赤ちゃん神に願いを！ 俺はお前で（プレイした）、お前の願いを叶える者（お前自身）だ！

００２．魂の慟哭が、境界線を無視し、破壊し、殲滅する！

連邦暦れんぽうれき四千五百六十七年、人類じんるいは現実の一秒が三百六十日に相当する仮想現実の世界を初めて構築こうちくした。其それを成したのは医療研究機関であるインダストリア社だった。

インダストリア社は人間の機械生命体化きかいせいめいたいかを為し遂げた医療研究機関のパイオニアで、現在は不老不死ふろうふし研究に力を入れており、研究の副産物ふくさんぶつとして現実の一秒が三千百十万四千秒に相当する仮想現実の世界を創り上げた。



そうして、前人未踏の仮想現実の世界を構築したインダストリア社は、医療研究いりょうけんきゅうを母体ぼたいとした多角経営たかくけいえいに乗り出し、仮想現実世界を基盤きばんとしたビジネスモデルを世界に提案し、世界は其その恩恵おんけいにより著いちじるしい発展を遂とげるかに見えた。

だが、其その恩恵おんけいを十二分に受けられたのは一・部・の・者・達・だ・け・だった。

【最大延長マキシマムエクステンション】時間での研究開発が仮想現実世界で進められる内に、仮想現実での生活と現実の生活との間での順応じゅんおうの差異さいに、人間の脳の認識にんしきが耐えられ無い事が判明した。現実の一秒で仮想現実世界の三百六十日を体験後に、ログアウトして現実の生活との認識にんしきの擦り合わせが困難な事例が多発し、人・間・の・最・大・延・長・時・間・で・の・使・用・は困難になった。

こうして、人・間・の・脳・の・認・識・の・擦・り・合・わ・せ・が・可・能・な現実の一秒が仮想現実世界での二十四秒を、【最大延長マキシマムエクステンション】時間とした規定が、人・間・の・仮・想・現・実・世・界・の原則げんそくとなった。

現実の一秒が【仮想現実世界の三百六十日】と【仮想現実世界での二十四秒】と比較すると格差は明らかではあるが、其それでも現実の一秒が仮想現実世界では二十四倍に為る恩恵おんけいは人類じんるいに著いちじるしい発展を与えた。



其その恩恵おんけいにより人類じんるいが余暇よかを有意義ゆういぎに過ごせるように、インダストリア社のゲーム開発部門では、数々かずかずの仮想現実ゲームを発売展開していく。



時は流れ百八十三年後、インダストリア社は、人間の脳の認識にんしきの限界を克服こくふくするシステムを完成させ、満まんを持じして現実の一秒が三千百十万四千秒の仮想現実に相当するFHSLG（ファンタジー歴史シミュレーションゲーム）【アルグリア戦記】を発表した。

FHSLG【アルグリア戦記】は、多人数参加型のゲームとして当初開発をスタートさせたが、多人数ではログイン時間の差異さいによって、プレイヤー間かんの連携れんけいに大きな齟齬そごが発生した。其それはゲームの世界観である、歴史変革れきしへんかくを楽しむには向いていなかった。



其その理由から、FHSLG【アルグリア戦記】は、一人用ゲームとして発売され、長きに渡ってゲーム愛好家マニアに愛され続けられる事となる。



連邦暦れんぽうれき四千七百五十年六月、インダストリア社は、FHSLG【アルグリア戦記】のゲーム発売を記念して、仮想現実世界でのお祭りイベントを開催かいさいすると発表した。



イベントの内容は、ゲーム挿入歌そうにゅうかの一般公募いっぱんこうぼで、プロ・アマ・音楽ジャンル問わず、ゲームプレイヤーの魂たましいを揺ゆさぶる自信こそが、唯一の応募の条件だった。

開催場所かいさいばしょは、仮想現実世界【ヴァルハラ】で、審査員しんさいんはイベントに参加する権利を有ゆうするFHSLG【アルグリア戦記】をサービス開始前に事前購入した一千万人と、インダストリア社の主導管理脳メインマネージメントブレイン【マザーアース】だった。





世相せそうとして、仮想現実世界に於おいてテロ行為が多発していた。人類じんるいの貧富ひんぷの差が顕著けんちょに現れる現代、富裕層ふゆうそうであるハイブランドの住民をターゲットにしたものだった。

仮想現実でのテロ行為により、精神に致命傷ちめいしょうを受け脳死するケースが多発していた。テロリストの多くは、何等いずれかの思想を以もって正義を主張する者達だった。



仮想現実世界のテロリストとして、単独でのテロ行為で殺傷さっしょうした総数そうすう百万人越えのテロリストだけで結成した五人組が、当日【ヴァルハラ】のイベントにアーティストとして参加すると表明ひょうめいしていた。

アーティスト名は、【超極悪人オーバーヒール】で、世界を崩壊ほうかいさせると宣言せんげんしていた。事実、彼等かれらの出現しゅつげんにより、イベントは異様いような盛り上がりを見せた。

彼等かれらの演奏に魂たましいを揺ゆさぶられ、其そのまま昇天しょうてんしたイベント参加者もいたが、彼等かれらの目的は違った。彼等かれらの真しんの目的は、【マザーアース】で、主導管理脳メインマネージメントブレインが管理するハイブランドの住民達の思考データだった。

ハイブランドの一握ひとにぎりが人類世界じんるいせかいを支配している。其その多くが機械生命体きかいせいめいたいとなって、永遠の命を得えており、テロ対策として思考データを【マザーアース】に保存ほぞんしていた。



思考データがある限り、何度でも蘇よみがえる機械生命体きかいせいめいたいの抹殺まっさつを、テロリスト達は目論もくろんでいた。



メタルサウンドが鳴なり響ひびき！　メタルシャウトが、魂たましいを濡ぬらす！

エレキの旋律せんりつが、魂たましいを即死そくしさせ、爆破ばくはし、誘爆ゆうばくさせる！

ベースの調しらべが、魂たましいの存在そんざいを確定かくていさせる！

弾詰たまづまりのないツーバスの連撃れんげきが、的確てきかくに魂たましいをドラミングする！

ボーカルの叫さけびが、魂たましいを直撃ちゃくげきし、揺ゆさぶる！

魂の慟哭メタルサウンドが、境界線きょうかいせんを無視むしし、破壊はかいし、殲滅せんめつする！

【超極悪人オーバーヒール】の演奏時間四分十一秒後、仮想現実世界【ヴァルハラ】は崩壊ほうかいした。

其それと同時に、インダストリア本社が大爆発を起こし、主導管理脳メインマネージメントブレイン【マザーアース】は破壊された。

世界は闇やみに閉ざされた。

仮想現実の世界で、人生を謳歌おうかしていた人類じんるいに鉄槌てっついが降くだった瞬間だった。

貧困層ひんこんそうのアンダーグラウンドの住民が、富裕層ふゆうそうのハイブランドの住民に対し、少なからず溜飲りゅういんを下げた瞬間でもあった。







To be続きは  continuedまた次回で！　・・・・・・