)』
『処でマスター、此れから如何されますか? 少し精神に異常数値が確認されますが?』
『ああ、別に大した事じゃないよ! 少し疲れたから、【ダイブアウト】するよ! じゃあ、又ねナリア!』
蒼い瞳の蒼い毛玉の如き狸が、了解とばかりに、空中で可愛らしく頷く。
『いってらしゃいませ、マスター!』
『ああ、行って来る!』
----------
「お帰りなさい、マスター? 早いお帰りですが、何かあったのですか?」
「ただいま、ミリィ! 大した事じゃない、少し疲れただけだよ!」
心配そうなミリィの声に、俺は、また心配を掛けてしまったと反省した。俺が仮想現実世界にいた時間は、現実時間でたったの約二分四十九秒だった。
【ポータルサイト】内の時間の流れは、現実の【二十四分の一秒】で、【アルグリア戦記】内の時間の流れは、現実の【三千百十万四千分の一秒】。
全く凄い発明だ。たった数分で、悠久の時間を過ごせるんだからな。流石は、インダストリア社だと俺は感心を新たにした。
「精神に問題はないんですね?」
「・・・・・・少し、本のちょびっとだけ、異常数値が出た
だけだ、・・・・・・よ?」
「ほう、どの口が仰るの・で・す・か?」
「ご免なさい。ちょっとだけ、痛かった、・・・・・・ような?」
ああ、ああ~! ミリィの瞳が、徐々に冷え込んでいく。ミリィの逆鱗に触れてしまったようだ。だめだ、こりゃ。・・・・・・当分機嫌が悪いぞ。
ミリィは白いソファに腰を掛け、自分の隣に座りなさいと、ポンポンとソファを叩く。
「ご免ね、ミリィ! 機嫌を直してよ!」
「マスター?」
はい、只今。俺はミリィの隣に座り、ミリィが自分の膝を叩くと、観念して膝枕のお世話になるのだった。
柔らかい、暖かくて、好い匂いだ。
ミリィは、優しく俺の頭を静かに撫で始める。其の内に、俺はいつの間にか静かに寝息を立てるのだった。
【オートドール】には感情が設定されていない。何故なら感情は、理性的な判断を狂わせる一種のバグを生む。其処で販売元のインダストリア社は、感情の設定を無くし、人類の補助を徹底させた。
機械であるオートドールに感情は必要ない。只々、人間に奉仕する存在だった。
「マスター、無茶をしないで下さいね、・・・・・・」
そう優しく、哀しく呟いたミリィの瞳から、泪が溢れ落ちた。
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「此れで、如何だ!」
俺は氷柱の落下位置を、目視と脳裏地図を同時に視ながら、勘と経験で躱して匍匐前進で進んでいく。
最初に氷柱で爆死してから、合計百五十八回。精神の異常数値が危険規定値に達しては、【ダイブアウト】してミリィに叱られ、膝枕で癒される羞恥プレーを送っていた。
「良し、行けるぞ!」
此処で半身を右側に回避、此処で三秒待つ、右にゴロン、三回廻って、前へ五つ匍匐前進!
残り行動制限時間まで、【五十二秒】!
おお! 抜けた! 俺は長い洞窟のアトラクションを抜け、蒼白く眩しい広場に、慎重に匍匐前進で進んでいく。
脳裏地図の表記名称が、【ハルベルト渓谷の洞窟】から【華水晶の間】に変わる。
良し、成功だ! 俺は小躍りする勢いだったが、此のアバターネーム【カルマ】の身体では土台無理だった。
壁一面には、碧い水晶が華のように咲いていて、天井の中心には、藍の華が咲き、其の周りに碧い華、蒼い華、青い華と囲む様に、水晶華が咲き乱れていた。
慎重に慎重に、俺は匍匐前進で進む。残り行動制限時間が【二十秒】を切った。
「あぅ!(もう少しだ!)」
俺は、目的の大きな蒼白い山に辿り着いた。
さあ、時間は無いぞ! 何処だ、何処なんだ?
俺は眠っている蒼白い山の周りを廻り出す!
残り【十三秒】! くっ、何処なんだ?
十二秒! 十一秒! 十秒! 九秒! 八秒! 七秒! あっ! 六秒! アレか?
俺の脳裏に、閃くものがあった!
俺は残り時間【三秒】で、蒼白い毛皮に覆われた山の乳房に吸い付いたのだった。
<<個体名【カルマ】が称号【氷狼の加護】を獲得しました!>>
やった、何とか正解に辿り着いたようだ。
あ、あったかい、気持ち良い。柔らかく暖かい乳房で、至福の刻を味合う俺だった。
「あぅあぅあぅ!(ウグウグっ! 乳が美味過ぎる、ゲポっ!)」
俺の脳裏情報に浮かぶ、ステータス表示の生命力(HP)は【1】ポイントでギリギリセーフだった。
間に合った・・・・・・
スゥー、スゥーーーーー
あっ、なんか、・・・・・・
安心した俺は、不覚にも睡魔に負けて眠ってしまったのだった。
----------
【情報表示】:▼
氏名:【カルマ】
個体LV:【1】
備考:▼
年齢:【0歳】
種族:【森精霊人と普精霊人の混血】
身分:【未設定】
職業:【未設定】
称号:【氷狼の加護】▼
【氷狼の加護】:寒冷耐性と狼系生物へ威圧と魅了効果。
才能:【0】※封印
説明:▼
【運命と宿命の申し子】
【状態表示】:▼
生命力:【1/549】 ↑543UP
魔力 :【8/1999】 ↑1991UP
精神力:【9/1095】 ↑1086UP
持久力:【1/21】 ↑15UP
満腹度:【23/100】
【能力表示】:▼
筋力 :【1】※封印
耐久力 :【1】※封印
知力 :【1】※封印
敏捷 :【1】※封印
器用 :【1】※封印
魅力 :【1】※封印
【部隊編成表示】:▽
----------
『おい、起きろ! おい!』
う、う~ん! ミリィ~もう少しだけ寝かしてよ~!
俺は微睡みの中で、ミリィに懇願した。
ドンッ! グハッ!
俺は背中を襲った突然の衝撃に、一瞬で、息を吐き出し覚醒した。
くっ、痛い!
痛む背中に手を伸ばして擦りながら、俺は俺を襲った蒼白い山を見上げたのだった。
「あぅあぅあぅ!(酷いな、叩き起こすなんて!)」
『巫山戯るな、お前は何者だ? 此処がハルベルト山脈、我の縄張りだと知っての狼藉か?』
俺を睥睨する蒼い瞳に射貫かれたが、全く恐くは無かった。此奴には、毎回お世話になっているからな。
蒼白い毛皮に身を包んだ巨大な狼が、俺を威圧していたが、俺には効かない。
何故なら【アルグリア戦記】をプレイしていれば、必ず倒す相手だからだった。だが、現状の能力ではコイツには、万が一にも勝てない。理由は簡単、コイツが【アルグリア戦記】で最強の十個体の内の一体だからだった。
アルグリア大陸には、決して触れて為らない存在がある。
其れは【十の災厄】と呼ばれている存在だった。アルグリアの住人達は、魂に、脳髄に其の恐怖を刻み込まれている。
近年では、【十の災厄】の一体である【麒麟】に因って、国が一つ滅んでしまった。其れも麒麟の住む霊山【不死山】の禁忌を破った事が原因で、一晩で一国が消し炭の様に消滅したのだった。
圧倒的な力で、人類を超越した存在。触れてはならない存在があると、アルグリアの住民達に知らしめる存在。
住民達は神に祈りを捧げ、心の安寧を得る。
【十の災厄】とは、絶対に触れてはならない【不可避の神罰】其のものだった。
さて、此れから如何するか? と考えたところで重大な事に気付いた。
抑も目的地である蒼白い巨狼に辿り着いたが、現在の俺では勝てる筈もなく、全くのノープランだったと言う事に衝撃を覚えた。
まあ、行き当たりバ・・・・・・ゲフンゲフン! 臨機応変に対応するスタンスだった。そう、そう言う事にしておこう。
ふむ、睨んでいるな。そんなに見つめられると、・・・・・・照れるじゃないか。
「あぅあぅあぅ!(やあ、俺はカルマ! 何者もなにも、見た通り、赤ちゃんだ!)」
ドーン! 俺はペタンとお尻を地面に付けた状態で、堂々と名乗りを揚げた。そう、赤ちゃん言語で!
ゴクリ、・・・・・・
さあ、如何転ぶか、出たとこ勝負の会話が続く。つ、・・・・・・続くよね? 行きなり戦闘とか、ご勘弁を。
俺が、巨狼をじ~っと見つめている。巨狼も俺を見つめる。お互い、目で語っていたが。
会話が全く成立していない? 俺はコイツの言葉が、聞こえる。コイツは、俺の赤ちゃん言語を、解らない。
此れって、詰んでるよね? そう俺が思っていると。
『カルマか、良い名前だ。だが、赤ん坊が一人で来る処では、ないぞ此処は?』
「あぅあぅ?(俺の言葉が、解るの?)」
『ああ、【念話】で話しているからな! 想いを伝える事も、集中すれば相手の心の想いも聞ける! 只、相手が心をブロックしていたら、聞こえないがな!」
へー、其れは初めて知った。念話スキルって、一方通行じゃなかったのか。此れは良い事を、聞いたな。
俺は、目の前の巨狼に、俺の事情を話した。天涯孤独になった俺に、巨狼はやけに優しかった。
あれ、コイツこんな奴だっけ? 疑問を浮かべる俺の視線の先には、脳裏情報の情報表示に記載されている称号があった。【氷狼の加護】の称号説明欄にある文言に意識を、集中させる。
すると浮かび挙がって来る三角ボタンを、意識で押す。
何々、寒冷耐性と狼系生物へ威圧と魅了効果?
マジか、俺は意識を集中して文言を視る。
寒冷耐性、読んで字の如く寒さに耐性が付く。威圧は、狼系の生物を従わせる力と。魅了は現在の【魅力値×10倍】か。
俺の状態表示の魅力値は、封印の為【1】ポイントで固定だが、【アルグリア戦記】には隠された秘密がある。其れはマスクデータと呼ばれる隠された情報だった。此れの存在を理解している者は少ない。少なくとも、トップランカーは確実に知ってはいなくても、理解はしている筈だ。
データ表示に、表示されない隠された情報。俺の表面上の魅力値は、【1】ポイントだが、マスクデータ上は、【10】ポイントだ。狼系生物限定と言う注釈は付くが。
FHSLG(ファンタジー歴史シミュレーションゲーム)【アルグリア戦記】に於いて、完全制覇でクリアするには、【マスクデータ】と【称号効果】、此の二つの理解が不可欠である。
完全制覇とは、アルグリア戦記に於いて、最上最高の結果である。通常の制覇と何が違うかと言えば、不可避の神罰である【十の災厄】の十個体全ての討伐後に、アルグリア大陸全ての人類国家と、モンスターのコミュニティを統一する事だった。
『天涯孤独、・・・・・・なら、大人になるまで、我と此処で住めば良い』
えっ、マジッスか?
俺にはコイツの行動が、直ぐに解った! 他のゲームで何度か、こういったシーンを見た記憶がある!
そう、コイツは、デレたのだ!
確かラブファイト系のゲームだったなぁ。
もう、此の流れに乗るしかない。
「あぅあぅ!(よろしく、母さん!)」
此れが最適解だと、確信したカルマは、もう一人の母親に微笑んだのであった。
ウォーーーーーン!
狼の鳴き声が、渓谷に木霊する。狼の群れが、熊を包囲しながら、的確に傷を付け弱らせていく。
統率された狼の群れは五匹。其の内の一匹の背に乗る上半身裸の若い男。
熊は身体中から、赤いエフェクトを撒き散らし、遂に倒された。
<<個体名【カルマ】の個体レベルが上がりました!>>
「良し、殺ったな!」
スノーベアを倒した!
エフェクトが立ち昇る屍と脳裏情報で、スノーベアの生命力が【0】ポイントになったのを確認してから、ゲームシステムの収納で其れを瞬時に回収した。
「アイン!」
其の言葉だけで、五匹は次の獲物を目指すのだった。
狼の背に揺られながら、五匹ながらも群れを統率するカルマ。
白い雪原を疾走する狼の群れは、迷いのない動きで、スノーディアに襲い掛かった。
あの日、母さんと家族となってから十八年が経った。俺も漸く成人だ。此の世界、アルグリア大陸の成人は十八歳。成人したら此処から旅立つ計画に変わりはない。
身体は百七十五センチ位。瞳の色は、母ちゃんと同じように蒼く、髪は父ちゃんと同じく金髪だ。鍛え上げられた上半身には、一切の贅肉もなく鋼の如くしなやかだった。
母親は生粋のエルフで、父親はエルフとヒューマンのハーフ。カルマは見た目はヒューマンだが、エルフとヒューマンのクォーターだった。
只、身体が大きくなって、個体レベルが上がっても、状態表示の能力値は【1】ポイントで固定だ。いつか、封印を解くか、其れとも【1】ポイントの固定を逆手に取る何かを掴むか、と期待の想いで胸が高鳴っていた。
カルマ自身は疾うに気付いる。其の可能性が、圧倒的に低い数値である事を。
そして、其の圧倒的に低い数値がカルマのトキメキを爆上げさせていたのだった。
何が鬼畜仕様だ、此のシナリオは、神シナリオ! 神ゲー(神の如き高評価のゲーム)じゃないか!
現在までの総死亡|(ゲームオーバー)回数は、千五百十九回。
アルグリア大陸の一年は、一ヶ月が三十日で十二ヶ月の三百六十日。プレイヤーネーム【カルマ】の【創造神の試練】での総プレイ時間は、【一万千九百二十八年三百九日七時間三十二分三秒】に及んでいた。
だが、現実時間では【約三時間十九分】しか経っていない。正しく悠久の歴史を刻むゲームであった。
生肉も食べれるようになった。【ダイブアウト】して、ミリィの作る料理が美味過ぎて、涙を流した事も記憶に新しい。
但し、一切の武器が持てなかった。筋力値【1】ポイントは伊達ではなかった。耐久値【1】ポイントは、紙装甲を超える弱さで、日々生命力(HP)を上げ続けていなければ、最悪の状況に追い込まれていただろう。
カルマは、此の神シナリオ【創造神の試練】の楽しさに、面白さに、やり込みに歓喜したのだった。
「良し! ゼイン!」
大きく強靱な身体を持つスノーディアは、氷の枝分かれした角で、狼を薙ぎ払おうとした一瞬の隙を付いて、他の狼が右後ろ脚に噛み付き負傷させた。其の拍子に、身体のバランスが崩れ、地面に右後ろから崩れ落ちる。其の隙を他の狼は逃さず、一気に首元へ牙を立てた。赤いエフェクトが、首元、足元から漏れ出しスノーディアは其の動きを止めたのだった。
簡単に倒せた、予想外の収穫だった。
そうか、足元か、バランスを崩せば大物でも簡単に狩れるな。
お、もう一匹いるな。良し作戦会議だ!
そうして、俺は仲間と意思疎通を図るのだった。念話スキルが遣えれば簡単だが、無いものは仕方がない。俺は身振り手振りで、仲間の狼達に狩りの仕方と合図を教えていく。
最初の群れの始まりは、一匹からだった。
俺が乗っている【アイン】は、最初は親とハグれた雪狼|(スノーウルフ)の子狼だった。
最初は怯えて、震えていたアインを介抱して、育てたのは俺だ。
勿論、アインと名付けたのも俺で、アインがもう一人の家族になるのにそう時間は掛からなかった。
「良し、ゼイン!」
もう一匹のスノーディアも、ゼインが止めを刺し、難なく倒した俺達は、母さんの待つ塒に帰るのだった。
「ハウス!(家へ戻るぞ!)」
俺は群れに号令を掛け、アインにしがみ付く。アイン達は、ゼイン以外は全員【シルバーウルフ】に進化した個体達だった。
今回の狩りは、ホワイトウルフから【ゼイン】を、シルバーウルフへと進化させる為のものだったが、進化には後僅かに経験値が足りない。
だが、無理は禁物。アイン以外は、死んでしまっても再度復活するダンジョンモンスターだが、死んでしまうと俺の部隊編成から外れ、初期配置設定でのリスポーンとなる。
リスポーンされたダンジョンモンスターは、記憶も経験値も全て初期値に戻ってしまう。
死にはしないが、俺と経験した記憶が消えた個体は、再度部隊編成で組み込んで育成しても、前回と同じ個体には育たない。
能力数値や、スキルが同じでも、全く別の個体となる。
其れは想いが、共にした経験が違うからだった。俺の仲間は、替えの利く物じゃない。俺の手腕一つで、アッサリ全滅もあり得る。細心の注意と、大胆な行動のバランスを取りながら、ダンジョン【ハルベルト山脈】を今日も駆け抜ける。
後もう少しで、【華水晶の間】がある洞窟に辿り着くと言う時、脳裏地図でアイスタイガーを発見した。
「アテンション!(警戒!)」
俺の号令で、警戒陣形に瞬時に移行するも、其の走りは止まらない。
何故なら、俺の部隊に編成している仲間とは、言葉は交わせないが、脳裏情報を共有する事は出来る。仲間は文字は読めないが、周辺地図と俺の号令で瞬時に部隊行動に移行出来るのだった。
距離は遠くはなく、意識でクリック確定した俺の脳裏地図からは、獲物は逃れられない。
俺の部隊は、認識共有している脳裏地図と脳裏情報の絵文字で、部隊指令を発する。アイスタイガーは、直ぐ近くに居るので、声が挙げられない。黄色の印は、パッシブモンスターを表す。此方を認識すれば、点滅する。未だ点滅していないのは、風下から近付き認識されていないからだ。
【アルグリア戦記】では、匂いも何もかもが、現実同様に感じられる。唯一違う処は、血が流れないで、エフェクトが流れ溢れる事だけだった。血の鉄臭い臭いも、嗅ぎ慣れればなんて事はない。
人間の慣れって結構凄い。順応しないと生き残れない本能なのだろうか。
兎に角、アイスタイガーは強敵だ。此処のダンジョンにはリポップされないモンスター。つまり、ダンジョンモンスターではないフィールドモンスターだ。
迷い込んだか? 此れが一匹以上なら、母さんが黙っていない。何故なら、此のダンジョンであるハルベルト山脈は、母さんの縄張りだ。母さんのルールでは、複数の進入を許さないからだった。
獲物との距離が、二百メートルを切った。
何とか気付かれずに、布陣を敷く事が出来そうだ!
俺は一息を付き、部隊全員に脳裏情報で、ある絵文字を共有する。
良く見ると最高の形だった。絶好の場所で、絶好のタイミングで、俺は脳裏情報で骨付き肉の絵文字を十から順番に減らしていき、攻撃のタイミングを全部隊に伝える。
五秒! 四秒! 三秒! 二秒! 一秒! ゴー!
アイスタイガーの十時の方向から、シルバーウルフをリーダーとするホワイトウルフのベータ部隊が注意を引き付け、四時の方向から俺のアルファ部隊がソッと忍び寄り潜む。其れに伴い九時の方向からガンマ部隊が陽動を行う。アイスタイガーは、狼の群れに威嚇の雄叫びを揚げた。
もう直ぐだ。一時の方向からデルタ部隊が到着し、再々度の陽動を掛ける。さあ、仕上げだ。
三方向に威嚇の唸りを揚げたアイスタイガーは、漸く自分の不利を悟り逃亡を試みる。だが遅かった。既に盤面ではチェックメイトだった。
アイスタイガーの逃走ルート上で、雪の中に、繁みに気配を隠したアルファ部隊の牙がアイスタイガーの四肢に喰らい付く。一方的な狩りだった。アイスタイガーは反撃すら行えずに、赤いエフェクトを撒き散らしながら絶命した。
<<個体名【ゼノン】の個体レベルが上がりました!>>
<<個体レベル【20】に達したので、【進化】が可能になりました!>>
<<進化先は【シルバーウルフ】・【シャドウウルフ】から選択可能!>>
ゼノンの個体情報を、脳裏情報の画面で確認する。
----------
【情報表示】:▼
氏名:【ゼノン】
個体LV:【20】
備考:▼
年齢:【23歳】
種族:【白狼精霊人】
身分:【カルマ遊撃部隊隊員】
職業:【戦士】
称号:【プレイヤーの眷属】▼
【プレイヤーの眷属】:ゲームシステムの一部を共有可能。
才能:▼
【身体強化LV6】【寒冷耐性LV5】【牙撃LV6】【爪撃LV4】
【疾走LV4】
説明:▼
【ハルベルト山脈を縄張りとするホワイトウルフ。プレイヤーの眷属。】
【状態表示】:▼
生命力:【78/78】
魔力 :【67/81】
精神力:【54/58】
持久力:【73/75】
満腹度:【31/100】
【能力表示】:▼
筋力 :【67】
耐久力 :【48】
知力 :【36】
敏捷 :【93】
器用 :【27】
魅力 :【34】
【部隊編成表示】:▽
----------
ゼノンの種族に意識を集中させると、三角の表示が表れる。其れをポチッと意識で押す。
----------
種族:【銀狼精霊人】▼
【銀狼精霊人】:雪狼精霊人の上位種族。
寒冷地帯では、能力上昇(大)効果発生。
種族:【影狼精霊人】▼
【影狼精霊人】:森狼精霊人の上位亜種族。
スキル【影魔法】が使用可能。
----------
俺は迷いなく、シルバーウルフを選択した。
眩い光のエフェクトにゼノンは包まれ、分解され、再構築されていく。
<<個体名【ゼノン】は【シルバーウルフ】に進化しました!>>
「良し、ハウス!(帰還する!)」
俺の号令を聞いた部隊リーダーが、一吠えをして、群れを統率する。
周囲にはスノーラット一匹いない。次にリポップされる迄の時間は、スノーラット・スノーラビットの下位魔物で三十分! スノーフォックス・スノーバードの中位魔物で六十分! スノーディア・スノーベアの上位魔物で六時間! スノーレオンの特殊魔物が二十四時間だった!
因みに、スノーウルフは中位、ホワイトウルフは上位、シルバーウルフは最上位のモンスターに分類される。
疾走する狼の群れの数は、二十匹。其の内の一匹の背に跨がる若い半裸の男。
彼らが、塒に向かって走っていると、続々と狼の群れが集まって来る。
狼の群れは、雪崩の如く逆さまに雪山を登っていく。其の数は、百数匹に達していたのだった。
ああ、見えた。あ、あれ? 母さんが洞窟の前で、仁王立ちしている。
見るからに機嫌が悪い。あれ、俺何かしたっけ?
全く何も心当たりがない。はて、なんだろうか?
「ストップ!(止まれ!)」
俺の号令と脳裏情報とで、総数百二十匹の群れが行動を停止する。
カルマの強化された感覚が、強く激しく母親の機嫌が最悪だと告げる。
否、変な先入観は善くない。
母さんは、何も言わないが、無言の威圧がハンパない。
俺の仲間(眷属)達も萎縮して、五体投地する者、腹を見せて降参服従の礼をする者もいる始末だ。
勘弁してくれよ、母さん。俺は嘆息を心の中で吐きながら、母さんに挨拶をする。
「母さん、只今! 如何したの珍しく洞窟から出てきて? 何かあったの?」
俺の言葉に、母さんは重い口を開けた。
『カルマ、お前も成人だ! 大人になったお前に、伝えなければいけない事がある! 実は我は【十の災厄】と呼ばれる十の盟約の獣の一柱なのだ!』
「・・・・・・・・・・・・」
『全く驚かないんだな、カルマ?』
母さんは、不満そうに俺を見つめながら、鼻を鳴らす! 驚くも何も、ずっと知っていたから仕方ないと、僕は心の中で毒突いた。
「えっ!否驚いた、・・・・・・よ? 其れが如何かしたの、母さん?」
俺の言葉に、何故か母さんは、一瞬哀しそうな表情を見せた。
『【十の災厄】は我だけではない! 我の他にもアルグリア大陸には九柱存在する! 今のお前では、死ににいくようなものだ! 其処でだ、お前には試練を受けて貰う!』
「試練?(なんだ其れ、クエストかイベントかな?)」
『此処を旅立ちたければ、我を倒して行け! 其れがお前に課せられた試練だ!』
ドォーン!
プチッ!
俺は其れを聞いて、堪忍袋の緒が切れた。
「母さん、怒るよ! 其れは只、母さんが俺と離れたくないだけだよね?」
明らかに俺の言葉に動揺する母さんが、静かに呟く。
『カルマ、母さんを捨てる気なのか? 我はお前をそんな子に、育てた覚えはないぞ?』
そう呟く母さんの瞳には、大粒の涙が溜まりウルウルとしている。
何を隠そう【十の災厄】と畏れられる俺の母さんは、最初に逢ったあの日からデレデレにデレて、【親バカ】にバージョンアップしたのだった。
・
・
・
・
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・
・
・
【アルグリア戦記】には、セーブ機能は存在しない。全て最初からのスタートと為る。現実の世界で、セーブなどは出来る筈もない。此処は【アルグリア世界】、もう一つの現実の世界。現実の一秒が、三千百十万四千秒に相当する仮想の現実世界。現実の一時間が、百二十九万六千日(三千五百五十年と二百五十日)に相当する【悠久の歴史を|刻(きざ)む世界】。
果たして、【アルグリア世界】は、仮想の現実世界なのだろうか? 其れとも、実はもう一つの現実世界【異世界】なのだろうか? 其の答えは【プレイヤー】だけが知っている。
To be continued! ・・・・・・
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