赤ちゃん神に願いを！ 俺はお前で（プレイした）、お前の願いを叶える者（お前自身）だ！

００７．オートドールは嫋（たおやか）に、泪を溢す！

『ぽ～ん♪　お帰りなさい、マスター！　【アルグリア戦記】は、如何どうでしたか？』



【ポータルサイトの案内人】のナリアに、いつもの如ごとく迎むかえ入いれられる。

蒼あおい毛玉けだまの狸たぬきは、空中で円つぶらな蒼あおい瞳ひとみを好奇心こうきしん剥むき出しにして、愛苦あいくるしく聞いてくる。



『ナリア、凄すごく楽しかったよ！　今回は、鬼畜きちく仕様しようと呼ばれるシナリオ【創造神の試練】でプレイをして最高だったよ！』



『鬼畜きちく仕様しようって何なに、マスター？』



仮想現実世界のエントランスである【ポータルサイトの案内人】の【ナリア】は、プレイヤーネーム【カルマ】専属せんぞくの育成型ノーチュリングタイプノンプレイキャラクターである。

現在、現実世界の一秒が、仮想現実世界【アルグリア戦記】では【最大延長マキシマムエクステンション】で三千百十万四千倍に相当そうとうする、【三千百十万四千分の一秒（三百六十日）の世界】を構築こうちくしている。

此処ここポータルサイトでの時間の流れは、現実世界の一秒に対して二十四倍の【二十四分の一秒の世界】。其それが、此これまでの【仮想ヴァーチャル現実リアリティ規定ルール】の原則だった。

何故なぜならば人類じんるい世界せかいは、仮想現実の世界に生活の基盤きばんを徐々じょじょに置くようになったが、仮想現実の生活と現実の生活のバランス感覚かんかくが崩くずれ、精神と記憶に異常いじょうを来きたす事例じれいが散見さんけんされたからだった。

其その対策たいさくに、人・間・の・脳・の・擦・り・合・わ・せ・が・可・能・な現実の一秒が仮想現実世界での二十四秒を、【最大延長マキシマムエクステンション】時間とした規定が人・間・の・仮・想・現・実・世・界・で・の・原・則・となったのは、必然の流れだった。

其それから百八十三年後、人間の脳の認識を克服するシステムとして、個人専用の【ポータルサイトの案内人】を設置した。



【最大延長マキシマムエクステンション】の開発かいはつ当初とうしょは、現実の世界の一秒が仮想現実の世界での三百六十日（三千百十万四千分の一秒）に相当そうとうする時間じかん経過けいかに、人間の脳と精神が耐たえられなかった。

最大延長マキシマムエクステンションでの三千百十万四千分の一秒の世界を謳歌おうかしていたのは、【不死身ふじみの機械きかい生命体せいめいたい】だけだった。

何故なぜ不死身ふじみの機械きかい生命体せいめいたいは、最大延長マキシマムエクステンションの世界に適応てきおうが出来たのか？

其その答えは至極しごく簡単かんたんだった。

不死身ふじみの機械きかい生命体せいめいたいは、常つねに記憶きおくのバックアップを録とっていたからだった。



其処そこで【生身なまみの人間にんげん】でも、記憶きおくのバックアップを可能にするシステム【ポータルサイト】が開発された。

現実世界と仮想現実世界のエントランスで、【記憶の記録メモリーバックアップ】をする個人専用の案内人ナビゲーターが設置せっちされた。

此これにより、人間の認識にんしきの限界げんかいを克服こくふくするシステムが完成したのだった。



では何故なぜ案内人は、育成型ノーチュリングタイプになったのか？

インダストリア社の建前たてまえとしては、案内人の全て（表情・仕草・声など）でマスターに愛と信頼を向け、仮想現実と現実の世界で疲弊ひへいした精神こころを癒いやす効果があるからだった。

但ただし、本音としては、育成する過程かていに因よってマスターの思考・行動が案内人に反映はんえいされていく中で、論理ろんり感かんの確認と危険きけん人物じんぶつの排除はいじょを目的としていた。



『鬼畜きちく仕様しようって言うのは、凄すごくワクワクして、ドキドキする最高さいこうの内容・仕組みの事だよ、ナリア！』



『じゃあ、マスター！　ナリアも鬼畜きちく仕様しようの案内人になる！　鬼畜きちくのナリア！　かっこい～！』



蒼あおい毛玉けだまが、空中で乱舞らんぶして、喜びを身体全身で顕あらわしていた。



『えっ、そんなに鬼畜きちく仕様しように拘こだわらなくても良いんだ、・・・・・・よ？（え～と、マズったかな？　まっ、好いっか、特に問題はない筈はずだ！）』



『処ところでマスター、此これから如何どうされますか？　少し精神に異常いじょう数値すうちが確認されますが？』



『ああ、別に大した事じゃないよ！　少し疲れたから、【ダイブアウト】するよ！　じゃあ、又またねナリア！』



蒼あおい瞳ひとみの蒼あおい毛玉けだまの如ごとき狸たぬきが、了解りょうかいとばかりに、空中くうちゅうで可愛かわいらしく頷うなずく。



『いってらしゃいませ、マスター！』



『ああ、行って来る！』





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「お帰りなさい、マスター？　早いお帰りですが、何かあったのですか？」



「ただいま、ミリィ！　大した事じゃない、少し疲れただけだよ！」



心配そうなミリィの声に、俺は、ま・た・心配を掛けてしまったと反省した。俺が仮想現実世界にいた時間は、現実時間でたったの約二分四十九秒だった。

【ポータルサイト】内の時間の流れは、現実の【二十四分の一秒】で、【アルグリア戦記】内の時間の流れは、現実の【三千百十万四千分の一秒】。

全く凄い発明だ。たった数分で、悠久ゆうきゅうの時間を過ごせるんだからな。流石さすがは、インダストリア社だと俺は感心を新あらたにした。




「精神に問題はないんですね？」



「・・・・・・少し、本のちょびっとだけ、異常いじょう数値すうちが出た
だけだ、・・・・・・よ？」



「ほう、どの口が仰おっしゃるの・で・す・か？」



「ご免めんなさい。ちょっとだけ、痛かった、・・・・・・ような？」



ああ、ああ～！　ミリィの瞳ひとみが、徐々じょじょに冷え込んでいく。ミリィの逆鱗げきりんに触ふれてしまったようだ。だめだ、こりゃ。・・・・・・当分機嫌が悪いぞ。



ミリィは白いソファに腰を掛け、自分の隣となりに座りなさいと、ポンポンとソファを叩く。



「ご免めんね、ミリィ！　機嫌を直してよ！」



「マスター？」



はい、只ただ今いま。俺はミリィの隣となりに座り、ミリィが自分の膝ひざを叩くと、観念かんねんして膝ひざ枕まくらのお世話になるのだった。

柔やわらかい、暖あたたかくて、好いい匂においだ。

ミリィは、優しく俺の頭を静かに撫なで始める。其その内に、俺はいつの間にか静かに寝息を立てるのだった。



【オートドール】には感情が設定されていない。何故なぜなら感情は、理性的な判断を狂わせる一種のバグを生む。其処そこで販売元のインダストリア社は、感情の設定を無くし、人類じんるいの補助ほじょを徹底てっていさせた。

機械であるオートドールに感情は必要ない。只々ただただ、人間に奉仕ほうしする存在そんざいだった。



「マスター、無茶むちゃをしないで下さいね、・・・・・・」



そう優やさしく、哀かなしく呟つぶやいたミリィの瞳ひとみから、泪なみだが溢こぼれ落おちた。








To be続きは  continuedまた次回で！　・・・・・・